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現代ダンジョン奮闘記  作者: だっち
亡霊と声

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第160話 油断大敵

是非、ブックマークか評価を。

私にガソリンをください!!

翌朝、空が白みはじめるより少し前だった。


村はまだ寝静まっている。

戸口という戸口が閉じられ、川霧が足元を這っていた。


直哉は、老女から聞いた取水口の位置を思い返しながら歩く。

川沿いを上り、途中から獣道のような脇へ逸れる。

整った道はすぐになくなり、足元の石が増えた。


「……なんか静かすぎない?」

陽平が小声で言った。


返事をする前に、直哉も同じことに気づく。

流れているはずの水音が、どこかで切れていた。


少し進んだところで、それがはっきりした。


取水口は、完全に埋められていた。

石と土だけじゃない。

杭が打たれ、岩が積まれ、崩れないよう固められている。


「くそ、手が込んでやがる」

武虎が短く言う。


一時しのぎじゃない。

これは“使わせない”ための仕事だ。


「見張り、いるわね」

真弓が岩陰を指した。


焚き火のそばに3人。

革鎧はくたびれているが、武器の手入れは行き届いている。

姿勢はだらけているが、油断しているわけでもなさそうだ。


「3人だけ?」

陽平が首を傾げる。


直哉は、ほんの一瞬だけ足を止めた。

「イチカ?」

『この距離では不確実です。ただし、後方と連絡を取る手段を持っている可能性は否定できません』


「……用心しろ、ってことだな」


直哉は武虎と視線を合わせ、短く頷いた。

制圧は、速く、静かに終わらせる。


「あいつらやっつけて、堰止めを壊せば終わりだろ。

さっさとやって、水を通そうぜ」


武虎がニヤリとする。

「だな、正面から行くか?」


真弓が静かに銃を構え、陽平も木刀を構える。


戦闘は1分もかからなかった。


3人が踏み込む。

気付かれる前に、真弓が手加減した魔素弾を3人の目に打ち込み、怯んだところをそれぞれが腹パンして終わりだ。

「……拍子抜けだな」

武虎が腕を回す。


直哉が周囲を見渡し、首を傾げた。

「こいつらだけ、なのかな?」

「わからない。けど、さっさと壊しちゃおう」


取水口を開けるのも一瞬だった。

普通であれば石をどけ、杭を抜き、土を掻き出す必要があるが、バットを一振り。

それだけで鈍い音とともに、堰が崩れた。


そして、やがて水が少しずつ動き流れ始めた。


「……よし!」

直哉は立ち上がった。


「これでみんなが楽になればいいけど……」

陽平が言う。


直哉は1度だけ、上流の奥を見た。

その先は、草木に遮られて見えない。


* * *


昼前に村に戻ると、水路に水が戻ったことは、もう広まっていた。

人が集まり、老女は直哉たちを見ると、深く頭を下げる。


「……ありがとうございます」

その言葉に、直哉は一瞬言葉を失った。

何かこう、胸がざわざわするのだ。


「なあ、みんな。

なんかこう釈然としないんだけど、なんだろう、これ」

「神谷君も?

俺もそうなんだよね、なんかこうすっきりとしないというか……」


村人が口々にお礼を言ってくる。

子供が近寄ってくる。


なのに、胸の奥にひっかかるものが残った。


* * *


昼食は直哉たちが持ってきていた食材を出した。

アイテムバッグのお陰で、大量の食材を持ってこれていたし、何より、村の食事事情が思ったより酷かったからだ。

村人たちは、久々の大量の食事と濃い味付けに舌鼓をうっている。

子供のうまいうまいと頬を膨らませる様子に、ざわついていた胸も落ち着いていた。


「水が通れば、畑も戻るよな」

武虎が椀を持ち上げる。


「すぐには無理でしょうけど、こればかりは私たちもお手伝いできません」

ヤスが苦笑いする。


「まあ、それでも――」


外から悲鳴が上がった。

「やつらだ、やつらが来たぞ!!」


砂埃が舞う。

武装した男たちが山から下りてきて、すでに村に侵入していた。


30、40……それ以上。


「仲間を縛ったのは誰だ!!」


村人が逃げ惑い、老人が転び、子供が泣く。


「みんな走れ、俺たちより後ろに行くんだ!!」


直哉と武虎が前に出る。

真弓が翼界(よくかい)で空を飛び、陽平は村人を守るように位置取る。


(そうだよ、野盗が数人のはずないんだ。 なんで気付かなかった!)


手前の野盗は、直哉と武虎が止めた。

そこから抜け出ようとする野党を、真弓が空から狙い、陽平も難陀(なんだ)で複数人を薙ぎ払うように攻撃するが、圧倒的に手数が足りない。


「くそっ、人数が多い!」

「誰か他に動ける人はいないのか!?」


しかし奥にいた野盗が回り込み、背後からも悲鳴があがる。

挟まれた。

村人を庇いながら戦える数じゃない。


「神谷! ここは俺に任せろ!

