表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
現代ダンジョン奮闘記  作者: だっち
亡霊と声

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

193/277

第169話 生還者たちの夜

是非、ブックマークか評価を。

私にガソリンをください!!

転移門を抜けた瞬間、視界がぐらりと揺れた。

足元の感覚が一瞬だけ消え、次に戻ってきたときには、もうJPギルドの共有スペースの床がそこにあった。


「……っはぁ……生きてる……?」


陽平が膝に手をつき、肩で息をしながら周囲を見回す。

真弓は壁にもたれかかり、銃を握ったまま指先を震わせていた。

武虎は無言で額の汗を拭い、ヤスは尻もちをついたまま放心したように天井を見ている。


直哉は、しばらく何も言えなかった。

胸の奥がまだ戦闘の余韻でざわつき、脈が落ち着かない。

あの異形の巨体、オクタヴィアの狂気――すべてが脳裏にこびりついて離れなかった。


「……戻ったんだよな、俺たち」

誰に向けたわけでもない呟きだったが、全員が小さく頷いた。


「戻りましたな……間違いなく……」

ヤスが震える声で言い、胸に抱えていた荷物をそっと床に置いた。

その中には、研究所から回収した書物がぎっしり詰まっている。


「……さすがにやばかった」

真弓が息を吐き、銃をホルスターに戻す。


「あれでA級とか、やばいよな……なんだんだよ、あいつ……」


「あれでA級なのか……」

「ああ、イチカが言うにはギルドでも指名手配中だってさ」


「ねえ、もう1人いたけどあれってさ……」

「なんらかの組織、なんだろうな」


「言うな、思い出すだけで胃が痛ぇ……」

武虎が眉間を押さえた。


直哉は深く息を吸い、ようやく落ち着きを取り戻し始めた。

そのとき、共有スペースの奥から足音が近づいてきた。


「お帰りなさい。

……随分と、ひどい顔をしていますね」

田所だった。


「何があったのですか?」

直哉は椅子に腰を下ろし、喉の奥に残るざらつきを押し込むようにして言葉を探した。

そして、ゆっくりと語り始めた。


コル・フェルム高地の魔素異常。

ムカデの大移動。

奇形化したダイア・ウルフ。

ワイバーンの共食い。

研究所の発見。

そして――オクタヴィアと、終極融合(ラスト・アマルガム)


田所は一度も口を挟まず、ただ静かに聞き続けた。

話が終わる頃には、共有スペースの空気が重く沈んでいた。


「……なるほど」

田所は深く息を吐き、眼鏡の位置を直した。

「想像以上に深刻ですね。

魔素の乱れは自然現象ではなく、人為的なもの……それも、かなり悪質な」


「悪質どころじゃねぇよ」

武虎が吐き捨てるように言う。

「ありゃもう、狂ってる。

あんなもん作って何が楽しいんだよ」


「……あいつ、まだ生きてるよね」

陽平が不安げに言う。

「研究所、崩れてたけど……あれくらいじゃ死なないよね」


「死なないでしょうね」

田所は即答した。

「A級指名手配犯というのは、そういう存在です。

我々も外出する手前、そういった情報を集めていますが、A級以上は化け物だらけです」


直哉は拳を握った。

あの狂気の笑み、異形の腕、ゴキブリ脚の軌道、そして最後の怒り――どれも忘れられない。


「……でも、今は戻ってこれた。それで十分だろ」

武虎が肩を回しながら言う。

「次にどうするかは、それから考えりゃいい」


「そうですな。まずは休息が必要ですぞ」

ヤスが頷き、荷物を抱え直した。

「書物の整理もありますし、転移門の解析も続けたいところですが……今日は無理ですな」


「うん、今日はもう無理」

真弓が椅子に沈み込み、天井を見上げた。

「寝る。絶対寝る。

夢に出てきたら泣く」


「俺も寝る……」

陽平も同じように椅子に沈む。


直哉は立ち上がり、深く伸びをした。

背中の筋肉がぎしぎしと音を立てるように痛む。


田所は穏やかに頷いた。

「皆さん、本当にお疲れさまでした。

無事に戻ってきてくれて、何よりです」


その言葉に、直哉は少しだけ肩の力が抜けた。


共有スペースを出ると、廊下の空気がひんやりと肌に触れた。

戦闘の熱がまだ体に残っているせいか、その冷たさが妙に心地よかった。


「……なあ」

武虎がぽつりと呟く。

「研究所、どうするよ?」


「行くよ」

直哉は迷わず答えた。

「転移門がある限り、放っておけない。あのままじゃ、もっとひどいことになる」


「だよな」

武虎は小さく笑った。

「まあ、次はもっと準備していこうぜ。あの野郎、絶対ぶっ倒す」


「うん……次は負けない」

陽平が拳を握る。


「拙者も秘密道具を増やしておきますぞ」

ヤスが胸を張る。


「……私は、もうちょっと火力上げるわ」

真弓がぼそりと言った。


直哉は仲間たちの顔を見て、自然と笑みがこぼれた。

「よし、じゃあ今日は寝よう。明日からまた考えよう」


5人はそれぞれの部屋へ向かい、静かな廊下に足音だけが響いた。


戦いは終わっていない。

むしろ、始まったばかりだ。


だが――今だけは、休んでいい。

そう思いながら、直哉は自室の扉を開けた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