第165話 研究所 ― 白衣の狂宴
是非、ブックマークか評価を。
私にガソリンをください!!
「さて――」
くすり、と喉の奥で笑いを転がしながら、オクタヴィアはゆっくりと視線を巡らせる。
「アナタたちは、どんな味がするのかしら……楽しみだわ」
ぬめるような視線が、上から下へと5人を舐めるようになぞっていく。
その粘ついた観察に、思わず息を呑む声が漏れた。
「……っ」「ひぇ……」
「うふふ」
やがて、ぴたりと視線が止まる。
「1人、素人がいるわね」
口元を歪めながら、わずかに楽しげな色を乗せる。
「商人……いえ、魔法道具技師ってところかしら?」
「ひえぇぇっ!? バレているでござる!!」
ヤスが跳ね上がるように反応する。
「安心なさい。弱い子を先に狙う趣味はないの。アナタは一番最後にしてあ・げ・る」
「ぜんっぜん嬉しくないでござる!!」
「ヤス! 下がってろ、巻き込まれる!」
直哉の叫びに、
「は、ははーっ!!」
と半ば悲鳴じみた返事を返しながら、ヤスはドタドタと全力で後方へ退いた。
その背中を一瞥したオクタヴィアは、興味が尽きたように視線を外し――
「さて」
と一歩、前へ出る。
コツッ、とヒールの音が鳴った瞬間、空気が張り詰めた。
「まずは――小手調べね」
スッ、と掌を向けた、その直後。
ドンッ!!
空気が弾ける音と同時に、圧縮された魔素弾が一直線に真弓へと突き抜けた。
「っ!!」
咄嗟に反応した真弓は、両手の拳銃を十字に交差させて防御を取る。
ガキンッ!!
鋭い衝突音が響き、足元がズリッと滑った。
「くっ……!!」
押し込まれる。
だが、そこで歯を食いしばり――
「……っ、そ……ったれぇ!!」
身体強化を一気に全開へと引き上げる。
ギンッ!!と圧を押し返し、そのまま勢いを乗せて――
「せぇぇぇぇああッ!!」
バシュッ!!
魔素弾を上空へ弾き飛ばした。
天井へ直撃したそれは――
ドォンッ!!
爆音とともに破片を撒き散らし、崩れ落ちる。
「真弓!?」
武虎が一瞬、視線を向けた――その刹那。
「あらあら――よそ見はダメよ?」
「なっ――」
次の瞬間には――武虎の目の前だった。
振り上げられる拳。
「……ッ!」
長年の経験が反射的に体を動かす。
紙一重で回避したその横を、風圧が鋭く頬を裂いた。
ドゴォン!!
拳が床に叩きつけられ、爆ぜるように地面が砕ける。
「ちっ……!」
そのまま間合いを詰める。
「砕陣ッ!!」
赤い魔素が拳へと収束し、振り抜いた一撃が叩き込まれる――が、
ズドォン!!
「うふふ、いい攻撃ね」
受け止めた腕は、すでに岩陣で覆われていた。
「でも……35点」
びくともしない。
次の瞬間――
ドンッ!!
体当たりで武虎の体が吹き飛ばされる。
「――がっ!?」
ズザァァァ!!
床を削りながら滑る。
「トラッ!!」
直哉が叫ぶ。
「くそっ……身体強化――剛!」
「精霊顕装!!」
陽平の周囲に水の揺らぎが立ち上がる。
「あら……精霊?」
オクタヴィアの目が、興味深げに細められる。
「珍しいわね……興味深いわぁ」
その視線に、ぞくりとした悪寒が走る。
* * *
「いくぞ、陽平!」
「ああ!」
ダンッ!!
同時に踏み込み、左右から連撃を叩き込む。
ガンッ! ギィン! ドッ!!
しかし――
すべてが軽やかに流される。
柳のように、受け流し、いなし、かわす。
「うふふ、遅いわよ」
間合いが、完全に支配されている。
「くそったれが……まだ腕がいてぇ……!」
真弓が舌打ちしながら銃口を上げる。
「100倍返しだ、このキモ筋肉!!」
ズダダダダダッ!!
瞬陣弾の嵐が空間を埋め尽くす。
「うふふふ……」
弾幕の中でさえ、笑っている。
バチン、バチン、と弾きながら――
「やるじゃない」
余裕すら感じさせる声音。
「楽しいわね」
口角が、吊り上がる。
「押し込むぞ!!」
直哉の踏み込みに合わせて、武虎も間合いを詰める。
左右から挟み込むように、同時に振り抜いた打撃がオクタヴィアを襲う。
「砕陣ッ!!」「オラッ!!」
赤い魔素をまとったバットが左から、黒い稲妻を纏った拳が右から叩き込まれる。
その2人の影から隠れ出るように、水刃がうねりを上げる。
ギィンッ――
弾かれる。
だが、そのまま終わらない。
「まだだ!」
さらに踏み込み、続けて打撃を重ねる。
ガンッ、ドンッ。
一撃ごとに重さを増していく。
今までなら防御されていたタイミングに、水刃と打撃が噛み合う形で重なり、オクタヴィアの体に傷が増えていく。
「……いけるぞ」
小さく漏れる声。
「このまま押し切るぞ!!」
さらに踏み込む。
武虎が一歩深く入る。
「断裂猛襲ッ!!」
拳に集束した魔素が爆ぜ、そのまま叩き込まれた一撃は、さきほどとは明らかに違う手応えを残した。
ドォンッ!!
激しい衝撃に血が、弾ける。
「――通った!」
オクタヴィアの動きが止まったように見えた。
ほんの一瞬。
そこへ更に瞬陣弾が重なる。
ズダダダダッ!!
真弓の弾幕が間を埋めるように入り、逃げ道だったはずの空間を塗り潰していく。
「逃がすかよッ!!」
射線が収束する。
水刃、打撃、弾幕。
すべてが一点に集まり、逃げ場が消える。
「うふふ、やるじゃない」
劣勢なのに余裕のある声。
「――もう一段階、上げるわよ」
背後へ手をかざす。
ぐにゃり、と培養槽が歪む。
「さあ――起きなさい」
低く、耳元で囁くように。
「異質融合」
――ドクン。
空気が脈打つ。
一部の培養槽の中身が消え――そのままオクタヴィアの体へと吸い込まれていく。
「……っ!?」
ミシ、ミシと嫌な音を立てて、腕が膨張する。
床に届きそうなほどの異常な長さ。
巨人の腕だった。
さらに皮膚が裂け――その内側からドラゴンの鱗が浮かび上がる。
武虎が立ち上がりながら呻く。
「体が……変わりやがった!?」
直哉が息を呑む。
「そういうことか……! だから――合骸のバルグ!!」
「……その名前」
オクタヴィアの笑みが、消える。
ゆっくりと顔を上げたその目は――まったく笑っていなかった。
「好きじゃないのよね」
ゾワリと、背筋を這う悪寒。
「うふふ……ちょっと――手加減、できなくなっちゃうかも!!」
ドォンッ!!!!
床を砕く爆発的な踏み込みと同時に、一直線に突っ込んできた。




