第161話 入れない街と帰る場所
是非、ブックマークか評価を。
私にガソリンをください!!
「わざわざ見送りなんて、別にいいのに」
そう言いながら、直哉たちは門の前に立っていた。
「いえ、本当に……助かりました」
深く、かなり深く頭を下げる。
その動作が終わるまで、誰も口を挟まなかった。
「お気をつけて」
直哉は一瞬、何か言おうとした。
が、頭に浮かんだのは「はい」くらいで、結局それしか出なかった。
進むんデスにまたがる。
その直後、わらわらと子供たちが駆けてきた。
「おにいちゃーん!」
「また来てー!」
昨日助けた少年も、その中に混じっている。
直哉が手を挙げると、少年は一瞬ぎょっとしてから、ぷいっと顔を背けた。
「あ、照れてる」
陽平が声を潜めて言う。
「かわいいな」
武虎がにやにやする。
「ああ」
直哉は前を向き、スロットルを倒してホバーを動かした。
* * *
「……ここ、ほんとに街道か?」
名もない村を出て数時間。
旧帝国領の道は、想像よりもはるかに荒れていた。
路肩は崩れ、石が転がり、避けても避けきれない。
街道灯があったと思しき台座だけが、妙に律儀な間隔で残っている。
「帝国がなくなって6年って言ってたよな。
整備してないと、たった6年でもこうなっちゃうんだな」
武虎がぼやく。
「ですな。
我々もグラナード連邦に対して、不便だとあれこれ言っていましたが、それでもマシだったんですな」
農地だったはずの区画に、雑草が伸び放題になっている。
廃屋が点在しているが、人ひとりいない。
「……ねえ」
陽平がぽつりと言う。
「旧帝国領に住んでた人達って、どうなったんだろうね……」
「考えなきゃいけないのかもしれないけど、あんまり考えたくないなあ」
「俺たちにできることって、何なんだろうね」
「知らん!」
「身も蓋もないですな」
「だってそうだろ。
俺たちなんて5人だぜ。
できることなんて高が知れてるだろ。
手の届く人を俺たちのできる範囲で助ける、それでいいじゃねえか」
「まあ、確かにそれも真理かもしれませんな」
* * *
夕方が近づいた頃、街が見えてきた。
「……なんか壁、分厚くない?」
陽平が目を細める。
小さな街だが、防壁は異様だった。
石造りの壁が街をぐるりと囲み、門は鉄扉でぴったり閉ざされている。
「まるで要塞だな」
武虎が呟く。
「小さいくせに気合入りすぎだろ」
ホバーを降り、門の前へ行く。
鉄格子のついた小窓を叩くと、しばらくして中年の男が顔を出した。
「何の用だ?」
「旅の者です。街に入りたくて――」
「少し待ってろ」
窓が閉まる。
「……あ、閉じた」
陽平が小声で言う。
「あんま歓迎されてる感じじゃねえな」
武虎が頷く。
上を見ると、見張り台に影がいくつもある。
「ええ、歓迎ムード、皆無ですな」
ヤスも苦笑する。
しばらくして、今度は白ひげの年配の男が現れた。
「どこから来た?」
「グラナート連邦からです。ゴルタ経由で」
「目的は何だ?」
「コル・フェルム高地の調査です」
男はしばらく黙って直哉を見てから、言った。
「そうか。
すまんが、入れられん」
「理由を教えてもらえますか?」
「最近だが、同じように名乗った旅人を入れたことがある。
しかしその夜、その者が夜中に仲間を呼んで、門を内側から開けられた」
男の声は淡々としていた。
「30人以上が押し込んできた。
家が焼け、物資を奪われ、怪我人も大勢出た」
「……死者は?」
陽平が聞く。
「いない。不幸中の幸いだがな。
だが今も寝込んでいる者がいる」
沈黙。
「……申し訳ないが、誰であっても部外者を入れるわけにはいかない。
それがこの街の決めたことだ」
怒りではなく、どこか生きるのに疲弊したように淡々としていた。
「……わかりました」
直哉はそれだけ言って頭を下げた。
窓が閉まる。
* * *
門から少し離れたところで止まる。
「まあ、しょうがねえな」
武虎が肩をすくめる。
「うん、しょうがないね……」
陽平が空を見ると、夕日が落ちかけていた。
空の端が赤く染まっている。
「……んじゃ、今夜はラグナに戻ってゆっくりするか」
直哉が言うと、ヤスも頷く。
「ですね。
そういえば、この旅では初めてのラグナ帰還ですな」
「確かに。
今までは、何だかんだ街についてたもんな」
「田所氏の話だと、中央部に近づくほど、治安が悪くなる、でしたよね。
ここからは、更に街に入るのが難しいかもしれないですね」
「なんて言うか、街に入れてもらえないのって、結構クルものがあるよね……」
「……そうだな。
俺たちはラグナに帰ればいいだけだけど、他の人はそうもいかないし。
どうしてんだろうな」
直哉はもう一度だけ、街の壁を見た。
高い石壁が、夕日の中に黒く立っている。
あの中では誰かがまだ床についている。
燃えた家の跡がある。
それがこの一帯の「普通」だった。
直哉は小さく息を吐き、視線を壁から切り離した。
「……帰ろう。転移門」
* * *
食堂に入ると、田所がいた。
「お帰りなさい。今日はずいぶん早いですね」
椅子を引いて座り、直哉は旧帝国領で見たことを一気に話した。
流民、橋、水源、村、閉ざされた街。
田所は黙って聞いていた。
「厳しい現実ですね」
やがて言う。
「想像以上に、だな」
武虎が即答する。
「でもさ」
陽平が口を挟む。
「連邦のすぐ隣なんだよね、あれ」
田所がコップを置く。
「その街の判断は正しいと思います。
あの状況で見知らぬ旅人を入れないというのは、合理的な選択です。
問題はそういう選択をしなければならない状況が続いていることの方です」
「誰かが手を入れないと変わらないってことですよね」
「そうですね。
そう言えば、電話網を導入したことで、流通が活性化し、前よりもお金が回っているようです。
国が潤えば、グラナード連邦も旧帝国領に目を向ける余裕が出てくるかもしれません。
我々も微力ながら、貢献できるかもしれませんね」
「そうなるといいっすね……」
田所は少しだけ間を置いてから続けた。
「コル・フェルム高地への道中は順調ですか?」
「まあまあっす。
多分、あと3~4日で着けると思います」
「お尻は大丈夫ですか?」
「ええ、それはもう。
ヤスの作ってくれた進むんデスは最高ですね!」
「それは良かった。
実はアレ、JPでも予約制で販売を開始しているんですよ。
なかなかに好評ですよ」
「へー、それはいいっすね」
そこからは暗い話題も減り、こんなのあったらいいよな、と妄想話に花を咲かせるのであった。




