断章その1 繁華街の侵略者
是非、ブックマークか評価を。
私にガソリンをください!!
断章は魔素の結集の章と同時並行に進んでいるイメージで書いています。
魔素の結晶は主人公の話しで、断章はその裏で動いている話、という感じです。
*メインの話しも本日アップしています。
* * *
気だるそうな男が繁華街を歩いていた。
人の流れに逆らわず、ただ漂うように進んでいる。
しかし見る者が見れば分かる。
男の歩みには、剣士のそれとは別の危険が滲んでいた。
殺意を凝縮してできたような人間——そういう種類だ。
ただそこにいるだけで、周囲の空気がかすかに変質する。
だが今は、その気配を潜めていた。任務のためだ。
男の名はヴェルクス。
断罪のヴェルクス——オクタヴィアと並び称される、A級の賞金首だ。
* * *
「あいつが言うには、ここは異世界らしいが……」
ヴェルクスは立ち止まり、あたりを見渡した。
昼の繁華街。
通りの両側に店が並び、見上げるほどの建物がいくつも連なっている。
壁面には看板や文字がひしめき、読めもしない文字が踊っている。
地面はどこまでも黒く均一で、石畳の一欠片もない。
空を仰げば、頭上を巨大な建物が埋め尽くしていた。
(……何だこれは)
人の数も尋常ではない。
全員が同じような格好をして、手に小型の板を持ち、ひたすら歩いている。
壁に巨大な板が貼り付けられており、そこに映像が流れていた。
人が何人か立ち止まって眺めている。
ヴェルクスもつられて視線を向けたが、意味が分からずすぐに外した。
「なるほどな、たしかに違うな」
ぽつりと独り言ちた。
(しかしボスも無茶な指令を出すもんだ。ここから神谷直哉を探せとはな)
人が次々と正面から歩いてくる。
ぶつかりそうになるたびに、向こうの方が先に避けていく。
何度続いても、誰も声を荒げない。
(あー、くそ、それにしても人がうぜえな。プチっと殺しちまうか……)
直後、ボスの言葉が頭の中で反芻した。
——異世界の戦力はまだ不明。まずは穏便にやれ。
ヴェルクスはあたりをもう一度眺めた。
誰も武器を持っていない。暴力の気配がない。
それぞれが用事で動いている、ただそれだけの場所だ。
「はあ」
短くため息をつき、ヴェルクスは歩き始めた。
「まずはコマを増やすか」
* * *
5分ほど歩いたところで、路地の角から笑い声が聞こえた。
20代前後の若者たちが、だらだらとこちらへ向かってくる。
派手な色の上下に、じゃらじゃらとした金属の装飾。
染めた髪。不遜な歩き方。
ヴェルクスはそれを見て、ゆっくりと足を緩めた。
「おいおい、なんだあれ」
1人が指を向けた。ヴェルクスの服装だ。
深色の外套、異世界の仕立てによる、この国にはない形の衣類。
昼の繁華街には、どこをどう見ても馴染まない。
「コスプレ? 中世のやつ?」
「ダッサ。どこの文化祭から来たんだよ」
笑い声が上がる。
ヴェルクスは聞こえていないような顔で、ゆっくり歩き続けた。
(はい、釣れた)
無視したことで火がついたらしく、1人がヴェルクスの前に回り込んだ。
「おいおっさん、無視してんじゃねーよ」
ヴェルクスは立ち止まり、男を見下ろした。
一瞬だけ、男の体が固まった。
すぐに肩をそびやかして取り繕う。
残りの6人も半円を描くように広がり囲む。
ヴェルクスは口の端をかすかに上げた。
(上出来だ)
「あ? 笑ってんじゃねーよ」
男の1人がヴェルクスの胸を押そうとする。
が、その手をヴェルクスが掴む。
特に力を入れたわけでもない。それでも、男の腕は微動だにしない。
「なっ——」
ヴェルクスは手首を静かに戻し、解放した。
男が手首を押さえながら引きつった顔でこちらを見る。
後ろの連中がざわめいた。
「やっちまえ!」
7人が一斉に動いた。
先頭の拳が空を切る。
その腕を掴み、勢いのまま前方へ転がした。
男は受け身も取れず地面に叩きつけられた。
別の男は後ろから羽交い締めにしようとした。
ヴェルクスは振り返らず、肘を後方へ軽く流した。
鼻頭にぶつかり、男は尻餅をついた。
「ごっ……!」
3人目が飛び蹴りを放つ。
それを腕一本でそれを受け止め、脇に放り投げた。
男は壁際に転がり、その場で動かず呻いている。
残り4人が動きを止めた。
誰も前に出ない。
ヴェルクスは7人の中で最も体格のいい男に目を向け、何も言わずに歩いていった。
男が後退する。
ヴェルクスの手が伸びる。
5本の指が側頭部に食い込んだ。
アイアンクロー——男の体がゆっくりと宙に浮いた。
片腕だけで持ち上げられている。
「っ、ぎっ……!」
男がヴェルクスの腕を両手で掴み、じたばたする。
外れない。まったく動かない。
他の男たちは誰も動けなかった。
数秒後、ヴェルクスは男を地面に降ろした。
男は膝から崩れ、その場に座り込んだ。
しばらくして、震えた声が上がった。
「て、てめえ……俺たちのバックに誰がついてるか知ってんのか……!」
虚勢だ。声が揺れている。
「んじゃ、そこに連れてけよ」
顎でしゃくる。
男たちが顔を見合わせる。
逃げるという選択肢がないことは、全員が理解していた。
ヴェルクスは鼻を鳴らした。
(まあ、まずはこいつらから芋づる式に行くか)




