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現代ダンジョン奮闘記  作者: だっち
亡霊と声

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第164話 研究所 ― 歪んだ美の実験

是非、ブックマークか評価を。

私にガソリンをください!!

「誰だ!?」


「そりゃこっちのセリフだ。いきなり人んとこ上がりこんで誰だってか? てめー、頭沸いてんのか」


「え、あ、いや……すみません。ここがまだ使われていると思わなくて……」


男は舌打ち気味に息を吐くと、胸元に取り付けた装置へ顔を寄せた。

「おい、妖艶の! てめーんとこの警備システム、どうなってやがる!!」


すぐに応答が返る。

『何言ってるのよ。

あなたが封印核を外しちゃったから、作動しなくなったのでしょう。

言ったはずよ?」


「あー……そうだったか」


(封印核……?)


男の持つ木箱の中で、黒い箱がいくつも音を立ててぶつかる。

その光景に、自然と視線が吸い寄せられた。


(……あれ……)


直哉の頭にイチカを入手したときの光景がフラッシュバックする。

黒い箱の形はどれも違うが、似た系統のように思える。


(『直哉、あの黒い箱から感じる波形。

あれは私と同型の封印核です。』)


一拍、間が合った。


(『……16機、全て揃っているようです』)


その間が、妙に長かった。

イチカが言葉に詰まることなど、これまで一度もなかった。


なぜか胸の奥がざわつく。

イチカから移ったのか、それとも自分のものなのか、直哉にはわからなかった。


「ひー、ふー、みー……16個か。これで全部なんだよな」

『ええ、そうよ。

残りの4つは疑似核だから必要ないでしょ。私が頂いておくわ』


「本当に大丈夫か? またボスにどやされるのは勘弁だぜ」

『大丈夫よ、私を信じなさい』


「けっ、何言ってやがる。

元はと言えば、お前が自分の研究のために隠してたのが悪いんだろうが!」

『悪いと思っているわよ。

だからこうして回収させてあげてるじゃないの』


軽い調子の会話だったが、男の視線は一度も完全にはこちらから外れていない。


「また面倒なことにならなきゃいいがな」

ぼそりと呟きながら、男は直哉たちを一瞥する。


値踏みですらない。

ただの確認――それだけで興味を切った。


「で、このガキども、どうするんだ?」

『ガキ?』


「ああ、5人。

冒険者じゃねえが素人でもねえ……そこそこってとこのガキだ」

『へえ……すぐそっち行くわ」


「んじゃ俺は帰るぜ」

『ご苦労様、ボスによろしくね』


「けっ、自分で言えや」


男は最後にこちらへ視線を向けると、軽く顎をしゃくった。

「人が来るからよ、ちょっと待っとけや」


そのまま転移門へ近づき、手をかざす。

「開け――オールドマーケット」


空間が歪む。

男はそのまま迷いなく踏み込み、転移門の中へ姿を消した。


* * *


「おい……今の、なんだったんだ……」

男が消えた転移門を見たまま、直哉が低くこぼす。


「わかんないよ……あいつ、普通じゃなかったよね。てかここ、ほんとに誰が使ってたの?」

陽平が周囲を見回すが、答えはどこにもない。


『いえ、ギルドにもそのような情報はありませんでした』

「……嫌な感じ」

真弓が腕をさすりながら呟く。


さっきの男の態度も、会話の端々も、どこか現実味が薄い。

こちらを敵とも認識していない、かといって無関係でもない。

まるで、“既に処理が済んでいるもの”を見る目だった。


「……待てって言ってたな」

武虎が短く言う。


「今のうちに帰るのは……」

「いやいや、転移門は目の前なんだぜ。

調べないわけにはいかないだろ」


「……いや、でもさ」


この場で“来る”と言われた存在が、まともであるはずがない。

静寂が落ちる。


* * *


コツ、コツ、と乾いたヒールの音が静まり返った通路の奥からゆっくりと近づいてくる。

その音だけがやけに大きく響き、妙に耳に残った。


「ふふふ……初めまして、皆さん。

私はオクタヴィア、ここの所長よ」

やがて姿を現した“それ”は、楽しげでいながら、どこか粘りつくような声音でそう告げる。


「……は?」

視線の先に立っていた存在を認識した瞬間――陽平の思考が止まった。


「うわぁ……姉ちゃん。変態だ、変態だよ……」

そこに立っていたのは――白衣だった。

いや、正確には白衣“だけ”だった。


素肌の上に無造作に羽織られた白衣は大きく前を開き、足元は素足にピンヒール。

その異様さに拍車をかけるように、身体は筋骨隆々の大男でありながら、下半身はブーメランパンツ一丁という、理解を拒む組み合わせになっている。

挿絵(By みてみん)

