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現代ダンジョン奮闘記  作者: だっち
亡霊と声

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第182話 エンバルム ― 激突する災厄

是非、ブックマークか評価を。

私にガソリンをください!!

転移門(ゲート)で移動した直哉が地面に膝を突いて体勢を整え、そのまま顔を上げて周囲を一瞥する。

お昼過ぎ、いつもの特訓で使っている岩場、異世界特有の大量の外在魔素――

想定通りだ。


「……着いたな、ドンピシャだ」

笑みを浮べながら立ち上がる。


武虎が拳を鳴らし、真弓が周囲を警戒しつつもわずかに息を吐き、陽平は木刀を構える。

「本当に飛ばしやがったな、あの化け物ごと……!」

「あとは、あのかみなりオヤジを倒すだけね」


「――ここで終わらせるぞ」


その視線の先で、エンバルムがゆっくりと拳を握り込みながら周囲を見渡し、内部から湧き上がる魔素の流れを確かめるように腕を振るう。


バチィッ……!!


雷が走る。

異様なほど滑らかに。


「……ここは……」


わずかに違和感を覚えながらも、すぐにその感覚を掴み取る。


「……ヌシら、我に何をした!?」


* * *


怒号とともに空気が震え、魔素が一気に膨れ上がる。

直哉は肩で息をしながらも口元を歪め、バットを担ぎ直しつつ前へ一歩踏み出す。

「ははは、そんなこと言うわけねーだろ、敵に情報バラすやつがいるかよ」


軽く首を鳴らし、視線を真っ直ぐぶつける。

「だけどな――これでお前は逃げ場なしだ」


その瞬間。


バチィィィッ!!


エンバルムの身体が雷化し、そのまま一直線に突き抜けるように突撃してくる。


「来るぞ!!」


直哉の叫びと同時に6人が弾けるように散り、それぞれが回避・迎撃・位置取りへと反射的に移行する。


ズドォォン!!


通過した雷撃が地面を深々と抉り、走った軌道が焦げた亀裂となって残る。


武虎が舌打ちしながら拳を構え直す。

「さっきより早いぞ、こいつ……!」


エンバルムが笑った。

「……なるほど」


片手を広げ、魔素を掴むように動かす。

「何故か懐かしいぞ……この感覚……!」


一瞬、過去を思い出すように目を細める。

だが次の瞬間、その感情ごと踏み潰す。


「――だが、今はいいだろう。ヌシらを壊すだけだ」


* * *


ドンドンドォォン!!


空間そのものが歪むほどの衝突が連続する。


だがその最中――


「はぁ……はぁ……」


炎が、揺らぐ。

篠崎の全身を包んでいた火躯の纏い(インフェルノ・モード)が、一瞬だけ不安定に揺れた後、徐々に小さくなっていく。


「……あ」


炎が消えた。


「……くそっ!」


「は?」

直哉が振り向く。


篠崎が肩で息をしながら呟く。

「すまねえ……3分の制約時間だ」

「……いや短ぇよ!!」


武虎が思わず叫びながら苦笑する。

「ウルトラマンかよ!!」


「うるせぇ!! こっちは全開でやってんだよ!!」

その一瞬、空気がわずかに緩む。


「よそ見か、余裕だな」


ドガァッ!!


エンバルムの拳が武虎を弾き飛ばし、そのまま流れるように次の標的へと踏み込む。


* * *


「まずい……押されてる……!」

直哉が歯を食いしばりながら後退し、仲間の位置を確認する。


篠崎さんは火力が低下。

みんなの消耗も激しい。


しかしエンバルムだけが、大量の外在魔素をとり込んでいる。

傷が治るほどではないが、それでも技が更に冴えていく。


「くそっ、まさかの異世界適正かよ!」


「……ふふ」

不利に傾きつつあるその状況下で、最上だけが笑った。


「最上さん……?」

直哉が驚いて声をかける。

「なんでそんな余裕なんすか……!」


最上が軽く剣を振り、視線を細める。

「ここ、魔素が扱いやすいのよ」


一歩踏む。

「いつもより……身体が軽い」


「いや今それどころ――」


最上が、ふっと笑う。

「ここなら……いけるかもしれないわね」


「……何が?」


最上は身体を地面につけるほど、低く低く構える。

その姿勢は人間というより獣に近く、呼吸と同時に全身の魔素を一点へ収束させながら、キィィィィンと魔素が甲高い音を奏でる。


「――瞬《《神》》」

ほんのわずかに唇を動かした瞬間、最上の姿が消えた。


(え――?)

