断章その12 駅前の激突、剛と技
気づいたら主人公がまったく登場しない話になってた。
ということで、敵方がメインの話しは断章とし、話数を振りなおしました。
断章はメインの話しと同時並行、という感じです。
本日も断章とメインの話しをアップしています。
藤堂柳太郎。
藤堂心眼流迅術の道場主であり、探索者としても一線級の実力者だ。
能力は流転嵐舞。
気流を操り、どのような攻撃も逸らすことができる。
が、実のところ、流転嵐舞の本質はそこではない。
流転嵐舞の派生技、そこにこそ本領があるのだ。
流水による高速移動。
転身を使うと対象との位置を入れ替えられる。
嵐撃は四方八方からの暴風を攻撃に加える。
舞幻での残像を残した緊急回避。
藤堂心眼流迅術にこれら4つを取り入れ、理術まで昇華させたことが、彼を最前線の実力者に押し上げていた。
* * *
嵐撃を受けたヴェルクスの体が宙へ弾け飛ぶ。
体勢を立て直そうとするより早く、2発、3発と衝撃が叩き込まれる。
ヴェルクスの体が空中で踊る。
全身を殴りつけるような衝撃が連続し、まるで嵐の中心に放り込まれたかのように、体は制御を失ったまま空中で何度も振り回された。
最後の一撃で地面へ叩き落とされる。
ドガァッ――!!
石畳が砕け、土煙が舞い上がった。
広場に静寂が戻る。
土煙の向こうで、ヴェルクスは倒れたまま動かない。
柳太郎は構えを解かなかった。
視線だけを向け、土煙の奥を見据える。
「……いつまで寝てるつもりだ」
ヴェルクスの目が、薄く開いた。
「さすがに無理か」
やれやれとでもいうように立ち上がる。
足元が一瞬だけふらついた。
「……」
「……」
どちらも何も言わない。
見破ったことも、見破られたことも、互いにとって想定内だった。
ヴェルクスは側頭部を拳で叩いた。
「ちっ、まだガンガンしやがる……」
嵐撃で全身をシェイクされた余韻が、頭の中で鳴り続けている。
「しかも断罪も効かねえし。ろくなもんじゃねえな」
ぼやきながら、地面にペッと血を吐いた。
石畳に赤いものが落ちた。
「……ま、いいか」
表情が、変わった。
さっきまでのおどけた色が、すっと消えた。
「身体強化:剛」
足元の石畳が、びりびりと震えた。
さっきまでとは次元の違う魔素が、ヴェルクスの体から噴き出す。
ビルの陰の椎名たちは、思わず一歩引き、柳太郎も警戒を強めた。
* * *
ヴェルクスが踏み込んだ。
ドォンッ——!!
1歩目でアスファルトが砕けた。そのまま一直線に来る。
柳太郎が流水で横へ抜ける——が、ヴェルクスの腕が軌道を変えて追ってきた。
識界で動きが捉えられている。
攻撃の嵐が襲ってくる。
右、左、正面、また右——止まらない。
柳太郎は1発1発を受け流しながら後退する。
外れた拳は壁に吸い込まれ、コンクリートに縦に亀裂が走る。
かわした蹴りが足元に炸裂、石畳が割れ、その衝撃で路肩の車が横転した。
ガシャンッ——!!
「くっ——」
柳太郎が動いた。
正面へ拳を突き出す。
ヴェルクスの視線が、その拳を追った。
その瞬間を待っていた。
素早く足を払う。
ヴェルクスの足元が崩れた——
が、崩れながらヴェルクスは腕を下げ、柳太郎の蹴り足ごと捕まえた。
(捕まえた——!)
このまま地面に叩きつける——そのはずだった。
柳太郎の体が、絡まれた方向と逆に回転した。
流水の応用で、体から魔素の気流を噴き出し、勢いをつけてそのまま乗り越える。
腕が引っ張られ、ヴェルクスの体勢が前のめりになった。
「くそがっ」
手を離し、体勢を立て直す。
力で押せば押すほど、その力が利用される。
柳太郎が着地し、地面を滑るように一気に加速する。
嵐撃による暴風の拳がヴェルクスへ叩きつける。
「しゃらくせぇぇぇええ!」
砕陣を拳に込め、正面から殴り返した。
ドォォォンッ——!!!
衝撃波が広場に広がり、近くの窓が割れた。
パリンッ——パリンッ——!!
どちらも退かない。
ヴェルクスがさらに速度を上げる。
踏み込むたびに石畳が砕け、蹴り上げた壁面にひびが入る。
移動の衝撃が空気を叩き、遠くの窓がたびたび鳴った。
ビルの壁を蹴り、跳んだ。
落下の勢いを乗せた一撃——
壁を蹴った角度で、来る方向は読めていた。
柳太郎が流水で横へ抜ける。
ヴェルクスの拳が、石畳に突き刺さった。
アスファルトが大きく陥没し、破片が四方へ散る。
柳太郎はすでに歩道橋の上にいた。
ヴェルクスの拳が石畳に埋まり、一瞬だけ動きが止まっている。
そこへ、飛んだ。
落下の勢いを乗せた踵が、ヴェルクスの背中に落ちる。
「——っ!!」
ヴェルクスの体が前へ崩れた。
すぐに立て直したが、少なくないダメージを追った。
ヴェルクスも歩道橋の上へ跳ぶ。
2人が橋の上で激突し、手すりが弾け飛んだ。
地面から歩道橋へ、ビルの壁面から街灯の柱へ——もはや戦いは、駅前広場全体に広がっていた。
まともに残っている窓ガラスはなく、石畳は何か所も砕け、路肩には横転した車が2台。
人間の戦いではなかった。
空中で交錯した瞬間、ヴェルクスの拳が柳太郎の肩口に入った。
「——っ!」
柳太郎が大きく吹き飛ぶ。
受けた左肩が、じんと熱かった。
ヴェルクスも無傷ではなかった。
嵐撃をもらった脇腹が、息を吸うたびに痛む。
2人は距離を置いて向かい合う。
どちらも、息が乱れているが、まだ倒れていない。
「……いい加減、終わらせるぞ」
ヴェルクスが言った。
「ああ」
柳太郎が静かに返した。
朝の駅前。
割れた窓の破片が、きらりと光った。




