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現代ダンジョン奮闘記  作者: だっち
亡霊と声

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第156話 忘れられた転移門

是非、ブックマークか評価を。

私にガソリンをください!!

JPギルドの食堂には、香ばしい肉の匂いが漂っていた。

大皿に盛られた肉料理を囲むように、直哉・武虎・真弓・陽平が座り、

その端でヤスが椀を手にしながら、どこか遠くを見るような顔をしていた。


「……ヤス。食ってる途中で魂抜けてんぞ」

武虎が肉を噛みながら言う。


「おっと、申し訳ありません」

ヤスは椀を置き、姿勢を正した。


「皆さまに、少し同行していただきたい場所があるのですが……よろしいでしょうか」


直哉は箸を止めた。

真弓と陽平も、自然とヤスへ視線を向ける。


「いいけど、どこに行くんだ?」

「コル・フェルム高地という場所ですな」


「コル・フェルム高地?」

直哉が首を傾げる。


「この大陸の北東に位置します。そこに――人工の転移門があるらしいのです」


「人工? ダンジョンに自然発生するやつじゃなくて?」

陽平が訊く。


「はい。自然発生ではなく、固定されているものです。

人が意図して設計し、建造したものだとされています」


武虎が眉を上げた。

「へぇ。でもそんなもん、誰かがとっくに使ってんじゃねえのか?」


「拙者もそう思っておりました。

しかし調べれば調べるほど……誰もその転移門に興味を示していないのです」


「なんでだ?」

直哉が問い返す。


『封印によるものだと思われます。

――エルド・フェルミナ様の封印です』


エルド・フェルミナ。

直哉はその名を心の中で繰り返した。


「あれ……どっかで聞いたような……」

『私を含むサポートユニットを作成した魔導士です』


「えっ、イチカを作った人!?」

直哉の声が跳ねた。


『はい』


真弓が「……知らなかった」と呟き、陽平が「マジか」と目を丸くする。


「その人が封印したって……?」

『今から約26年前、エルド・フェルミナ様は転移門を完成させ、

いくつもの世界を渡り歩いていました』


「26年前に?」

武虎が驚いた声を上げる。


『はい。知的好奇心によるものです。

趣味のようなものと言えましょう』


「趣味で転移門作るのかよ……」

「世の中には趣味から発展した技術が多いものですぞ」

ヤスが得意げに頷く。


直哉は少し考えてから言った。

「で、ヤスはなんでそれ調べてたんだ?」


「人物転移の研究が行き詰まりましてな。

そこで研究書を漁り直していたのです」


ヤスは眼鏡を押し上げる。


「会津ダンジョンで手に入れた研究書、覚えておりますかな?

