第198話 鼓動の在りか
気づいたら主人公がまったく登場しない話になってた。
ということで、敵方がメインの話しは断章とし、話数を振りなおしました。
断章はメインの話しと同時並行、という感じです。
断章はその15で一旦締め。
なのでその15以降の断章更新はない予定です。
このあと本編に合流できたらいいなと思っていますがはてさて。
四方から突き出す触手を、武虎が拳で殴り飛ばす。
「くそ、いくら潰しても湧いてきやがる!」
裂けた壁の断面からまた新たな突起が伸び、床のタイルも隆起を続けている。
天井から垂れ下がった管が鞭のようにしなり、真弓の頬を掠めた。
「っ……どこ狙えばいいんだよ、これ!」
真弓が瞬陣弾を撃ち込むが、壁そのものに阻まれて有効打にならない。
陽平の難陀が床の隆起を斬り裂いても、傷口はすぐに肉のように塞がっていく。
「攻撃してもすぐ再生する、キリがねえ!」
直哉が叫びながらバットを振るうが、狙いを定められないまま防戦に回されていた。
床から突き出した牙めいた突起が足首を狙って迫り、直哉は寸前で飛び退る。
着地と同時に別の壁から伸びた触手が背後から襲いかかり、間一髪でバットの腹で受け止めた。
「囲まれてる上に、どこもかしこも攻撃してくるとか反則だろ!」
* * *
『全方位からの攻撃パターンを解析中。
――ただし、有効な攻撃箇所が特定できていません』
「そりゃそうだろ、館全部が伯爵なんだから!」
陽平が声を張り上げた瞬間、床から噴き上がった血流が4人の足元を襲う。
「跳べ!」
直哉の声に反応した3人が同時に飛び退るが、着地と同時に別方向から新たな血の噴出が来た。
息をつく間もない連続攻撃に、少しずつ体力が削られていく。
* * *
「――くはは、逃げ場のない鼠を見るのは、実に愉しいものだ!」
館そのものから響く声が、嘲るように反響する。
床一面が波打ち、四人を取り囲むように血のプールが盛り上がった。
その最大の一波が押し寄せた、まさにその瞬間だった。
『――プールの底に、異物を確認』
「異物って何だよ、今それより避けるのが先だろ!」
武虎が触手を殴り飛ばしながら怒鳴る。
『映像解析の結果、プールの底で複数の臓器と思われる組織が蠕動しています。
位置は広間中央、深さ約7メートル』
イチカの言葉に、直哉の動きが一瞬止まった。
「臓器……それが、伯爵の弱点か?」
『可能性は高いです』
「つまりそこを潰せば終わるってことか」
「でも、7メートルは相当深い。
しかも敵の攻撃手段の真っただ中に潜るってんなら、そりゃ自殺行為だ!」
真弓が血の噴出を避けながら怒鳴り返す。
中央のプールは今も波打ち、迂闊に踏み込めば一瞬で取り込まれる。
「へへ、姉ちゃん。そこは俺の出番だろ。
さっきの津波を弾いたとこ、見ただろ?」
「愚弟が、調子に乗るな」
真弓が鼻で笑う。
「いや、結構本気だよ。
それに今の俺ならやれる気がするんだ」
陽平が赤み掛かった瞳を爛々と光らせて言う。
その言葉に武虎が目を細めた。
「本当か?」
「任せて。
俺が道を開ける。
トラさんは、そのまま突っ込んで臓器ぶっ壊してくれ」
武虎の口元が吊り上がる。
「いいじゃねえか」
そのテンションに呼応するように、黒い稲妻がバリバリと暴れまわる。
真弓はしばらく弟を見ていた。
やがて、小さくため息を吐く。
「まったく、生意気ね。
もし死んだらもう一度殺してやるわ」
「怖っ」
陽平が苦笑した。
「ちぇっ、今日の主人公は陽平かよ。
なら俺は2人の邪魔だけは、絶対にさせねえ」
直哉がバットを構え直す。
「アタシも付き合うよ。
そろそろワガハイ老害の声も聞き飽きたしね」
真弓が銃口を上げた。
4人の間に、無言の頷きが交わされる。
* * *
「行くぞォ!!」
陽平が木刀を掲げる。
赤黒く染まった難陀が唸りを上げながら頭上へ躍り上がった。
一本の蛇腹剣だったそれが、陽平の魔素に呼応して何重にも伸びていく。
ギュイイイイインッ!!
