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現代ダンジョン奮闘記  作者: だっち
第5層 風神の試練場

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第211話 風鳴《かぜなり》

是非、ブックマークか評価を。

私にガソリンをください!!

風鳴(かぜなり)の中、直哉は歯を食いしばりながら識界(しきかい)を展開する。

あまりの暴風に目も空けられないほどだ。


翼界(よくかい)も気を抜くとまるで木の葉のように飛ばされてしまいそうだ。

それでも識界(しきかい)を拡げ、何かを掴もうと意識を集中する。


(ここか……いや、違う)


直哉は目を閉じた。

柳太郎は戦い方を考えろと言った。

たしかにそうだ、風を攻撃しても意味がないだろう。

本体を仕留めるには、どこかに存在する核を見つけなければならなかった。


(どこだ……)


識界(しきかい)を広げる。

風の流れを追う、魔素の流れを追う。

暴風の中には無数の魔素が入り乱れていたが、その中でふと違和感を覚えた。


「なんか……魔素が濃い場所があるな」

『直哉、こちらでも確認しています』


全体的には均一に見える風の中に、ごく一部だけ色の違う場所がある。

ほんの僅かな差だが、確かにそこだけ魔素が濃い。

核があるとしたらあそこだ。


そう考えて意識を集中させた瞬間だった。


「くそ!」


濃い反応がふっと散った。

風に溶けるように輪郭を失い、跡形もなく消えてしまう。


もう一度探す。

別の場所に濃い反応を見つける。

今度こそ捕まえる。

そう思った瞬間、耳元を鋭い風切り音が掠めた。


反射的に身を沈めると、ついさっきまで頭があった位置を鎌鼬が通り抜ける。


「うおっ!?」


慌てて体制を整える間に、さっきまで追っていた反応は綺麗さっぱり消えていた。


『敵は探査行動を妨害している可能性があります』

「だろうな!」


直哉は舌打ちした。

ようやく見つけたと思ったら逃げる。

追い掛けると鎌鼬が飛んでくる。

回避している間にまた逃げられる。


完全に振り回されていた。

それでも諦めずに識界(しきかい)を広げ続ける。


「見つけた!」

直哉が魔素の濃い反応を捉える。

だが次の瞬間には、その反応がふっと散った。


「また逃げた! どんだけ逃げ足速いんだよ!」

『直哉。対象は北西方向へ移動中です』


「分かってる!」

反応を追う。

ようやく追いついたと思った瞬間、今度は反対側へ逃げられる。


「くそっ、鬼ごっこじゃねえんだぞ!」


その時、識界(しきかい)に鋭い乱れが走る。


『攻撃反応』

「またか!?」


左右から飛来する鎌鼬が見えた。

1発目を身体強化で強引にかわす。

だが2発目は避け切れない。


「邪魔だっ!」

直哉は反射的にバットを振り抜いた。


ガキィンッ!!