言葉を失うしかなかった。

空気が、一瞬で凍り付く。


その沈黙を楽しむかのように――

「かわいい男の子が4人と――ちんちくりんな小娘が1人」


オクタヴィアはゆっくりと首を傾げ、値踏みするような視線で順番に全員をなぞる。

「こんなところで、何をしているのかしら?」


「お、お、おおおおお、お前は一体なんなんだ!?」

「だから言ったでしょう?」


くすり、と喉の奥で笑いを転がす。

「オ・ク・タ・ヴィ・ア・よ」

「そうじゃねぇ! その格好だよ、その喋り方だよ!!」


「ああ、これ?」

ひら、と白衣の裾をつまみあげる仕草すら、どこか芝居じみている。

「これは好きでやってるわけじゃないの。

魔法装備よ。すんごい効果がついてるの」


「じゃあ喋り方はなんなんだよ!?」

「あらあら、人の個性にケチをつけるなんて――いけない子ね?」


コツッ、と一歩踏み出す音が響いた瞬間、空気の重さがわずかに変わった。

「お仕置き、したくなっちゃうわ」


(『直哉、注意してください』)

不意に、頭の中に声が響く。

(『ギルドの情報と一致しました。

名前は──合骸(ごうがい)のバルグ。

A級の指名手配犯です』)


(バルグ……A級?)

(『はい。オクタヴィアは偽名でしょう。ヴァルド様たちと同格と評価されています』)


(……マジかよ)

背筋を、嫌な汗が伝う。


「陽平、落ち着け」

武虎が一歩前へ出て、空気の主導権を取り戻すように口を開く。


「オクタヴィア、だったか。

お客様ってどういう意味だ?」

視線を一切逸らさず、オクタヴィアと正面から向き合う。


「ここ――お前の場所なのか?」

「そうよ、私の研究所」


さらりと答えたあと、少しだけ肩をすくめる。

「昔は別の人のものだったみたいだけど――誰も使ってなかったから、いただいたの」

「……勝手にかよ」


「いいじゃない」

まるで些細なことだと言わんばかりに言い切る。


「この辺り、管理なんてされてないわ。

いるのは野盗くらい。困る人なんていないでしょ?」


「……魔素の流れを歪めているのは、あなたですかな?」

ヤスが一歩踏み出し、静かに問いを投げる。


「質問の多い子たちね」

くすくす、と楽しげに笑ったあと、


「まあいいわ。答えてあ・げ・る」

わざとらしく区切りながら、わずかに声を落とす。

「――そうよ。私がやったの」


「なんでそんなことを……!?」

「決まってるでしょう?」

スッ、と両腕を広げるその仕草は、まるで舞台の幕を上げる役者のようで――


「私の作品の――エネルギーにするためよ」

自然と、全員の視線がその先を追う。


そこにあったのは、転移門。

そして、そこから無数に伸びるパイプ。


それらの先に並ぶのは――無数の培養槽だった。


大きさも形もバラバラなガラス槽の中に、歪んだモンスターが浮かんでいる。

その他にも、元の形が判別できないほどねじれた肉塊や、四肢を無理やり継ぎ足された何か。

そして巨人の腕や、ドラゴンと思しき翼までもが無造作に培養されていた。


そして――

それらすべてが、か細く、しかし確かに脈動し、“生きている”。


「……っ」

言葉が出ない。


「うふふ……美しいでしょう?」

ただ一人、オクタヴィアだけが、その光景の中で澄んだ声を響かせる。


「自然によって歪められた――美の極致よ」


「……イカれてやがる」

武虎が吐き捨てるように言う。


「あら、だめよ。そんなこと言っちゃ」

ゆっくりと首を横に振りながら、


「あなたたちも――そうなるんだから」

にたり、と口角が吊り上がる。


言葉の意味が、遅れて全員に浸透していく。


コツ――

オクタヴィアが一歩、間合いを詰める。


「ここを見て、そのまま帰れるなんて――そんなお花畑ではないでしょう?」


その一歩だけで、距離が消えたように感じた。

逃げ場が、ない。


「くそっ……やっぱりか!!」


「うふふ、いい素材になりそうだわ……楽しみ」

その瞬間。

膨大な魔素が、内側から“滲み出る”ように噴き出した。

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