難陀は陽平の頭上で高速回転を始め、やがて巨大な錐のような形へ変わっていった。
血の飛沫が触れれば弾き飛ばし、迫る触手があれば切り裂く。
「そこを、どけええええっ!!」
陽平が木刀を振り下ろす。
回転する難陀が血のプールへ突き刺さり、ドゴォォォッ!! という轟音とともに血のプールに道を作っていく。
「トラさん!」
「おう!!」
武虎がその後ろへ続く。
2人は回転する難陀が作り出した穴へ飛び込んだ。
しかし血の海も黙っていない。
左右から血流が押し寄せ、圧し潰すように迫ってくる。
だが、難陀は回転を止めない。
ギュインギュインギュインッ!!
さらに速度を上げた難陀が血流を弾き飛ばし、行く手を塞ぐ血の壁を強引にこじ開けていく。
「まだまだぁぁ!!」
陽平が吼える。
血の海を押し退けながら、一歩、また一歩と前へ進んでいった。
* * *
「邪魔させるかよ!」
直哉が振り向きざまにバットを振るう。
壁から伸びた触手が砕け散るが、その奥からは新たな触手が這い出してくる。
床から血の槍が突き上がれば、今度は真弓の砕陣弾がそれを吹き飛ばした。
「次!」
真弓が叫ぶ。
ダンッダンッ!!
ダダダダダッ!!
魔弾が空中を駆け回る。
右へ曲がり、急降下し、再び上昇する。
真弓の意思に導かれた魔弾は、次々と飛来する血塊を撃ち抜きながら、陽平たちへの攻撃を片端から潰していった。
「キリねえな!!」
直哉が吐き捨てる。
「泣き言言ってる暇ある!?」
「ねぇよ!」
天井から降ってきた管を叩き折り、横から迫った血塊を打ち払う。
その間にも陽平たちは少しずつ前進していた。
* * *
「くははははは!!
沈め、吾輩の腹の中で潰れろォ!!」
館全体が怒鳴るように震えた。
天井が波打ち、壁が盛り上がり、床が牙を剥く。
血の海そのものが陽平たちを押し潰そうと暴れ始めた。
……ズズ、ズズズズズ!!
「陽平!?」
「負けるか、剛ぉぉぉ!!」
難陀が巨大化し、さらに唸りを上げる。
ギュイイイイインッ!!
回転速度が増した難陀は激流に逆らうように回転を続け、少しずつ前進する。
一歩進むたびに全身が軋む。
難陀も悲鳴を上げる。
しかし陽平は止まらない。
「見えてきた!」
武虎が叫ぶ。
血の海の最奥。
脈打つ巨大な臓器群が見えていた。
ドクン、ドクン、ドクン。
心臓のような器官が不気味な鼓動を繰り返している。
「待ってたぜ」
武虎が口元を吊り上げた。
両腕に黒い魔素が集まり、巨大な鉤爪へと変わっていく。
「断裂猛襲 喰爪の相」
武虎が飛んだ。
全身の魔素を喰爪の相へ集中する。
両腕の鉤爪が黒く輝く。
「うおおおおおおッ!!」
そして――
ズバァァァァァッ!!!
両腕が交差し、喰らいつくような斬撃が心臓を深々と引き裂く。
ドクン――
鼓動が止まるり、館全体が大きく震えた。