あれがアル・テラスの文字だと言ってたでしょう。

ならば同じ研究者の書物がこの大陸にも残っているのでは、と思いまして」


「あー、あれか」

直哉は記憶を辿る。

会津第3層の遺跡で見つけた、古い書物。

あの時はとりあえずデータ化してヤスに送っただけで、それきりになっていた。


「翻訳できたのか?」

「はい。穴が開くほど読みましたぞ。

しかし、人物転移の手掛かりは見つかりませんでした。

それで同じ研究者の書物をギルドを通じて探してみたのですが……調べていくうちに、コル・フェルム高地に転移門があるという記録を見つけたのです」


「なるほどな」


* * *


「で、イチカ。

実際はどうなの?」

『おそらく転移門は今も存在しています。

少なくとも6年前には存在していました』


「さっきの封印って……?」

『まず前提の出来事を説明します。

26年前の続きの話です』


「ああ、さっきの旅行の話だよね?」

『はい。

エルド・フェルミナ様は、転移門ができてからは、それでさまざまな異世界に転移し、旅行を楽しまれていました。

しかし転移門を完成させてから16年後、研究所はオルティア帝国に占領されました。

転移門が征服の道具として使われる事態を憂慮されたエルド・フェルミナ様は、封印を施すことでその事態を避けたのです』


「封印って具体的に何をしたんだ?」

武虎が訊く。


『2つの封印を施しました。

1つは転移門を機能停止させること。

もう1つは、転移門の存在を人々に忘れさせることです』


「忘れさせる?」

陽平が首を傾げる。


『はい。

人間の脳は記憶を長く保持できますが、きっかけがなければ想起することが難しくなります。

エルド・フェルミナ様はその性質に着目し、思い出すきっかけが発生しないよう細工されました』


「なるほど……?」

陽平はまだ半信半疑だ。


『6年前、帝国が消滅したことで研究所に立ち寄る者がいなくなりました。

結果、きっかけがゼロになり、封印がより強固になったのです』


「じゃあ、なんでヤスは封印に引っかからなかったんだ?」

直哉が問う。


『安田様が異世界人だからでしょう。

封印の効力はこの大陸の人間に向けたものと思われます。

また転移を経験した者からギルドに情報が上がることもあったようで、そういった痕跡の記録に触れたのだと思います』


「なるほどな」

武虎が腕を組む。


* * *


「んで、ヤス。

そこ行って何するんだ?」

「まずは実物の転移門を見て調べたいですな。

それに研究書があれば、それも見てみたいですぞ。

人物転移の課題解決には、実物を解析することが一番です」


「イチカは研究所のことは知ってるの?」

『研究所へは、エルド・フェルミナ様と共に何度か赴いたことがあります。

ただ私は生活面のサポートを担当するユニットですので、研究の内容自体は登録されておりません。

研究所の見取りや資料の保管場所でしたら、把握しています』


「え、まじで!?」

直哉の声が弾む。


「でも、いいのか。

その……勝手に資料を見たりしても」


『構いません。

エルド・フェルミナ様は常々、知識は公開すべきだと仰っていました。

直哉たちが悪用することもないでしょう』


「そっか。

ありがとう、イチカ」


『研究所に行くのでしたら、案内を担当することができます』

「お、それ助かる!」


ヤスが満足げに頷く。

「これは心強いですな」


* * *


「ちなみに、研究所まではどれくらいかかるの?」

『馬車で30日ほどです』


テーブルが静まり返った。


「……30日」

陽平が遠い目をする。


「うげ」

直哉が椅子に沈む。


「ナオヤ氏、1つよろしいですか」

ヤスが身を乗り出す。


「ナオヤ氏の転移能力は、地球と異世界の行き来に限定されていないはずですよね」

「まあ、そうだけど……」


「であれば、少なくともカルネアまでは転移で行けるのではないですか?」

「あっ」

直哉は思わず声を上げた。


「地球との行き来にしか使ってなかったから、完全に頭になかった……」

「だと思いましたぞ」

ヤスが苦笑する。


「アイテムバックをお渡しした時も、部屋の隅から隅へ転移されていたでしょう。

いつも使わないのが不思議でしたが、案の定でございましたな」


「どこでも転移できるの?」

真弓が確認する。


「いや、1度でも行ったことがある場所じゃないと駄目なんだ」

「そう」


「であれば行きに使うのは難しいですが、帰りは1発で戻れますな。

道中でも魔素が十分であれば、こちらに立ち寄ることもできる。

大分楽になると思いますぞ」


「確かに。それなら全然違うな」

直哉の表情が明るくなる。


「それに、移動手段も別で用意しておりますぞ」

ヤスが嬉しそうに言う。


「えっ、車か!?」

「ふふふ」

ヤスは人差し指を立てて首を横に振る。

「それは見てのお楽しみでござるよ」


直哉が「絶対変なやつだ」と呟く。


「……いつ出る?」

真弓が短く問う。


「明日には出られますぞ」


「じゃあ、明日の朝に出発だな」

直哉は大皿の最後の肉を口に放り込んだ。


「あ、田所さんに長期でいなくなるって言わないと」

「拙者から伝えておきますぞ」

「オッケー、頼むわ」


食堂の空気は、食後もゆったりと続いた。

ヤスが楽しげに段取りを語り、陽平が質問を投げ、武虎が黙って聞いている。


直哉はふと、イチカに向かって心の中で問いかけた。


コル・フェルム高地。

エルド・フェルミナが最後にいた場所。

イチカにとって、どんな場所なのか。


(イチカ、行きたいか?)


少しの間があった。


(『……分かりません。

ただ、行かなければいけない気がします』)


直哉は何も返さなかった。

ただ、その言葉を静かに受け止めた。

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