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現代ダンジョン奮闘記  作者: だっち
断章 異世界からの侵略

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第188話 魔素が誘う群れ

気づいたら主人公がまったく登場しない話になってた。

ということで、敵方がメインの話しは断章とし、話数を振りなおしました。

断章はメインの話しと同時並行、という感じです。

本日も断章とメインの話しをアップしています。

足元には墓地が広がっていた。

見渡す限りの傾いた墓石と、その隙間から滲み出る濁った魔素。

遠くで何かが鳴いているような音が低く響き、光が届かないのに空だけは妙に白く霞んでいる。


「今日はまっすぐ洋館を目指そう。

グールを捌きながら進んでも消耗が大きし、空から行こうぜ」


「空か、結構な霧だぜ?」

武虎が空を見上げた。


「スペクターって空中にもいるんじゃん?」

陽平が聞くと、直哉はイチカに視線を向けた。


『スペクターは地表付近に集中する傾向があります。

しかし上空への移動能力はあり、遭遇リスクはゼロではありません』

「遭遇したら、それはそれで。

なにより洋館まで大分距離があるみたいだしさ」

「わかった、空から行こう」


4人は魔素を背後に向けて展開し、翼界(よくかい)を発動した。

背中から光の奔流が翼のように伸びる。

地面を軽く蹴ると同時に魔素を噴かせ、バチッと火花のような音が弾けた。


全員が浮いた。

そのまま高度を上げていく。

墓地の墓石が遠のき、霧の層を突き抜けると視界が一気に開けた。


「……意外と広いな、4層」

武虎が呟いた。

霞んだ空の下、墓地の荒野が果てまで続いている。

起伏は少なく、遠くに廃墟のような建物の残骸が点在している。


「あっちが、中央だよな?」

直哉が奥を指さした。

「マップ的に中央の奥がボスの洋館のはずだ」


4人は横並びで飛び始めた。


* * *


最初の異変は、5分も飛ばないうちに来た。


陽平が「あれ」と言った。

「……なんか、ついてきてない?」


直哉は振り返った。

後方の霧の中に、薄い影があった。

半透明で、輪郭がぼやけている。

1体、2体、3体。


数を数えようとした瞬間、さらに湧いてきた。


「スペクターだ!!」


霧の中から次々と現れる。

まるで光源に引き寄せられる虫のように、4人の周囲へと集まってくる。

10体、20体、それ以上。

全員が宙をスルスルと移動し、翼界(よくかい)で飛ぶ4人を正確に追尾してくる。


「くそ、ワラワラきやがった!!」

武虎が言った。


『大きな魔素を纏って飛行している状態が、スペクターを引き寄せていると思われます。

翼界(よくかい)の魔素が誘引源になっています』

「じゃあ止まったら終わりだ!!」


飛びながら戦う以外にない。


直哉はバットに魔素を集中させ、最も近いスペクターを正面から打ち払った。

空中で体ごと軸を回し、スペクターの側頭部へ叩き込む。

スペクターが揺れ、霧散する。


だが後ろからまた2体来ている。


「くっ」


旋回しながら回避し、追いすがる1体を横から打つ。

空中での打撃は足場がないため、反動で自分も流される。

魔素の噴射で体勢を立て直し、また構える。


「真弓!!後ろ!!」

「見えてる!!」


真弓が鋭く旋回した。

タタタタッ、と小気味よい音をたてながら、瞬陣弾を背後のスペクターへ連続で撃ち込む。

弾がスペクターの影を切り裂き、霧散する。


「右からも来てる!!」

陽平が叫んだ。


右方向から7体のスペクターが横一列で突っ込んでくる。

いや、横一列ではない。

包囲する形で弧を描きながら迫ってくる。


「散れ!!」


4人が一斉に別方向へ飛んだ。

スペクターの群れが一瞬交差するが、狙いが分散して追尾が乱れる。


武虎が最も大きく旋回し、群れの後ろへ回り込んだ。

魔素を両腕に集中させ、断裂猛襲(ブレイクアサルト)の出力を落として連打に切り替える。


虎は翼界(よくかい)で急旋回しながら、蜻蛉飛び(フリップ・ターン)を踏んだ。

空中に足場が生まれる。


それを蹴った瞬間、地上と変わらない踏み込みの力が腕へ乗る。

「空中の方が使いやすいじゃねぇか!!」

上から、横から、斜め後方から。


どこへでも踏み込める。

スペクターが回避しようと動いた先に、すでに武虎がいる。

断裂猛襲(ブレイクアサルト)が1体を弾き飛ばし、翼界で即座に旋回、別の足場を踏んで次の1体へ叩き込む。


「空中がお前らの独壇場だって思うなよ!!」


* * *


戦闘が激しくなったのは、さらに10分が過ぎたころだった。


後方から追いすがる群れに加え、前方からも現れ始めた。

前後から挟まれる形になり、速度を上げて突破しようとするが、スペクターも加速する。


