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現代ダンジョン奮闘記  作者: だっち
断章 異世界からの侵略

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第193話 刹那を掴む

気づいたら主人公がまったく登場しない話になってた。

ということで、敵方がメインの話しは断章とし、話数を振りなおしました。

断章はメインの話しと同時並行、という感じです。

本日も断章とメインの話しをアップしています。

赤い月光を裂くように、4つの影が四方へ飛び散る。

人型のはずなのに、動きはまるで獣だ。

猛々しく、豪快で、四肢で地を駆ける肉食獣のようだった。


4人の正面に、それぞれ1体ずつ向き合う形で止まる。


「1対1、ってことか」

直哉は自分の前に立ったレッサーヴァンパイアを見た。


身長こそ人間と同じだが、顔が完全に異形だった。

長い黒髪の隙間から覗く目は赤く光り、瞳孔が獲物を捉えた獣のように細い。

口は横に裂け、鋭い歯列がむき出しになっている。


腕は前脚のように長く、湾曲した爪が赤い月光を反射していた。

青白い肌がぬらりと光り、その立ち姿は“人型の獣”そのものだった。


「来い!」


直哉がバットを構えた瞬間、レッサーヴァンパイアが飛びかかる。

踏み込みのたびに血のプールがわずかに波立ち、細かな飛沫が散る。


「速い!」


横薙ぎの爪が血飛沫を散らしながら迫る。

直哉は後退しつつ半身を捻り、バットで軌道を弾いた。


ガキッ。


腕全体に痺れが走る。

硬い、爪の一本一本が刃物だ。


「っ、かたっ……!」


レッサーヴァンパイアが力任せに押し込んでくる。

直哉はバットで受け流し、滑るように横へ抜けた。


『直哉、敵は力強いですが……』

「ああ、その分動きが読みやすい、だろ!!」


気合いと共に、レッサーヴァンパイアの動きを先読みし、バットを振り下ろす。


「砕陣・ルクス!!」


真白な輝きが爪を弾き、レッサーヴァンパイアの体勢が崩れる。

そこに追い打ちを狙った直哉の横薙ぎが、しかし紙一重で躱された。


「くそっ!!」


* * *


広間の4か所で、同じような攻防が繰り広げられていた。


武虎のレッサーヴァンパイアは、他の3体と比べても動きが鋭かった。

懐に飛び込んでくる速度が速く、離れた距離からでも、その長大な腕を伸ばして攻撃してくる。


「この野郎っ……!」


武虎が断裂猛襲(ブレイクアサルト)の拳を繰り出す。

レッサーヴァンパイアはその拳の下を潜り、脇腹に爪を滑らせた。


服が裂ける。

浅いが確実に当たった。


「ちっ」

武虎が舌打ちし、距離を取る。


「次は外さねぇ!」

踏み込みと同時に跳ねた血飛沫が、黒い稲妻で消滅する。

武虎の拳が一直線に突き出された。


ドンッ!!


今度は当たった。

レッサーヴァンパイアに直撃した一撃が、肩口を抉り取る。

だが、倒れない。


体を傾けたまま、足元の液体が吸い上げられるように傷口へ流れ込み、抉られた肉がゆっくりと塞がっていく。


「くそ、こいつも再生しやがる……」


* * *


真弓は距離を保ちながら、魔弾(デッドリー・ロック)を連射していた。


魔弾(デッドリー・ロック)が胸へ向かって飛ぶ。

レッサーヴァンパイアは体を捻って避けた——が、魔弾(デッドリー・ロック)はそこで止まらない。


真弓の意志に引かれるように軌道を曲げ、背後へ回り込む。

逃げ場を失ったレッサーヴァンパイアの胴体へ食い込むように命中した。


だが動きが止まらない。

傷口が塞がるのが速すぎる。


「再生、再生、再生。ったく、ほんとにヤになるよなぁ!」


的確に顔を狙えば一撃で止められる。

だが相手の動きが不規則すぎて、射線が安定しない。


レッサーヴァンパイアが地を這うような低い軌道で距離を詰めてくる。

真弓は後退しながら銃口を下げ、脚を狙った。


ズドン。


膝を撃ち抜いた。

一瞬、動きが止まる。

そこに胸へ砕陣弾を叩き込む。


吹き飛んだ。

だが、着地した瞬間には膝が塞がっていた。


(さて、どうしたもんかね……)


