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現代ダンジョン奮闘記  作者: だっち
断章 異世界からの侵略

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246/269

第202話 一週間の猶予

是非、ブックマークか評価を。

私にガソリンをください!!

201話の最初の方にレベルアップの記述を追加しました


* * *


駅から離れた古い雑居ビルの一室で、ヴェルクスは壁にもたれて座り込んでいた。


割れた窓から差し込む月明かりが、床に散らばったコンクリート片を薄く照らしている。

右肩の傷はすでに塞がっていた。

魔素はもう全快していっる。

体だけで言えば、いつでも動ける状態だった。


「――けっ」


ヴェルクスは自分の右拳を見つめ、ゆっくりと握り直した。


脳裏に蘇るのは、駅前の光景だ。


初めて相対した時の隙のない構え。

まるで風の流れでも観察するような目で、ヴェルクスの拳を見ていた。


断罪(ジャッジメント)を使ったが効かなかった。

予想はしていたが、それでも、実際に霧散して指先へ反発だけ返ってきた瞬間、思わず舌打ちしたくなる。


「……くそが、効かねえ奴が多すぎなんだよ」


あの男。

気流を纏い、攻撃を受け流し、逸らし、時には位置ごと入れ替える男。

力で押し切れない相手など、今までいなかった。


だが柳太郎はヴェルクスの拳を正面から受けても崩れず、

最後には浄罪(スティグマ)を撃ち込ませるところまで持ち込んできた。

駅前の景色が丸ごと消し飛んだあの瞬間、ヴェルクスの魔素はほとんど底を突いていた。


あと少し戦いが続いていれば、どちらが地に伏していたかは分からない。


「……次はねえよ、ああいうのは」


独り言が、誰もいない部屋に落ちた。


* * *


扉が控えめにノックされた。


「なんだ」


現れたのは矢島だった。

スーツの下の体は緊張で強張っている。


「例の、ガキの……神谷って探索者の件ですが。

自宅、学校、行動範囲、追加で調べがつきました」


紙束を差し出す矢島の手が、微かに震えていた。

ヴェルクスに近づくたび、この男はいつもこうなる。


「置いとけ」


「はい……あの、他に何か」

「ねえよ、下がってろ」


矢島は一礼して足早に部屋を出ていく。

その背中を見送りながら、ヴェルクスは紙束には目もくれなかった。


情報など、もう十分すぎるほど集めている。


「あとは、いつ行くかだが……ちっ、やっかいなことになったぜ」


神谷直哉を攫いに行く必要がある。

それがボスから与えられた任務だ。

だが、昨日の男が手強すぎる。

正面から行けば、また同じ結果になる可能性が高い。


矢島たちを使う手もある。

だが、一度失敗している。

あいつらを前に出しても、柳太郎の前では足止めにもならない。


「……そろそろ迎えが来ちまうな。

まだ捕らえられてねぇってのが、気に食わねぇ」


ヴェルクスは舌打ちし、拳を握り直した。


* * *


JPギルドを襲った後。

転移門を抱えて戻ったヴェルクスは、ボスの前にそれを置いた。


「……対象はいなかったか」

ボスの声は淡々としていた。


「ええ、逃げてやがった。ギルドの連中まとめてな。

だが、奴らが作ったっぽい転移門は持ち帰った。解析すりゃ使えるだろ」


ボスは頷き、横に立つオクタヴィアへ視線を向ける。

「解析は?」


「とりあえず、使えるところまでは設定できましたわ。

使えば連中が逃げた先に転移できますわよ」


ボスはヴェルクスへ向き直る。

「なら追え。向こうで捕えてこい」


ヴェルクスは肩を回しながら、オクタヴィアへ問いかけた。

「……複製は? この魔道具、どのくらいで作れんだ」


オクタヴィアは指を折りながら軽く考える。

「五日ほどあれば、十分よ」

「五日か」


「なら一週間後に迎えをやる。それまでに捕えておけ」

「了解です」


* * *


一人になった部屋で、ヴェルクスは膝を抱えるように座り直した。


ボスは、自分にこの仕事を任せた。

信頼、という言葉が頭の中で嫌に重く響く。


同格。

そんな言葉を、これまで一度も自分に当てはめたことがなかった。


「――次は殺す」

自分に言い聞かせるように呟く。

だが、その言葉の裏で、もう一つの声が囁く。


本当にそうか。

また同じ場所で、同じ男とやり合って、今度こそ勝ち切れる保証があるのか。


答えは出ない。


だからこそ、ヴェルクスは動けずにいた。

慎重、と言えば聞こえはいい。

だが実際のところは、迷いだった。


窓の外、街の灯りが疎らに揺れている。

異世界の夜とは違う、人工の光。


ヴェルクスはそれをしばらく眺めていた。

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