「数が減らない!」

「倒しても倒しても湧いてくる!!」


陽平の水操(ミズノ・シラベ)難陀(なんだ)が空中で蛇腹のようにしなり、複数のスペクターを薙ぎ払う。

水操(ミズノ・シラベ):壱式 難陀(なんだ)!!」


空中では難陀(なんだ)の取り回しが逆に自由だった。

地面がない分、四方八方から水の蛇を振り回せる。

陽平は旋回しながら難陀(なんだ)を大きく円弧で動かし、周囲のスペクターをまとめて薙いだ。


「どうだ!!」


だが問題は消耗だった。

空中でのドッグファイトは、地上の戦闘より魔素の消耗が大きい。

翼界(よくかい)を維持しながら攻撃魔素を捻出するため、少しずつ削れていく。


(『全員の魔素残量が60%を下回り始めています。このペースが続くと50分以内に翼界(よくかい)維持が困難になります』)


「聞こえたか!?」

「聞こえた!!」

武虎が叫ぶ。

「前方を突破するか!!」

「やってみる!」


直哉は群れ全体を見渡した。

スペクターは同じ速度で動いているわけではない。


引き寄せられる方向がわずかにばらついており、密度に偏りがある。

右の端が薄い。

「右端から抜ける!! 真弓、先頭!!」

「任せな!!」

真弓が即座に右へ向きを変えた。


密度の薄い方向へ最短距離で突っ込み、前方2体へ魔弾(デッドリー・ロック)を連射する。


着弾と同時に霧散した2体の跡に、穴が開いた。

「今だ!!」


4人が一斉に加速した。

翼界(よくかい)の出力を最大に引き上げ、魔素を背後へ集中噴射する。

速度が跳ね上がり、スペクターの群れを正面から割り込むように突き抜ける。


真弓が前方の3体へ連続で魔弾(デッドリー・ロック)を叩き込み、突破口を作る。

武虎がその隙間を先頭で突っ切り、陽平の難陀が左右から挟んでくるスペクターを払いのける。


突き抜けた。


後方のスペクターが追ってくるが、速度差がついた。

50メートル、100メートルと距離が広がり、群れの密度が薄れる。


「振り切れるか!?」

「このまま速度を保てば!!」


さらに2分飛んだ。

スペクターの数が減り、追ってくるのが数体だけになった。

真弓が振り返りながら魔素弾を1発ずつ丁寧に当て、次々と散らしていく。


最後の1体が霧散した。


「……ふぅ」

武虎が呼吸を整えながら言った。


4人は速度を落として高度を下げた。

全員の息が荒い。

翼界(よくかい)の魔素消費と、空中での戦闘が重なったためだ。


「思った以上だった」

陽平が力の抜けた声で言った。


* * *


霧の中を飛び続けると、前方に洋館と思わしき影が見えてきた。

霞んだ白の向こうに、黒い影が浮かんでいる。


かなり大きな建物だ。


「……あれか」

武虎が目を細めた。


3階建ての石造り、しかし建物の高さは5階分ぐらいありそうだ。

黒ずんだ外壁に蔦が絡みつき、鉄の門が半開きのまま傾いている。

窓は塞がれており、光ひとつ漏れていない。

それでも内部から魔素の気配が滲み出していて、空中でも皮膚で感じ取れる。


『洋館を確認しました。

収集した情報と一致します』)


4人は洋館から200メートルほど離れた場所に高度を落とし、廃墟の壁が残る陰に着地した。

地面を踏んだ瞬間、足から力が抜けるような感覚があった。


しばらく誰も話さなかった。

息を整えながら、各自が体の状態を確かめている。


「みんな魔素はどう?」

直哉が口を開いた。


「結構使っちまったな。……5割ちょいか」

武虎が腕を回しながら答えた。

「陽平は」

「似たくらい。翼界(よくかい)難陀(なんだ)を同時に使うと、結構クルね」

「真弓は」

「6割弱」


直哉は自分の魔素を確認した。

識界を使った分が響いている。5割を少し切ったくらいだ。


「転移門の分もあるし、今日はここで帰ろうか。

んで、明日は転移門でここに直、って感じで」

直哉は言った。


「そうだな。

まあなんだかんだ、翼界(よくかい)で大分ショートカットできたな」

武虎が洋館の方向を見ながら聞く。


「ヴァンパイアか。

今日、帰りに次郎寄ろうかな……」

陽平が呟いた。

「なんだ、陽平。

お前、口臭でなんとかしようとしてるのか」

「こう、噛まれそうになったら、逆にこっちからはぁあーーーっとね」

「さすがにボスがそんな間抜けじゃないだろ」


「えー、一瞬ひるむんじゃない?」

「ひるまない」

「……何事も経験だ!」

「……お前、ニンニク全マシで食えよ」


『皆さん、この座標を記録しました。

次回の転移先として設定可能です』


「よし、ならこれで準備万端だね!」

「帰ろう」

真弓が短く言った。


直哉は転移門を展開した。

4人が門をくぐる前に、直哉はもう一度洋館の方向を見た。

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