第187話 4層ボス攻略会議
気づいたら主人公がまったく登場しない話になってた。
ということで、敵方がメインの話しは断章とし、話数を振りなおしました。
断章はメインの話しと同時並行、という感じです。
本日も断章とメインの話しをアップしています。
直哉は自室のベッドに横になって、天井を見ていた。
別に眠いわけじゃない。
ただ、考えていた。
オクタヴィアとの戦いのことを。
エンバルムとの戦いのことを。
どちらも、なんとかなった。
なんとかなった——だが、そういう言い方しかできないのが正直なところだ。
オクタヴィアの時は、何度も押し返された。
エンバルムの時は、最後の最後に篠崎と最上がいなければ終わっていた。
倒した。
でも、勝ち切った感じがしない。
(……もっと強くならないといけないな)
口に出すほどのことでもないが、今は少し切実だ。
ただ漠然と「強くなりたい」と思っていた頃とは違う。
具体的に、足りなかった。
直哉はため息をついて、起き上がった。
* * *
翌日の昼、4人はファミレスに集まっていた。
「会津、もう一回行かない?」
直哉が切り出すと、武虎が「ほう」と眉を上げた。
「会津って、あの超巨大ゴーレムか?」
「そうそう。
ほら、結局オクタヴィアにもエンバルムにも、こう、ね。
やっぱもっと魔素量上げたいなって思ってさ」
「それはそうだな。たしか前回言った時は、1週間で150ぐらい伸びたんだっけか」
「150も!?」
「ああ。沸きのスピードも早かったし、いいかもな」
スマホをいじっていた真弓が顔を上げる。
「……ちょっと待って。
会津ダンジョンの1層は虫」
「あー、だったね。
でっかいダンゴムシとかいた気がする」
「無理」
「そうだけど、通り抜けるだけで——」
「無理」
「いや、でも魔ー」
「無理」
「かなりあー」
「無理」
「」
「無理」
「いや、まだ何も言ってないし……
そんなに無理なのかよ」
「無理」
「それじゃあ、こっちはどう?
4層を本格的にやって、ボスを倒して5層への道を開ける」
「4層か、確かに、まだボスは倒してないな」
武虎が腕を組む。
直哉はしばらく考えた。
「……それも悪くないな。4層のボスってヴァンパイアだったか」
「らしいですね。詳しくは知らないけど」
「じゃあまず調べるか」
* * *
その夜、4人でビデオ通話を繋ぎながら情報を整理した。
「4層に特殊個体がいるらしいんだが」
直哉が画面を見ながら言う。
「何体?」
「1体だけ。ただ——情報がほぼない」
「ほぼ、って」
「遭遇した人の話が出回ってないんだよね。
見かけた記録が一件だけ出てきたんだけど、その先が書かれてなかった」
「倒せなかったか、書けない事情があったか、どっちなのかな」
陽平が静かに言った。
「まあ、ロクなもんじゃないのは確かだろう」
武虎が短く言う。
「遭遇したらその場で考えるしかないな」
「うーん、そうだね」
「モンスターハウスは?」
『4層の既存マップデータには、モンスターハウスに相当する固定エリアの記録はありません』
「なかった、か。ラッキー——」
「でも、ゾンビ・クロットの現象、あれがそれにあたるでしょ」
直哉は少し考えてから、「あー」と声を出した。
「百鬼夜行の。モンスターが大量に湧いて、放っておくと合体するやつ」
「固定の部屋はないけど、実質的にはあれがモンスターハウス代わり、でしょ」
「確かに。あれを無視したら洒落にならないもんな」
あの時は合同でなんとかしたが、固定エリアではない分、どこで起きるかわからない。
『前回の発生ケースでは、墓地エリアの地面の亀裂から大量出現しました。
魔素の急増が前兆として確認できています。
感知次第、即座にお伝えします』
「頼む。次はもうちょっと余裕を持って対処したいしね」
* * *
「ボスの情報はどうだ」
武虎が聞いた。
「ヴァンパイアらしい。4層の中心部にある洋館に住んでるんだと」
直哉はメモを画面に映した。
「洋館の場所は、墓地荒野の中央あたり。
マップが整備されてないから大雑把な情報しかないけど、4層の奥に向かえば辿り着けるはずだね」
「ヴァンパイアを倒すと5層への扉が開くのか?」
「そう書いてあった。
ただ、実際に倒した記録を持つ探索者がほとんどいないから、本当なのかどうか」
「弱点は?」
「銀、聖属性、光……みたいな話は出てるけど、まあ良く言われてるやつだよな」
『一般的な吸血鬼の伝承と混在している情報が多く、4層のボス個体に正確に当てはまるかは現地での確認が必要です』
「やってみないとわからない、か」
武虎がぼそりと言った。
陽平がスマホの画面を見ながら首を傾ける。
「洋館……モルデガルドさんのとこみたいな感じかな」
陽平が言うと、武虎が鼻を鳴らした。
「いや、あそこより雰囲気悪いだろ。
4層だぞ? 墓地のど真ん中にある洋館なんて、絶対ロクでもねぇ」
「まあ、ヴァンパイアだしね……」
直哉はメモをスクロールしながら続けた。
「とりあえず、弱点っぽいのをまとめると——
銀、光、聖属性、火、あと“血”絡みの攻撃に反応する可能性がある、って感じ」
「火は効くのか?」
直哉が身を乗り出す。
「伝承だと“日光”が弱点だから、火も相性悪いって説がある。
ただ、4層のボス個体に当てはまるかは……」
『現地での確認が必要です』
イチカが淡々と補足した。
「でも、火とか光なら俺ので、ワンチャンあるか?」
直哉が拳を握る。
「いや、あれエフェクトだけじゃん」
陽平が即ツッコミを入れた。
「見た目は火だろ!」
「見た目だけで属性なし」
真弓が冷静に言う。
「ちくそう……」
「そいえば、吸血ってあるのかな?」
「……吸血?」
「ヴァンパイアだし」
「血吸われるのか?」
「うん、ヴァンパイアと言えば、だよね。
トラさんって映画とか見ないの?」
「道場がメインだったしな」
「脳筋」
「吸血されるとどうなるんだろう」
直哉がスマホを見ながら呟く。
「弱体化、行動阻害、最悪“眷属化”の可能性もあるって書いてある」
「眷属化って、操られる的なのか?」
「まあね。
でも、あくまで伝承だからね。
実際の4層ボスがそうかはわからないけど……」
「……いや、でもキモイな……血吸われるの……」
「トラさん、意外と繊細だな」
陽平が笑う。
「うるせぇ!」
みんな笑いながらも緊張を隠せない。
4層をクリアした人はごく少数だ。
篠崎さんや最上さんもまだクリアしていない。
次の戦いは、これまでとは違う。
だが、だからこそ——胸が高鳴る。