村の人をフォローしてやってくれ!!」

武虎が怒鳴る。


直哉は走る。

老女に襲いかかろうとしている野党を、勢いよく蹴り飛ばし、隣にいた男も勢いそのままに吹きとばす。

そして側にいた少年に手を伸ばした――


がそれより前に、少年が野盗に捕らわれる。

男が少年の首に短剣を当てた。


「止まれ!!

来たら、このガキがどうなるかわかってるな?」


「ぐっ!」

直哉は足を止めた。

武虎も、真弓も、陽平も――動けない。


「へへへ、いいようにやってくれたじゃねえかよ」


少年が恐怖で見開いた目で直哉を見ていた。


(イチカ……何かあるか)

(『……いいえ、ありません、距離が開きすぎています。

時穿つ瞳(クロノス・ハック)・ゼロは識界(しきかい)の距離が足りません。

時穿つ瞳(クロノス・ハック)だけで動いたとしても、救助できる確率が不明確です』)

(くそっ、そうだよ、なんで3人で終りだって考えちゃったんだ!)


その時、ヤスが目で合図を送ってきた。

まるで自分に任せろと言っているような目だった。

直哉もそれに頷いて返す。


「おら、手前ら。

何ボケッとしてやがる!

さっさと武器を捨てやがれ!!」


「ちくしょう……」

直哉、武虎、真弓、陽平は、それぞれ持っていた武器を捨てる。

ヤスはそれを横目に、こっそりと時計のようなデバイスを操作している。


「よしよし、そうだ。

大人しくしとけば、このガキは生かしといてやる。

お前ら、こいつらがこれ以上逆らわないようボコッとけ」

「へい!」


* * *


同時刻、村の片隅に置かれていた進むんデス(マルチプル・ホバー)の1つから、プシュ、という小さな音と共に、ドローンが射出された。

それはすさまじいスピードで上空1000メートル程まで一気に上昇する。


そしてヤスはタイミングを見計らって、スイッチを押した。

(「映すんデスエアリー・ザ・フェイク起動でござる!」)


グォンという音と共に、ドローンの周囲に映像が展開される。


* * *


野盗が余裕の笑みを浮べながら近寄ってくる。


「く、くそう、どうすれば……!!」


「グギャー――――――!!」

唐突に、遠くからモンスターの雄たけびが聞こえてきた。


「な、なんだあれ!!」

遠くの空からグリーンドラゴンが雄叫びを上げながら羽ばたいてくる。

野盗と村人はそれを見て騒然となる。


野盗たちの足が止まる。

少年を掴んでいた男も、反射的に空を見た。


(『直哉、あのドラゴンから魔素が感じられません。

おそらく幻です』)

(……っ!?)


「ナオヤ氏、今ですぞ!!」

「わかった、イチカ!!」

(『煙幕弾(スモーク・カプセル)射出します』)


イチカが直哉の思考に応え、ありったけの煙幕弾(スモーク・カプセル)をばら撒く。

さらに千見眼(デュアル・サイト)を発動させ、煙の中に野盗の姿が浮かび上がる。

村人と間違えないよう、野盗の熱源のみ縁取りするイチカのサポート付きだ。


「ドラゴンが!」「な、なんだ、ドラゴンの毒ガスか!?」「くそう、何が起こってやがる!」


野盗が慌てふためく中、直哉の左目に紋様が浮かんだ。

時穿つ瞳(クロノス・ハック)


直哉は引き伸ばされた時間の中、猛スピードで男に接近し、少年を引き抜く。

腕に抱え、離れる。


男が振り向いた時、少年はもういなかった。

「……は?」

男は自分の手を見た。


少年は直哉の腕の中で、ようやく泣き出した。


「大丈夫だ」

直哉は頭を撫でた。


「もう大丈夫」


上空のドラゴンの幻影はいつの間にか消えていた。

しかも後ろに回り込んでいた野盗は、先ほどの混乱に乗じて真弓が全て片付けていた。


「一体何が、あのドラゴンは何だったんだ!

それにいつの間に……」

野盗たちは狼狽し、じりじりと退却の態勢を取る。


武虎が魔素を全開にし、怒りを露わに前に出た。

空気が震え、その迫力に腰を抜かす野盗もいる。


「武器を捨てろ。

これ以上やるってんなら手加減なしだぜ」


1人が剣を落とし、続いて次々と音が続いた。


* * *



縛り上げた男たちを村の端に並べ、直哉はその場に腰を下ろした。


「……危なかったな」

武虎が隣に座る。


「ああ」

直哉は短く返した。


少し間を置いて、「……突っ走りすぎた」と、ぽつりと付け足す。


「だな」

武虎もそれ以上は言わなかった。


しばらく、誰も口を開かなかった。


老女が水の器を差し出した。

「どうぞ」


直哉は受け取り、一口飲んだ。

「……美味いですね」


老女が少し笑う。

「あなたたちのおかげです」


村の水だった。

さっき自分たちが解放した水路の水だった。


直哉はもう一口飲んだ。

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