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現代ダンジョン奮闘記  作者: だっち
亡霊と声

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第184話 エンバルム ― 黒い呪詛

是非、ブックマークか評価を。

私にガソリンをください!!

エンバルムの身体が、岩を砕きながら転がっていった。


ズザザザッ……ドンッ!!


土煙が舞い上がり、視界が白く染まる。


「……や、やった……か……?」

陽平が息を呑みながら呟く。

その声には、期待と恐怖が入り混じっていた。


「ば、ばか! おま、それはフラグ……!」


砂煙がゆっくりと晴れていく。

そこには——

エンバルムがいた。


立ち上がろうとして、しかし片膝をついたまま動けず、片手で地面を押さえ、荒い呼吸を繰り返している。

黄金の瞳だけが、まだ爛々と光っている。


「……人間……ども……」


ひび割れた声。

だが、その奥には確かな憎悪が宿っている。


「ここまで……我を……追い詰めるとは……!」

ギリ、と歯を鳴らし、血を吐きながらも、6人を睨みつける。


「だが……これで……終わりでは……ない……」

身体に亀裂が走るような音がした。

だがそれは肉体の崩壊ではなく、内部の魔素が暴走し始めた音だった。


「人間に……我が……!」

怒りと憎悪が魔素と一緒に噴き出す。


「覚えておけ……必ず……!

ヌシらを喰らう日まで……!

人間という種が……朽ち果てるその時まで……!」


空気が軋む。

「呪ってやる……その命も……未来も……すべて……!」

視線が1人ひとりを削り取るように走る。

そしてエンバルムの身体が、ガクンと力を失った。


ドウッ……!!


エンバルムの体表から、膨大な魔素が噴き出した。

青白い奔流が天へと伸び、まるで魂が抜け出すように揺らめきながら広がっていく。


だがその魔素は、大地に吸収されることを“拒んでいた”。

地面に触れた魔素が、ビリビリと震え、まるで何かに怯えるように跳ね返る。


「……なんだ、これ……」

直哉が息を呑む。


魔素は大地に溶け込むたび、黒い影のようなものが一瞬だけ浮かび上がり、すぐに消えていく。

不気味な光景だった。


やがて、魔素の奔流は弱まり、最後の光が消える。

完全な静寂だ。


数秒——いや、もっと長く感じる沈黙。


陽平が、恐る恐る一歩前に出た。

「……も、もう……立たないよな……?」


震える声で呟きながら、ゆっくりとエンバルムへ近づく。

そして、そっと手を伸ばし——


「……死んでる」


陽平が小さく言った。

その瞬間、全員の肩から力が抜けた。


「……っはぁぁぁああ……!」

篠崎が、その場で大きく息を吐いた。

膝に手をつき、肩で呼吸する。


「終わった……な、これ……」


「ええ……」

最上が剣を下ろす。

その直後。

ピロン、と軽い音が響いた。


「……あ?」

篠崎が目を瞬く。

最上も同時に自分の状態を確認し、息を飲む。


「……レベル、上がってる」

「マジで?」


篠崎が笑った。

「ははっ……久々だな、これ! 一気に来たぞ!」


「苦労した分、ちゃんと返ってくるのね」

最上も、わずかに口元を緩める。


* * *


全員の視線が、エンバルムの亡骸へと集まる。


直哉が腰から小型装置を取り出す。

魔石回収装置(コア・コレクター)

装置の先端をエンバルムの胸へ押し当てる。


ピィィィィィ……ッ


低い振動音とともに、エンバルムの体内から魔素が吸い上げられていく。

青白い光が渦を巻き、一点へ収束し、やがて——


コトン。


掌に収まるほどの結晶が排出された。

だが、その色は異様だった。


濃く深い。

まるで夜の底を閉じ込めたような、重い輝き。


「……これ、手のひらサイズなのに……濃すぎねぇか?」

武虎が思わず眉をひそめる。


篠崎が覗き込み、目を細めた。

「……5層レベルの魔石じゃねぇな。

下手すりゃ6層クラスでもおかしくないぞ」


「6層……?」

陽平が息を呑む。


最上も静かに頷いた。

「魔素の密度が異常ね。

普通の魔石とは……比べ物にならないわ」


直哉は慎重にそれを掴み、光の角度を変えながら観察する。

内部で魔素が脈動している。

まるで生きているかのように。


「……回収、完了だな」

その声に、全員がようやく息を吐いた。


エンバルムの核——

その証が、直哉の手の中にあった。


* * *


一息ついたところで、篠崎がゆっくりと周囲を見渡した。

「……にしても、すげぇ場所だな、ここ」


「ほんとに……」

最上も静かに頷く。


荒野。空気。魔素の流れ。

どれも、地球とはまるで違う。


「これが……異世界」

その言葉には、確かな実感があった。


「岸本さんから話は聞いてたけどよ。

実際に来ると、テンション上がるな」

篠崎が口元を緩める。


「同感」

最上も薄く笑う。


武虎が肩を回しながら苦笑した。

「軽く死にかけたけどな」


篠崎が一歩前へ踏み出す。

「よし、んじゃ町に行こうぜ。さすがに疲れた!」


「ラグナ、だったわよね?」

「ああ、すぐそこだ」

直哉が頷く。


* * *


数分ほど歩いた頃、石造りの町が視界に入ってきた。

だが、その安堵は一瞬でかき消される。


「……なんだ、あれ」

武虎が目を細める。

町の内部から、黒い煙がいくつも立ち上っていた。まだ消える気配がない。


「……普通じゃない」

直哉の声が低く沈む。

次の瞬間、全員が無言で地面を蹴った。


* * *


門へ辿り着くと、門番がこちらに気付いた。

しかし、その姿はいつもの彼とは違っていた。鎧は煤で汚れ、片腕には雑な止血が巻かれている。


「おい……一体何があった!」

直哉が詰め寄ると、門番は苦い表情で顔を歪めた。


「男が1人、町で暴れた」


「1人……?」

「ああ」

門番は唇を噛みしめる。


「でもな……話にならなかった。

ギルド総出で当たった。トップも全員だ」

沈黙が落ちる。


「それで?」

「……何もできなかった」

その言葉は重く、静かに落ちた。


「抵抗にすらならなかった。気づいたら、壊されて……終わりだ」

空気が一気に冷え込む。


「……そいつは」

「もういねぇ。暴れて……そのまま出ていった」

直哉が問うと、門番は首を振った。


その時、人混みの奥から誰かが駆け寄ってくる。

「……カミヤ!?」


見覚えのある顔だった。

直哉の表情が変わる。


「……あなたは」


JPギルドによく来てた人だ。

男は息を荒げながら、全員の顔を確認するように視線を走らせた。


「……JPギルドが」

男は震える声で続けた。

「JPギルド……襲われた」

「えっ……?」


それは報告というより、吐き出すような告白だった。

だが、その内容はあまりにも重い。


「最初に来たんだよ……あいつ……ギルドに……」

空気が止まる。


「みんな止めようとしたんだ……でも……止まらなかった。

机も壁も……全部壊されて……。

大部分は倉庫のほうに逃げたんだけど」

「それで、そのあとは!?」


「わからない、俺も逃げるのが精一杯で」

そこで男は口を閉ざした。


直哉はゆっくりと顔を上げ、ギルドの方向を見る。

「その男って……?」

「もういない」

男が答える。


「壊しに壊して……去っていったよ」

沈黙が落ちる。

数秒のはずなのに、妙に長く感じた。

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