* * *


陽平は苦戦していた。


相手の爪が難陀(なんだ)を何度も弾いてくる。

水を引き伸ばした蛇腹の攻撃は、距離を保った戦いでは有効なはずだった。

しかし相手は難陀(なんだ)が伸びると、その軌道を読んで体を捻り、最小限の動きで躱す。


「なんで読めんの!?」


難陀(なんだ)の角度を変えながら追い続けるが、当たらない。

接近されると陽平自身の体術が追いつかず、弐式・跋難陀(ばつなんだ)で防御に回らざるを得ない。


水の蛇が盾を形成し、爪の連撃を受け止める。

ずしりとした圧が、両腕に伝わってくる。


「ぐっ……重い!!」


押し込んでくる力が思ったより強い。

一瞬だが、体勢が後ろへ流れた。


* * *


広間のあちこちで衝突が繰り返され、4人の位置は少しずつ動き続けていた。

意図しているわけではない。

追われ、かわし、踏み込むうちに、自然とお互いがある時は近づき、ある時は離れていた。


そして、直哉と真弓の戦場の距離が縮まってきている。


イチカはそれを見ていた。

戦場を俯瞰するように——4人全員の動きを、相手の隙を、間合いの変化を追い続けながら、ある瞬間を待っていた。


(『タイミングをお知らせします。直哉、あと3秒後』)

イチカの声が直哉の内側に届いた。


直哉はバットを握り直した。

レッサーヴァンパイアが次の踏み込みを準備している気配を識界で捉えながら、3秒を数える。


(3……2……1)


『今です』

「真弓!!」


直哉は声と同時に右へ走った。

真弓がそれに応じて左へ動く。


交差する。

直哉が真弓のレッサーヴァンパイアの前に立ち、真弓が直哉の相手と向き合った。


レッサーヴァンパイアが一瞬、対象が入れ替わったことへ対応しようとして——その「一瞬」が、命取りになった。


直哉が踏み込む。

相手はまだ体の向きを変えている最中だ。


「時穿つクロノス・ハック・ゼロ!」


足の指の時を止める。

向き直ろうとした体が、勢いのまま行き場を失ってガクンと止まる。


瞬閃五連撃(アクセル・バースト)!!」


神速の5連撃がレッサーヴァンパイアを四方から叩きつけ、吹き飛ばす。

レッサーヴァンパイアは爆散し、血飛沫となり血のプールに還っていく。


それを確認せず、直哉は既に走っていた。


* * *


真弓の相手——直哉の元の相手は、バットへの対応に特化して動いていた。急に銃を持つ相手に変わり、対応が一瞬遅れた。

真弓はその間隙に、空を駆け頭上を飛び越えて背後に下り、銃口を向ける。


レッサーヴァンパイアが振り返る。

向けられた銃に目が吸い寄せられ、身構えた。


——それがフェイクだと、気づく間もなかった。


さっき放ったままの魔弾(デッドリー・ロック)が、まだ宙に漂っていた。

真弓は意識を向け、軌道を変える。


魔弾(デッドリー・ロック)が頭を貫いた、続けて胴体を。

レッサーヴァンパイアが驚きに目を見開く。

銃ではない方向から来た一撃に、何が起きたかわからない顔だった。


(れつ)


ドパンッ!


2発の魔弾が内側で炸裂し、頭と胴体を吹き飛ばした。

レッサーヴァンパイアが崩れ落ちた。


2体が同時に沈んだ。


「行こう!!」


直哉と真弓が合流し、向き直る。

武虎の相手と陽平の相手が残っている。


どちらが先でもいい。


直哉が武虎の相手へ走った。

真弓が陽平のほうへ銃口を向ける。


挟み撃ちだ。


武虎の相手は前から武虎、後ろから直哉のバット。

逃げ場がなくなったレッサーヴァンパイアが動きを一瞬止めた——その瞬間に武虎が全力で踏み込んだ。


「終わりだ!!」


断裂猛襲(ブレイクアサルト)が直撃し、レッサーヴァンパイアが天井まで吹き飛んだ。

そのまま落下し、血のプールに還っていく。


陽平の相手は真弓の砕陣弾が脚を砕き、動きを封じたところへ陽平の難陀(なんだ)が胴を締め上げ、切り裂く。


「っしゃあ!! 水操(ミズノ・シラベ):壱式 難陀(なんだ)!!」


難陀(なんだ)が締め上げる圧を上げ、レッサーヴァンパイアの体が悲鳴のような音を立てた。


静寂が広間に戻った。


直哉は肩で息をつきながら、血の玉座の方を見上げた。

マグナス伯爵は変わらず、そこに座っていた。

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