時穿つ瞳(クロノス・ハック)を発動している直哉の目でも捉えられなかった。


次の瞬間。

エンバルムの背後で、ほんのわずかに空気が裂けるようなズレが生じ、その箇所に剣を振り切った格好で最上の姿があった。


「……は?」

武虎も陽平も真弓、そして篠原も同様に目で追えておらず、固まる。


そしてエンバルム自身もまた、反応する暇すらなく背後を取られていた事実に遅れて気付き、目だけをわずかに動かす。

次の瞬間、切り裂かれていた部位がバチィッと音を立てながら雷へと変質し、そのまま即座に再構築されて傷口を塞ぐ。


ダメージ自体は浅く致命には届いていないが、それ以上に全員の感覚を根本から揺さぶっていた。


「……まったく見えなかった……?」

直哉が呆然と呟く。


最上が振り返り、軽く首を傾げながら笑う。

「あっちゃー……やっぱりまだ粗いわね」


剣を軽く振る。

「動きに気を取られて、攻撃の制御が甘いわ」


そして笑いながら、5人に振り替える。


「さあ、ボヤっとしてる場合じゃないわよ?」


* * *


「砕陣!!」

断裂猛襲(ブレイクアサルト)!」

同時に響いた声とともに直哉と武虎が踏み込み、エンバルムを左右から挟み込んで打撃を叩き込む。


しかし当たる直前、エンバルムの身体が雷化する。


「また逃げ――」


ヒィィン。


空気が割れる音がした。


最上が割り込むように現れ、そのまま迷いなく剣を振り抜く。

雷化へ移行するわずかな“間”に刃が食い込み、エンバルムの両脚が断ち切られる。


「ぐぬ!?」


一瞬、動きが止まる。

雷が弾け、切断面が再構築される。


――だが遅い。


「入れェ!!」

直哉の砕陣が真正面から叩き込まれ、武虎の断裂猛襲(ブレイクアサルト)が追撃のように重なり、衝撃が一点に集中してエンバルムの身体を大きく吹き飛ばす。


「猪口才な!!」

怒号とともに雷光槌が振り上げられ、そのまま直哉へ振り下ろされる。


(来る――!)

時穿つ瞳(クロノス・ハック)・ゼロ!」

攻撃軌道上の分子運動を止める。


雷光槌がその領域へ突っ込み、霧散する。

しかし発動した瞬間にズキンと鋭い痛みが頭を貫く。


(『直哉、転移により残りの魔素が少なくなっています、注意してください』)

(くそ、こんな時に……わかった!)


舌打ちしながら状況を理解した直哉は、距離を取り、呼吸を整えながら、次の動きに備える。


* * *


「年貢の納め時だな、かみなりオヤジが!」

翼界(よくかい)で空を舞っている真弓が、そのまま砕陣弾を落とす。


エンバルムが腕を振り上げ、それを迎え撃つ。

雷を収束させて迎撃に入ろうとした瞬間、ヒィィンと空気を割く音と共に最上が現れ、振り抜いた刃がその腕を両断する。


バチィッと雷が弾けて制御が乱れたところに砕陣弾が直撃し、爆発が広がってエンバルムの身体を飲み込む。


しかしエンバルムは止まらない。

雷光が煙を突き破り、次の瞬間には武虎の眼前へ詰め寄る。


「チッ……速ぇな、クソが!」


振り抜かれる拳をかわすが、直後に回し蹴りが視界を横切る。

(かわせねえ!!)


ヒィィン。

3度目の空気が裂け、最上が割り込む。

振り抜いた刃が軌道を削り、致命の一撃だけを綺麗に外す。

「……っぶねぇ、今の完全にもらってたぞ!」


「トラ!」

直哉が即座に踏み込み、蜻蛉飛び(フリップ・ターン)を使った変則軌道で上空からバットを振り下ろす。


「はっ、言われなくても行くっての!!」

武虎が応じ、地面すれすれまで姿勢を落とし、滑り込むように足を送りながら断裂猛襲(ブレイクアサルト)を繰り出す。


「うぉぉらあああ、砕陣・ルクス!!」

律印(エフェクター)で光属性を纏った砕陣が、武虎の断裂猛襲(ブレイクアサルト)がエンバルムに叩き込まれる。


ドォンッ!!


ガギィィンッ!!


