第195話 無限再生
気づいたら主人公がまったく登場しない話になってた。
ということで、敵方がメインの話しは断章とし、話数を振りなおしました。
断章はメインの話しと同時並行、という感じです。
本日も断章とメインの話しをアップしています。
ゴゥウ!!
マグナス伯爵の槍が唸りを上げる。
直哉は身を沈めて潜り抜ける。
穂先が頭上を掠め、後方の石柱を薙ぎ倒す。
「甘え!!」
武虎が横合いから割り込み、断裂猛襲を叩き込んだ。
黒い稲妻を纏った拳が脇腹に食い込み、伯爵の体が大きく傾ぐ。
「ほう」
傾いだままの体勢で、伯爵は笑っていた。
足元の血が波立ち、抉れた脇腹へ吸い上げられていく。
そこへ陽平の難陀が伸びる。
斬撃が肩口を裂き、返す刃で腕を絡め取ろうとした——が、伯爵は絡まれる前に槍の柄で弾き返した。
「くはっ、くははははは!
もっとだ。もっと吾輩を愉しませろ」
真弓の魔弾が背後から回り込み、後頭部を撃ち抜く。
頭が弾けるが、次の瞬間には元に戻っている。
それでも、確かに削れていた。
『直哉、現在の与ダメージは回復速度をわずかに上回っています。
このまま押し切れる可能性があります』
「キッツい注文だな、聞こえたなみんな!?」
直哉が踏み込み、マグナス伯爵の左足を狙って低く払った。
バットが膝裏を捉え、体勢が崩れる。
「今だ、たたみかけろ!」
武虎が正面から拳を叩き込む。
黒い稲妻を纏った一撃が胸へめり込み、伯爵の上体が後方へ弾き飛ばす。
陽平が難陀を伯爵の右腕へ絡みつかせ、そのままマグナス伯爵を振り回す。
そこへ真弓の砕陣弾が追撃した。
側頭部、胸、腹──三発が連続で突き刺さり、伯爵の体が大きくのけぞる。
「くふぅ……」
痛みに赤い瞳を愉悦に細めながら、槍で血のプールを叩くと大きくたわむ。
そのまま直哉と武虎の足元が跳ね上がり、2人の体勢が一瞬崩れた。
「さあ、さらに上げるぞお!」
マグナス伯爵が血飛沫を裂いて、直哉の正面へ現れる。
槍を横薙ぎに振るう。
ブンッ!!
「がっ!!」
バットで受けるが、金属が悲鳴を上げるような音とともに、直哉のバットが弾かれる。
伯爵はそのまま槍を回転させ、柄で直哉の腹を突き上げた。
ドゴッ!!
「っ……!」
直哉の体が宙へ浮き、血のプールへ叩き落とされる。
真弓が即座に砕陣弾を撃つ。
ドンッ! ドンッ!
だが伯爵は笑いながら血の壁を立ち上げた。
赤黒い膜が砕陣弾を吸収し、光弾が消えていく。
「くはははは!! もっとだ、もっと抗え!!」
血の壁が破裂し、無数の血塊が四方へ散弾のように飛び出した。
広間が一瞬で殺意の嵐に変わる。
* * *
「うわっ!」
陽平が転がるように避けた。
1つが頬を掠め、皮膚が浅く裂ける。
武虎は正面から拳で撃ち抜いた。
だが弾けた血が再び集まり、二の腕にまとわりつく。
搦め捕られる、と気づいた瞬間、武虎は断裂猛襲で消滅させる。
「くそ、しつけえ!」
真弓が飛来する塊を瞬陣弾で撃ち落とす。
1つ、2つ、3つ。
軽快な連射で次々と弾けさせる。
だが4つ目が軌道を変え、真弓の周囲を回り込むように迫った。
逃げ場を塞ぐように広がり捕えようとしてくる。
「見え見えなんだよ!」
真弓は翼界で飛んで逃げる。
血の塊が閉じるように収縮し、何もない空間を押し潰す。
一拍遅れていたら、丸ごと呑まれていた。
「危なっ……ねちっこいやり口だね」
真弓が滑空しながら舌打ちする。
* * *
「くはは、踊れ踊れ!」
マグナス伯爵が腕を振り上げると、血のプールが間欠泉のように噴き上がる。
「っ、跳べ!!」
直哉の声に反応が遅れた陽平の足を、噴き上がった血流が掠めた。
衝撃で吹き飛ばされながらも、翼界を展開する。
血流の直撃をかすめるように空へ跳ね上がり、赤い飛沫の中を滑るように抜けた。
「っぶない!
あとちょっと遅かったら、足持ってかれてた……!」
別の場所でも噴出は続いた。
武虎の足元、直哉の背後、真弓の飛んでいる先—狙いを定めず、広間全体を突き上げるように吹き上がる。
4人の傷が、少しずつ増えていく。
対する伯爵は、何度攻撃を受けても平然としたままだった。
頭が飛び、腕がちぎれ、脚が抉れる。
しかしそんな負傷もたちどころに癒えていく。
その余裕が、じわじわと4人の神経を焼いていく。
「くそぅ、キリがねえ!」
武虎が拳を握り直し、荒い息を吐いた。
「攻撃しても、すぐに治るなんて、どうすればいいんだよ!」
陽平が木刀を杖代わりに立ち上がりながら叫ぶ。
「無駄口叩いてないで、動きな!」
真弓が横から魔弾を撃ち込んだ。
軌道を変え、伯爵の死角から迫る一撃。
しかし、これまでなら確実に当たっていたはずの一撃を、マグナス伯爵は振り向きもせず槍の柄で払い落とした。
「ちぃ、気取りやがって、このワガハイ老害が!」
真弓の声が硬くなる。
マグナス伯爵はそれを見て、満足そうに歯をむき出して嗤う。
ブォンと槍を振るい、大仰に構える。
「くはははは、なんだもう終わりか。
存外あっけないものだ。
その程度で吾輩に勝とうな——」
ドゴッ。
直哉が跳び込み、バットを伯爵の顔面へ叩き込み、朗々と響き始めた声を、鋭い一撃が断ち切った。
伯爵の頭が大きく仰け反る。
「聞こえねーよ、そういうのは!!」
直哉はバットを構え直しながら、荒く笑った。
一瞬、広間が静まり返った。
「……くく」
震えは笑いへと変わり、やがて咆哮のような哄笑になった。
「くはははは!! 愚かな小僧だ! その無礼、たっぷりと味わわせてやろう!!」
伯爵が両腕を天へ突き上げる。
広間の血のプールが、四方から一斉にうねり始めた。
ゴゴゴゴ、と地鳴りのような音が響く。
血のプール全体が盛り上がり、赤黒い壁となって天井近くまで迫り上がっていく。
「な……っ」
陽平が息を呑んだ。
『全方位からの流入を確認。回避は不可能と判断します』
イチカの声が、いつになく硬かった。
まるで津波だった。
広間を埋め尽くす血の壁が、四方から崩れ落ちてきた。




