断章その13 激突、崩れゆく駅前
気づいたら主人公がまったく登場しない話になってた。
ということで、敵方がメインの話しは断章とし、話数を振りなおしました。
断章はメインの話しと同時並行、という感じです。
本日も断章とメインの話しをアップしています。
再び激突した。
拳がぶつかるたび、駅前の空気が揺れ、地面が振動する。
衝突の余波で石畳が割れ、周囲のガラスが耐えきれず破片となって散る。
駐車中の車が横転し、電柱へ押し潰されるように叩きつけられた。
柳太郎が流転嵐舞で風圧をまとい、ヴェルクスの拳をわずかに逸らす。
その瞬間、2人の姿が視界から消えた。
次の瞬間、数十メートル先で空気が爆ぜる。
衝撃で地面が陥没し、粉塵が柱のように立ち上がった。
気づけば2人は、まったく別の位置で拳を交わしていた。
あまりの速さに、椎名の目が追いつかない。
視界の端に一瞬だけ影がかすめ、次の瞬間には別の場所で衝突している。
(これが……最前線)
喉が張り付くように乾く。
ただ、視線だけが戦場に縫い付けられていた。
* * *
「ぬぅん!」
砕陣を纏った蹴りが迫る。
ヴェルクスは腕を前に出し、真正面から受け止めた。
衝撃が骨まで響き、前腕の皮膚が裂けて血が滲む。
(……くそったれ、なんだこいつ!)
柳太郎が踏み込む。
再び砕陣が弧を描く。
ヴェルクスは腕で受けるが、その瞬間、柳太郎の周囲の空気が巻き上がった。
流転嵐舞が蹴りの軌道を強引に押し曲げる。
防御の角度を外されたヴェルクスの腕が弾かれ、蹴りが肩口へ深く食い込んだ。
「ぐがっ……!」
ヴェルクスは吹き飛ばされながらも掌を柳太郎へ向ける。
「ぶっ飛べぇッ!!」
巨大な魔素弾がアスファルトをえぐり、破片を跳ね散らしながら迫る。
流転嵐舞の風が一点に集中する。
だが魔素弾が触れた瞬間――風壁が軋むような音を立てた。
「くっ!」
魔素弾の力が柳太郎を押し込み、足裏の下でアスファルトが削れる。
(……この威力!?)
その一瞬を、ヴェルクスは逃さなかった。
吹き飛ばされた勢いのまま地面に着地し、そのまま獣のように跳びかかる。
両掌に魔素が瞬時に収束し、光が滲む。
「硬ぇ野郎だ……なら、これならどうだッ!」
ゼロ距離で魔素弾が撃ち込まれた。
爆ぜる光が柳太郎の視界を白く染める。
次の瞬間――柳太郎の姿が“揺らいだ”。
輪郭が薄れ、霧のように掻き消える。
舞幻。
残像だけがヴェルクスの眼前に残り、柳太郎はすでに背後へ回り込んでいた。
だが――ヴェルクスの口角がわずかに上がった。
「それは――もう見たんだよ!」
振り向きざまの拳が、勘だけで柳太郎の頬を掠めた。
舞幻の“死角移動”を読んだわけではない。
ただ、柳太郎がそこに来ると“感じた”だけの獣じみた直感。
(舞幻を、感覚だけで……)
ヴェルクスは息を荒げながらも、目だけは獲物を逃さない獣のように鋭い。
「同じ手は喰らわねえよ!」
柳太郎は静かに息を整えた。
頬の傷から一筋の血が落ちる。
* * *
岸本はモニターの前で震えが止まらなかった。
歩道橋の欄干が根元から折れ、街路樹が幹の途中で裂ける。
信号機が倒れ、バス停の屋根がひしゃげ、そしてビルの外壁に亀裂が広がる。
ただの戦闘ではない。
“本物の最前線”だった。
画面の中で影が弾け、次の瞬間には別の場所で衝突している。
その度に粉塵が舞い、建物が揺れた。
(……これが、柳太郎さんの戦い……)
握りしめた指先が白くなる。
喉の奥がひりつく。
それでも視線はモニターから離れない。
* * *
ヴェルクスの息が乱れ始めていた。
身体強化:剛を使い続けている代償だ。
魔素の消費は尋常ではない。
(このまま長引かせても、埒が明かねえ)
拳を振るいながら、冷静に戦況を分析し、柳太郎を観察する。
崩れない構え、乱れない呼吸。
傷は増えているが、決定的な一撃はまだ入っていない。
(……舐めてかかっていい相手じゃねえな)
これほどまでに己を出し惜しみできない相手と向き合ったのは久し振りだ。
拳を叩き込む。
柳太郎が流水で受け流し、そのまま懐へ潜り込んできた。
肘が脇腹を抉る。
「――っ」
息が詰まり、後方へよろけた。
すぐさま体勢を立て直したが、口の端から血が一筋垂れる。
ヴェルクスは、大きく後方へ跳び退いた。
柳太郎も追わず、距離を取ったまま構えを崩さない。
「――は」
短く笑う。
乾いた笑いだった。
「……そろそろ、だと思うんだよな」
両手をだらりと下げる。
戦意を手放したようにも見える仕草だったが、目だけは違った。
「なんのことだ?」
* * *
柳太郎は、その変化を肌で感じ取った。
今までとは、纏う空気の質が違う。
「おおおっらぁあ!!」
ヴェルクスが突っ込む。
地面を蹴った瞬間、アスファルトの亀裂から黒い魔素が滲み出す。
液体のように揺らぎながら、右手へ吸い寄せられていく。
濁った魔素は、まるで怨嗟を含んでいるかのように蠢いた。
一足飛びに柳太郎へ迫る。
右手に膨大な魔素が膨れ上がり、空間が歪む。
「――浄罪ッ!!」
柳太郎は流転嵐舞を構えた。
だが、拳が迫る瞬間――肌が粟立つ。
「……しまっ!? 転身!!」
次の瞬間、世界が爆ぜた。
爆発が駅前一帯を呑み込み、地面がめくれ上がって建物の外壁が吹き飛び、粉塵が空へ噴き上がった。
ドオオオオオオオオオンッ――――!!!
熱波が駅前を舐め尽くし、アスファルトが融けて波紋のように盛り上がった。
巻き上がった土煙は、天まで届くかと思うほどの高さに達した。
ロータリーに残っていた装甲車が、宙を舞って壁に叩きつけられる。
ガシャアアンッ――!!
柳太郎が転身で逃れた先――かつて街路灯が転がっていた場所は、跡形もなく消えていた。
土煙が晴れた時、そこに残っていたのは、駅前広場の半分近くを飲み込む巨大な穴だった。
直径にして約50メートル。
コンクリートも、石畳も、地中の配管さえも消し飛び、剥き出しの地盤が露出している。
まるで、空から何かが落ちてきたかのような、綺麗な擂鉢状の窪みだった。
穴の縁は、熱でガラス質に変質し、鈍く光っていた。
折れた街路樹の根が、断面をむき出しにしたまま穴の中に転がり落ちている。
焦げた匂いが立ち込める。
崩れかけたビルの一角から、壁材がぱらぱらと零れ落ちていた。
* * *
「……冗談でしょ」
震える声で、誰かが呟いた。
上空では、いつの間にか複数のヘリが旋回している。
遠く、サイレンの音が幾重にも重なって近づいてきていた。
交通は完全に麻痺し、避難する人々の悲鳴が遠くから断続的に聞こえてくる。