エンバルムは武虎の拳を片膝で受け止め、直哉のバットを額で真正面から受け止めた。

が、膝から額から血が噴き出る。


「なんだと……?」


「はっ、同じことさせるかよ!」

だが直哉と武虎の消耗も激しい。

多く魔素を込めた分、呼吸が荒くなる。


最上がエンバルムの流れを断ち、残り4人が無理やり流れを維持する。

その噛み合いだけで、戦線が辛うじて成立していた。


* * *


「はっ……はっ……」

最上の呼吸が徐々に荒くなる。

額に汗が滲む。


それでも。


「瞬《《神》》」

空気を切り裂く音と共に4度目の介入で、致命の攻撃を逸らす。

その一瞬で、全員が命を繋ぐ。


「くそ決定打が……決まらない!」

直哉が歯を食いしばる。


エンバルムの身体にも傷は増えている。

――だが足りない。


「トラ、陽平、真弓さん、まだ行けるか!?」


「おうともよ、ここで止まる理由がねぇだろ!」

「全然だよ、むしろこれからだ!」

「はっ、誰に言ってんのよ――まだ本番にも入ってないわ」


「君たち、攻撃にもっと魔素を込めなさい」

最上の視線は外さない。


「雷化は魔素量で強引に押し潰すのよ」

空気が張り詰める。


「人間どもよ……よくやる」

エンバルムが笑う。


戦いの中で初めて見せる、余裕ではない笑み。

“認めた”側の笑いだった。


「まさかあやつ以外に、ここまでやるものがいるとはな」

黄金の双眸が細まる。


「褒めてやる」

空気が重くなる。


「だが――」

魔素が膨れ上がる。


「ヌシらの攻撃では、我の命には届かん!

そろそろ仕舞いだ!!」


エンバルムが両腕を掲げる。


バリ……バリバリバリッ!!


雷光が吹き荒れる。

魔素が軋みながら膨張し、地面に散らばっていた瓦礫や石片が音もなく浮かび上がって渦を巻き始める。


「……まだだ……足りぬ……!」


さらに魔素を圧縮しながら拳を握り込み、その掌の上に青白い閃光と赤熱した魔素が混じり合っていく。


空が、白く染まる。

圧に耐えきれず裂けるように歪み、上空に巨大な渦が生まれ、その中心から雷と炎が重なった塊が形を取り始める。


ゴォォォォォォ……!!


まるで空そのものが引き裂かれて落ちてくるように、巨大な災害塊がゆっくりと生成されながら膨張し、周囲の瓦礫を強制的に吸い込み続ける。

熱風が吹き荒れ、地面が焼け、空気が揺らぎながら歪む。


「……来るぞ、ヤバい!」


直哉が叫びながらバットを握り直し、全身の魔素を引き上げつつ踏み込みの準備を整える。

武虎が歯を食いしばりながら拳を構え直し、陽平も難陀(なんだ)を展開する。


最上が意を決したように目を見開いた時、上空から真弓が着地する。

「はっ、どいつもこいつも仕方ねえ顔しやがって」

「姉ちゃん!?」


両手の拳銃をクルクル回しながら、前に進む。

「カミナリの次は岩か、この王様は。

随分と芸達者みたいだが、そんなもん、アタシには関係ねえさ」

目線に銃に向け、仁王立ちする。


「あのキモ筋肉(マッチョ)虫に、アタシの魔弾(デッドリー・ロック)を叩き落された時にさ――」

息を吐く。


「思ったのよ、もうこんな思いはご免だってさ」

真弓の全身を覆っていた身体強化の光が、拳銃へと吸い込まれるように収束していく。

その輝きは収束しきらず、逆に溢れ出し、銃口の前で歪な球体となって脈動を始める。


ピシ……ピシピシッ――

銃口の前で空間がひび割れた。


「なあ、相棒」

拳銃を見てわずかに笑う。


「次はこっちが潰す番だ」

真弓の拳銃が、限界を超えた輝きを放つ。


「我の前に立つか、人間よ。

その覚悟見事!」


エンバルムが咆哮する。

「――星砕き(スターフォール)ッ!!」


振り下ろされた瞬間、巨大な魔素塊が落下を開始しながら一気に加速し、空を裂きながら一直線に地面へ叩きつけてくる。


ドォォォォォォォォンッ!!!


すべてを消し飛ばす災害。

その中心に向かって、真弓がトリガーを引く。


「全部持っていきな――」

銃口が、空間ごと歪む。


「――魔砲(デッドリー・ボム)!!」

真弓の全魔素を込めた砲弾が、拳銃から噴き出した。


ドゥン!!!


発射と同時に衝撃波が真弓の背後を抉り取り、地面が放射状に吹き飛ぶ。

挿絵(By みてみん)


星砕き(スターフォール)と――正面から衝突した。


ギィィィィィィィィィィ――ッ!!!


雷と炎の災害塊と、空間崩壊を帯びた魔砲(デッドリー・ボム)が噛み合う。

拮抗した一点で光が圧縮され、色を失い、やがて“音”すら消える。


そして、世界が弾けた。


衝突点を中心に、衝撃が球状に膨張し、雷は砕け、炎は裂け、両者の魔素が互いを喰い潰しながら消滅していく。

下方へ押し潰されていた地形が押し返され、クレーターが持ち上がるように爆ぜる。


その中心で、両者の力は、完全に相殺された。

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