金属を叩いたような音と共に鎌鼬が砕け散る。

だが、その間に濃い反応は再び移動していた。


「だから逃げんなって!」

『対象、南方向へ移動』


「くっそ……!」


探すだけでも難しいし、見つけても逃げられる。

しかも嫌がらせみたいに妨害が飛んでくる。

苛立ちばかりが積み重なっていった。


『直哉、情報の視覚変換を実施します』


次の瞬間、識界(しきかい)内に色がついた。

暴風の中を流れる魔素に濃淡が生まれる。


薄い部分は白、濃い部分は青。

さらに濃い部分は紺色。


まるで地図の等高線を見るように、魔素の差が一目で分かるようになっていた。


「おおっ! さすがだイチカ!」

『お任せください』


今まで手探りだった探索が、一気に楽になった。

暴風の中を流れる魔素が濃淡となって見えるだけで、世界がまるで別物に見える。

直哉は逃げ回る青い反応を見つけると、すぐに識界(しきかい)を伸ばした。


「いた! 今度こそ捕まえた――って、また逃げた!」

青い反応が慌てるように移動する。


『対象、東方向へ移動しています』

「見えてる! っていうか、逃げ足速すぎるだろ!」


直哉は空中足場を蹴りながら追い掛ける。

だが距離が縮まりそうになるたびに青い反応は進路を変え、まるでこちらをからかうように暴風の中を泳いでいく。


反応は右へ逃げたかと思えば今度は上昇し、さらに方向を変えて後方へ回り込もうとする。

完全に振り回されていたが、識界(しきかい)で見失うことはなくなった。

今までは逃げられるたびに一から探し直していたのだから、それだけでも大きな進歩だった。


「よし、次はそっちか――ん?」

追跡を続けているうちに、直哉はある違和感に気付いた。


「イチカ。あいつ、移動する時だけ周りの風が変わってないか?」


『分析します』


返答を待つ間にも追跡は続く。

青い反応が進路を変えるたび、その周囲で風属性魔素が一瞬だけ収束しているように見えた。


『確認しました。対象は移動時に周辺の風属性魔素を圧縮、放出しています』

「やっぱりか!」


そう呟いた直後だった。


『攻撃反応を確認』

「来る!」


風が一点へ集まる。

直哉は即座に身体を捻った。

次の瞬間、鎌鼬が頬の横を通り抜ける。

風の刃はそのまま後方へ飛び去り、空間を真っ二つに切り裂いた。


「見切った!」

今までは突然飛んでくるように感じていた攻撃も、今は発射前の予兆が見えている。

風が収束する場所を追えば、どこから攻撃が来るかも分かるのだ。

しかし安心したのも束の間、今度は別方向に風が集まり始める。


「しつっこいぜ!」


2発目の鎌鼬が迫る。

避けるには微妙な角度だった。


直哉は咄嗟に蜻蛉飛び(フリップ・ターン)を発動し、空中で体を翻してかわした。

風の刃が、直前まで頭があった空間を薙ぎ抜けていく。


「よし!」


だが青い反応はその隙に逃げようとしていた。


「そう何回も逃がすか!」


今度は直哉の方が先に動く。

攻撃を見切れるなら、相手の移動先も予測できる。

青い反応が進路を変えるより先に回り込むたびに、相手との距離が詰まっていく。


『解析完了しました。

高密度反応を確認。周囲の魔素密度のおよそ千倍。敵個体の核に相当する構造物と思われます』


「やっぱり核か……!」


散々振り回された末にようやく掴んだ手応えに、直哉は思わず笑みを浮かべた。


* * *


「はぁ!? どこにあんだよそんなもん!」

武虎が叫びながら鎌鼬の斬撃を岩陣で受け流す。

続けて袖がまた裂けた。


「核だって? くっそ風が邪魔で読み切れねえ!」

真弓が銃口を振り回しながら舌打ちする。

砕陣弾を放つが、狙いのない攻撃はやはり風に散らされるだけだった。


「陽平はどうだ!?」

直哉が叫ぶと、陽平は目を閉じたまま小さく頷いた。


精霊顕装(アクア・レゾナンス)を発動し、水の精霊に問いかけるように、木刀を握り直す。

水の精霊が陽平にまとわりつき、荒れ狂う風の中でも形を保っていた。


「……いる、感じるよ。脈打つ感じの魔素だ!」


遠くから、柳太郎の声が届いた。

「よし、そうだ、それが敵の弱点だ!

あとは追い詰めて撃ち砕けばよい」


「くっそ、俺には見えねえ……!」


イチカと陽平の感知を頼りに、直哉たちは核へ意識を向け始めた。

自分では感じ取れない武虎と真弓は、指示された所へ体ごと飛び込むしかない。


「みんな、多分、核は全部で6個だ!」

「わかった!!」


『1つ目、直哉の北北東20メートル、地上から高さ10メートルです」


イチカの声に、直哉は暴風の向こうを見据えた。

風の流れに紛れるように、複数の核が不規則な軌道で飛び回っている。


「よっしゃ、いくぜー!」


翼界(よくかい)に魔素を注ぎ、直哉は勢いよく空へ跳び出した。

荒れ狂う風に煽られながらも、フリップターンを織り交ぜて軌道を修正し、核の動きを追い続ける。


右へ、左へ、急上昇。

一見すると無秩序な動きだったが、観察を続けるうちにわずかな癖が見えてきた。


「そこだぁっ!」

直哉は核の軌道を見切り、先回りする。


「これでどうだっ!」

砕陣をまとったバットを叩きつけるように振り抜いた。


ドゴォッ!


核が砕け、ガラスが弾けるような音が響く。


「よっしゃぁ! 次は――」


そんな余裕を見せた瞬間だった。

砕けた核から暴風が噴き出し、直哉の体を容赦なく吹き飛ばした。


「うおぉっ!?」


視界が激しく回転する。

直哉は翼界(よくかい)を全開にして姿勢制御へ集中し、なんとか体勢を立て直した。

しかし、意識がそれた瞬間を狙って、砕陣をまとったままのバットへ、周囲の風が群がるように集まり始める。


「なんだこれ……!?」


砕陣の魔素が目に見えるほどの勢いで削られていく。

いや、それだけではない。

体内からも魔素が引き抜かれていくような感覚が走った。


「まずい!」


直哉は即座に砕陣を解除する。

途端に吸収は止まり、全身から嫌な汗が噴き出した。


『直哉様、魔素消費量の急増を確認しました』

「危なかった……」


すると、離れた場所にいる柳太郎が声を張り上げた。


「油断するな! 識界(しきかい)翼界(よくかい)と同じだ!

風鳴(かぜなり)は魔素を喰らう!

魔素の密度が薄ければ、あっという間に吸収されるぞ!

濃く練れ! 制御を怠るな! そうしなければ戦う前に干上がる!」


直哉は残る核へ視線を向け、バットを握り直した。

どうやらこの試練は、ただ核を壊せば終わりというわけではなさそうだった。

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