第174話 作戦会議
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私にガソリンをください!!
翌朝、5人はヤスのラボに集まっていた。
ソファーに寝転がったまま、直哉が軽く手を振る。
「よし、んじゃ話まとめるか。イチカ、頼む」
『はい、始めます。ライトオフ、ホログラム起動』
その言葉に反応して照明が落ち、中空に淡い光が浮かび上がる。
輪郭が形を取り、やがて立体映像へと変わっていく。
「おぉ、こんなことが……」
「イチカ氏、魔石を使っていますな」
『はい。視覚的に表現したほうが理解しやすいと判断しました」
中空の映像が切り替わる。
『対象、エンバルム。
半年前、第3層で交戦したゴブリン王です」
宙に浮かんだエンバルムが鉄棍を振り回し、重たい音を響かせた。
『能力は傲慢の極み。
同族を吸収し、エネルギーに変換する能力です。
吸収時には治癒も発生しています』
「ああ、何度もダメージを与えたけど、その度に回復された覚えがあるよ」
『直哉は足を断ち、左腕も半ばまで切り裂きましたが、すべて瞬時に回復しています』
映像の中で、その様子が再現される。
「まじか、あそこまで深い傷が一瞬で」
「遠くで見えてなかったけど、これはえげつないな……」
『五十嵐様との戦闘では致命傷を受けていますが、その際も回復しています。
ただし数百体のゴブリンを吸収しています』
「傷の深さに応じて、数が必要ってことか……」
「でもさ、見てよあれ。
ぐちゃぐちゃに捩じれてんのに戻るってヤバすぎだろ」
『当時のエンバルムの戦闘力は、アル・テラスで戦った巨人以上、ネオ・セリッド未満です』
「ネオ・セリッドって、ヴァルドさんたちと戦った、でかいワームだよな。
それより下ならなら、まだなんとかなるか……」
『しかし、現在はさらに強化されているものと思われます。
岸本様のレポートによれば、4層で多数のグールやスペクターの吸収、そして探索者を吸収しているとのことです』
「俺達が戦った時は狼は吸収してなかったよな。
ってことは、能力が強くなったのか?」
『はい、そのように考えるのがよいです
そして能力が強化された結果、相手の能力が確立で強奪できるようになったと思われます』
「そういえば、そんなこと言ってたよな。
強奪された能力って何なの?」
『強奪された能力は3つ。
そのうち2つが判明しています』
わずかに間を置く。
『1つ目は星砕き。
広範囲に高威力の破壊を発生させます』
映像のエンバルムが鉄棍を掲げると、周囲の物体が吸い込まれて岩塊になる様子が映し出される。
「なるほど、巨大な燃える岩を作り出してぶっ叩くのか」
『はい、そうです。
単純なだけに威力も高く、自分を中心に20メートルほどの範囲を破壊します』
『2つ目は雷鳴の衣。
身体を雷に変換し、高速移動を可能にする能力です』
「雷に……なるのかよ」
『接触時には雷撃として攻撃可能です。
また、変換中は攻撃を無効化できます」
「それ、相当やばいだろ」
「星砕きよりこっちのがキツいな」
「速度と無効化か……嫌な組み合わせだ」
『雷鳴の衣の対応は、時穿つ瞳・ゼロを推奨します』
「ああ、そうか!
自然現象なら、時穿つ瞳・ゼロで」
『はい、無効化が可能です。
雷は質量が極めて軽いため、全身停止も可能です』
「なるほどな、タイミング勝負だな」
『そこは私が補助します』
「わかった、頼むぜ」
* * *
「で、あとは転移門だな」
ソファーから起き上がり、直哉が軽く腕を組む。
「どうやって潜らせる?」
「そりゃもう、無理やり押し込むしかないんじゃない?」
「まあそのぐらいしかないよな。
お願いを聞いてくれるわけないし」
「アル・テラスに転移させるとして、どこに転移させる?
人がいないとことじゃないとまずいでしょ」
「コル・フェルム高地は?」
武虎が首を傾げる。
「あそこは、確かに人はいないけど、万が一にもオクタヴィアに出会ったらまずいだろ」
「だよな……」
少し考えてから、直哉が手を打つ。
「なら、俺がいつも特訓している岩場にしようぜ。
あそこなら人を見たことないし、ラグナからも結構近い」
「へー、そんなとこがあるんだな。
よし、ならそこにしよう」
「転移させた後は、正面から、だよな」
「ああ、それしかないっしょ」
「よし、決まりだ!
そしたら岸本さんにメール送って、そのあとはレベル上げだな」
* * *
その日の第4層は、前日よりも深く進んだ。
グールとスペクターを倒しながら、探索範囲を広げていく。
第4層は第3層とは比べ物にならないほど広い。
墓地荒野が続き、遠くに崩れた石壁が見える。
「エンバルムってどのあたりにいるんだろうな」
『ギルドの報告では、定まっていないようです。
ただ、第4層を網羅的に移動しているのは確かです」
「レベル上げ、か」
『はい、そのようです』
4人は縦横に走りながら地形を確認していった。
戦闘は続く。
グール、スペクター、たまに二種が混合したグループ。
いずれも、5人には大した脅威ではなかった。
武虎がグールの群れを3秒で片付けた。
陽平がスペクター5体に難陀で怯ませ、真弓が一掃した。
直哉は索敵の合間に直接処理した。
「連携がよくなってきてるな」
『はい。判断の速さが上がっています。
アル・テラスでの経験が反映されていると思われます』)
その感覚は確かにある。
複数の敵が来たとき、どこから崩すかを考える前に動けている。
陽平が汗を拭きながら言った。
「なんか……強くなってるよね、俺たち」
「向こうで色々あったからな」
武虎が言った。
「なんだかんだ、向こうで死ぬ思いをしたのが、血肉になってる感じがあるぜ」
自然と、全員が笑った。
* * *
『本日で第4層の約3割をマッピング完了しました』
帰り際、イチカが報告する。
「了解、良い感じだな」
『石壁の向こうに未確認区画が存在します』
「オッケー、明日も続行だな」
『了解しました』
出口へ向かいながら、直哉は今日の戦闘を振り返る。
確かに苦戦はしていない。
だが、それはエンバルムに通用する保証にはならない。
単純な敵とは違う。
吸収し、学習し、強くなる。
それが問題だった。
(やり方を変えないと)
そう考えながら、地上へ出る。
外の光が少しだけ眩しかった。
* * *
夕方、岸本から連絡が届く。
「第4層の記録を確認しました。共有事項があります。
エンバルムの被害報告が20件に到達しました」
直哉は画面を見る。
20件。
4層にいる探索者数を考えれば、異常な頻度だった。
直哉は内容を全員に転送する。
既読はすぐについた。
武虎から短く返る。
「急ごう」
スマートフォンを置く。
やることは変わらない。
探索、強化、作戦。
ただ――時間は限られている。
(明日も行く)
そう決めて、直哉は静かに息を吐いた。




