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現代ダンジョン奮闘記  作者: だっち
異世界の余波

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【閑話】第24話 鷲尾の正義

是非、ブックマークか評価を。

私にガソリンをください!!

鷲尾隆文は、書斎の机に肘をつき、完成した文書をゆっくりと読み返していた。

薄い笑みが、口元にじわりと滲む。


「……よし。これでいい」


隣で控えていた秘書・小山田が、恐る恐る画面を覗き込む。

「先生、質問事項の2番目ですが……“自由意志の確認”という表現、少し——」


「何が問題だ」

鷲尾は視線を動かさずに言った。


「内閣府側が“曖昧だ”と難癖をつけて、回答を引き延ばす可能性があります。

もう少し具体的な——」


「引き延ばすなら、引き延ばせばいい」

鷲尾は淡々と、しかしどこか粘りつくような声で言った。


「引き延ばせば引き延ばすほど、こちらの追及の根拠が積み上がる。

むしろ……好都合だよ」


小山田は口を閉じた。

鷲尾がこのモードに入ってしまうと、反論しても無駄だと知っているからだ。


「提出先は内閣府・異世界政策推進室。

それと、参議院の予算委員会にも写しを送れ」

「……了解しました。ただ、先生——」


「ん、なんだ?」

「質問状に名前を入れないのは、なぜですか。

“神谷直哉”と書けば、インパクトは段違いです」


鷲尾は、わずかに間を置いた。

「個人情報だ。未成年の名前を、私が公的文書に書くべきではない」

「しかし——」


「小山田」

鷲尾は、ゆっくりと顔を向けた。

その目は笑っていない。


「私はあの子を攻撃したいわけではない。

問題にしているのは、“国家が未成年を秘密裏に使っている”という構造そのものだ。

……わかるか?」

「……はい」


「ただし」

鷲尾は、指先で机をトントンと叩いた。

「私からでなければ、まああれだ」


小山田が顔を上げる。

「質問状のやり取りは、内閣府の公式サイトで公開される。

だが、誰も見ないだろう。あんなものは」


吐き捨てるような声だった。


「だから私のチャンネルで解説動画を出す。

それとは別に、政治系のYouTuberにも話を通してある。

視聴者が40万いる男だ。乗れば一気に広まる」


「インフルエンサーへの接触は——」

「もう3人、話してある」


鷲尾は、確認するように指を折った。

「政治系が1人。医療系が1人。若者向けが1人。

“異世界由来の医療を国が独占している”という文脈で話せ、と伝えてある」


「……医療について、具体的な情報は掴んでいるのですか?」

「はっはっは、そんなもの掴んでいなくてもわかる」

鷲尾は、まるで当然のように言った。


「異世界と接触しているなら、医療の話が出ないはずがないだろ。

向こうに薬があるなら、国が黙って見ているわけがない。

動いているに決まっている。

証拠がなくても、論理的に明らかだ」


「……それで、医療系のチャンネルに」

「問題提起をするだけだ。

私はそれを並べるだけだよ。

さてその動画で彼の名前が出てしまうのか、なあ小山田」


小山田は、何も言えなかった。


* * *


3日後。

内閣府・異世界政策推進室に質問状が受理された。


内容は整っていた。


1、ダンジョン関連業務に未成年者を継続的に関与させている事実の有無。

2、当該未成年者の安全確保・自由意志の確認が行われているか。

3、保護者への情報開示がなされているか。


末尾には、鷲尾らしい一文が添えられていた。


「子どもたちの未来を守ることこそ、国の根幹であり、政治の本義である」


そして——

誰にも注目されなかった。


内閣府の公式チャンネルに説明動画が上がったのは5日後。

再生数は翌朝の時点で23回だった。


* * *


ダンジョン課・奥野局長の執務室。


田所が資料を置く。

「鷲尾議員から、内閣府に質問状が入りました」


奥野は書類から目を離さずに言った。

「名前は?」

「出ていません。“高校生”という記載のみです」


奥野は、そこで初めて顔を上げた。

「……個人情報に配慮した、ということか」

「そう受け取れます。ただ——。

名前がなくても、条件を組み合わせれば誰のことか推測される可能性はあります」


「ああ。承知している」

奥野は資料に視線を戻した。


質問状の宛先は内閣府。

異世界開拓を承認した、奥野よりさらに上の権力層だ。

上が揺れれば、現場が揺れる。

それが鷲尾の意図かどうかはわからないが、結果としてそうなる。


「今のところ、再生数はいくつだ?」

「公式は30を切っています」


「そうか」

「ただし……

鷲尾議員の個人チャンネルに、解説動画が上がっています。

現在、4万再生を超えました」


奥野の目が、わずかに動いた。


「サムネイルが“未成年者が国家に使われている?”というものです」

「……」


「さらに、政治系のYouTuberが便乗動画を出しました。

こちらは18万再生。切り抜きも複数出ています」


奥野は静かに言った。

「名前は出ているか……?」

「こちらでも出ていません。動画でも一貫して“高校生”という表現のみです」


「……そうか、徹底しているな」

奥野の声は、感情を抑えているのに、少し安堵が混ざっていた。


「公的な記録には名前を残さず、拡散だけさせる。

……やり方を心得ている」

「現時点で、名前まで辿り着いた動きは確認されていません。

ただ、視聴者の中にそこまで辿り着く者が出る可能性は否定できません」


「コメント欄はどうだ?」

「“国がダンジョン少年を使い捨てにしている”という論調が多いです。

悪意ではなく、心配する声として書かれています」


奥野はしばらく黙った。


批判でも中傷でもない。

削除も反論もできない。

そして矛先は奥野ではなく、もっと上だ。


「本人は異世界にいるが、家族は地上にいる」

「はい」


「……神谷さんの家族の状況を確認してくれ。

学校関係への情報管理も、徹底してくれ」

「了解しました。

上への報告はどうしますか?」


奥野は少し考え、答えた。


「すぐにしなければな。

向こうで質問状を受けて、こちらに問い合わせが来る前に状況を伝えておいたほうがいい」


「追加の質問状が来る可能性もあります」

「来るだろうな」


奥野は資料を閉じた。


「鷲尾という人間は、回答が来るまで出し続ける。

回答が来てもまた出す。

……面倒なことだ」


田所は小さく息を吐いた。

「……厄介ですね」

「ああ」


奥野は椅子に深く座り直した。

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