第176話 次なる標的は
是非、ブックマークか評価を。
私にガソリンをください!!
その日の探索を終えて、4人はカフェスペースの端に集まっていた。
「4層の感じは大分つかめてきたな」
武虎がコーヒーを飲みながら言う。
「だね。グールはゴブリンとそう変わらない強さだけど、痛みを感じてないのがやっかいだね」
陽平はサンドイッチを噛みながら眉を寄せて続ける。
「殴られても怯まないってだけで厄介度が跳ね上がる、間合いの詰め直しも効かねえし」
武虎がカップを置き直し、頷いた。
「スペクターもだ。
魔素攻撃以外無効ってのがな。
まあでも、油断させしなければ、なんとかなるな」
隣で直哉がストローでかき混ぜながら視線を上げる。
「でも、4層に行ける人が少ないのはなんでだろう。
3層とそう難易度が変わらない気もするけど」
「そりゃスペクターだろ。
魔素攻撃ができないやつだと、あいつはどうしようもない」
短く言い切り、目線で「分かるだろ」と示す。
「あ、そっか。身体強化できる人のほうが少ないもんね」
陽平が苦笑しながら、背もたれに身体を預ける。
「そういうこと」
「次はエンバルムだな」
直哉が落とした一言に、4人の呼吸がわずかに揃い、空気が自然と引き締まる。
「とりあえず岸本さんには連絡」
真弓がスマホを取り出して画面を開き、短く操作しながら顔を上げる。
「そうだな」
* * *
会議室に入り、4人はそれぞれの席に腰を下ろしながら視線を揃えた。
「お待たせしました」
岸本が資料を抱えて入室し、椅子を引いて腰を下ろすと同時にファイルを開く。
「4層の状況、共有ありがとうございます」
ページを捲りながら言葉を整え、軽く視線を上げる。
「それと、エンバルムについてですが――」
一拍置いてから、手元の資料を指先で押さえた。
「先日交戦した五十嵐さんからヒアリングをしています。
あくまで参考情報ですが、現在の個体は以前より明確に成長しているとのことです」
淡々と伝えながら、4人の反応を順に確認する。
「やっぱ強くなってるんですね」
「防御の硬化、攻撃の速度、どちらも上がっているようです。
それと――倒せはしたが、おそらくリエントリーしただろう、と」
岸本が指で該当箇所をなぞり、静かに補足する。
「リエントリーするモンスター、か」
武虎が腕を組んで眉を寄せ、視線を落としたまま短く呟く。
「戦闘中の学修能力も高いようです。
おそらく五十嵐さんに倒されたことで、さらに強くなっている可能性があります」
岸本がファイルを閉じかけてから、わずかに手を止める。
その空気を一度受け止めてから、直哉が背中を起こして口を開いた。
「それなんですけど、俺達、エンバルムを倒そうと思っています」
「ちょっ、何を言っているんですか!
だめですだめです!
エンバルムは探索者の能力を奪っている、それにリエントリーもするんですよ!?」
「それなんですが、倒し方を考えたんです」
短く言い切ると、武虎と真弓、陽平もそれぞれ小さく頷いた。
「……伺っても?」
岸本が視線を戻し、わずかに身を乗り出す。
「エンバルムをダンジョンで倒さず、俺の転位門を使って、アル・テラスに送るんです」
「アル・テラスで倒す、と?」
「そうです。
アル・テラスならリエントリーは起きないでしょ」
「なるほど……確かに理にかなっています。
しかしアル・テラスに送った後は誰が倒すんですか?」
岸本が眉を寄せながら問い返すと、直哉は一瞬だけ間を置き、口元を軽く上げた。
「そりゃ、俺達が倒しますよ」
言いながら拳を軽く握る。
「いや、それは、しかし……リスクが高い!
あなたたちの実力は聞いています。
4層でも十分に戦えると。
しかし4層の上位探索者でもエンバルムにやられているのですよ!?」
「大丈夫です。
あ、いや、大丈夫かはあれですけど。
でも、俺達も何も考えずに戦うわけじゃない。
勝算はあります」
数秒の静寂のあと、岸本が視線を落としてから小さく息を吐いた。
「……わかりました」
ファイルを閉じて姿勢を整え、改めて4人を見る。
「ただし、五十嵐さんの情報から判断するに、相当な負荷がかかる戦闘になります。
必要であれば増員も検討できますが、いかがしますか?」
柔らかいが逃がさない問いに、直哉は視線を横へ流し、仲間の顔を順に見てから指先で机を軽く叩く。
「うーん……」
短く唸り、息を整えてから顔を上げる。
「できれば、4人だけでやってみたいです。
それにエンバルムの技に対しての対抗策も、俺たちなりに考えて、いけると踏んでいます」
言い切りながら視線を逸らさず、武虎も隣で顎を引いて意思を重ねる。
「……承知しました」
岸本はその表情を1人ずつ確認し、ゆっくり頷いた。
「こちらで手伝えることがあれば、遠慮なくおっしゃってください」
ペンを仕舞いながらそう結び、場の張り詰めた空気が少しほどける。
* * *
会議室を出て廊下に出ると、直哉は肩を回しながら息を吐き、武虎の方へ視線を投げる。
「決まったな」
軽く笑いながら言うと、武虎が口の端を上げて歩調を合わせる。
「だな、やることはシンプルだ」
ポケットに手を入れたまま前を見る。
そのまま場所を移したテーブルでは、すでにヤスが待っており、顔を上げてにやりとした。
「どうやら話はまとまったようですな」
椅子を引いて招きながら、目を細めて4人を見渡す。
「ああ、エンバルムを倒す」
直哉が腰を下ろして即答し、両肘をテーブルに乗せる。
「拙者は直接は出られぬが、準備は全力で整えますぞ」
ヤスが胸を叩いて笑い、すぐに真剣な目に戻る。
「情報整理、対策装備、必要なものはすべてこちらで支援するでござる」
指を折りながら挙げていき、最後に軽く頷いた。
「頼りにしてる」
「5人でやる、って形だな」
誰にともなく言いながら拳を軽く握ると、空気が自然に揃う。
「拙者は後方支援、とはいえ戦場に立つのと同じ覚悟でござる」
ヤスが静かに言い添え、目の奥に光を宿す。
「十分だよ、それで」
直哉が頷き、テーブルに拳を軽く置く。
「じゃあ――次で終わらせる」
短く言い切ると、武虎、真弓、陽平がそれぞれ拳を重ねるように寄せ、ヤスもその横にそっと手を置いた。




