第152話 限界突破の総攻撃
是非、ブックマークか評価を。
私にガソリンをください!!
ハキーシャの無数の口が、まるで呼吸するように大気の外在魔素を取り込み、体表が淡く脈動していた。
「くそ、また魔素を溜めてやがる!」
「……このままじゃ決定打にならねぇな」
武虎が拳を握りしめる。
「吸収しきれない量を、一気に叩き込むしかない」
直哉が言った。
真弓も頷く。
「そうね。
でも、あのゲロ達磨、隙がないのよ。
近づくと吸われるし、遠距離は撃ち返してくるし」
確かに、タイミングが合わない。
誰かが攻撃しようとすると、ハキーシャはゆっくり漂いながらも、必ず吸収の波を合わせてくる。
そのとき――
「……じゃあ、俺が隙を作るよ」
陽平が一歩前に出た。
真弓が振り返り、嬉しそうに笑う。
「へえ、愚弟のくせにいい顔するようになったじゃないの」
「どうやって隙を作るんだよ」
武虎が眉をひそめる。
直哉も陽平を見た。
「陽平、無識界使ってる今は翼界も使えないし、難陀も吸われるぞ」
陽平は木刀を握り直し、静かに息を吸った。
「ふふふ、俺が水操だけの男だと思うなよ。
新技だ!!」
と、瓢箪の代わりに括り付けた、腰の壺をさする。
「それは、ドラゴンからもらった……」
「水の精霊が宿った壺だよ。
これに俺の魔素を上げてたら、こんなことができるようになった」
陽平が構えを取る。
木刀の周囲に、腰の壺から出た水の粒子が集まり始めた。
空気が震え、陽平の足元に水紋が広がる。
「精霊顕装」
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瞬間、陽平の体を淡い水色の光が包んだ。
地面から花が開くように魔素が噴き上がり、周囲の空気が一変する。
「なっ……!?」
直哉が目を見開く。
「おいおい、なんだその力……!」
武虎が息を呑む。
真弓も驚愕した。
「精霊が……愚弟の周りに見える……!」
陽平の背後に、水の精霊の輪郭が淡く浮かんでいた。
その存在が陽平の魔素を整え、無識界を自動で展開している。
「これなら……翼界も使える」
陽平は地面を蹴った。
バチッ――!
水の翼が噴射し、陽平の身体が空へ跳ね上がる。
翼界の光が背中に広がり、陽平は空中で静止した。
「まじか……!」
直哉が呟く。
「陽平、お前、そんな芸当……いつの間に……!」
武虎が驚愕する。
陽平は振り返らず、ただ前を見据えた。
「ここからは、俺のターンだ!」
水の翼が弾け、陽平がハキーシャへ突っ込む。
* * *
「水操:顕装壱式 難陀!」
倍ほどにもなった水蛇が空中でしなり、ハキーシャへ襲いかかる。
ハキーシャが口を開き、それを喰らおうとする。
しかし、精霊顕装で強化された難陀は、喰われたそばから魔素が補給され、そのまま強引にハキーシャの全身に巻き付く。
ハキーシャも無数の口で難陀に噛みつく。
しかし、その間、ハキーシャの動きが止まる。
「ぐうぅぅぅ、魔素が……!」
シュウゥゥ……!
難陀を吸収しているハキーシャの体表がヌラヌラと淡く光る。
「負けるもんか、顕装参式 沙羯羅!」
水蛇の鱗膜が陽平の体を覆い、さらに身体強化の強度が深まる。
「うぉぉぉ!」
空中での機動力が跳ね上がる。
難陀を維持しながら、そして水の精霊に守られながら、陽平はさらに距離を詰めた。
陽平は空中で蜻蛉飛びのように体をひねり、木刀を連続で叩き込む。
「その目、どこ見てるんだよ、随分余裕ぶってくれてるよな!」
ズカン、ドカン!
陽平は、ハキーシャから吐き出される血の礫を避けながら、しつこく、何度も何度も攻撃を繰り返す。
すると、ハキーシャの無数の目が全て陽平に集中した。
「……みんな、今だ!!」
* * *
「陽平、ナイスだ!」
直哉が練りあげた魔素で、まるで爆発するような身体強化剛を発動する。
「トラ、行くぞ!」
「おうよ!」
武虎の全身に断裂猛襲のオーラを纏う。
真弓も瞬陣を銃口に展開し、構えた。
「撃ちまくるよ……!」
3人の魔素が一斉に高まる。
「行くぞ――!」
直哉と武虎が同時に地面を蹴った。
蜻蛉飛びで加速し、空気を裂く。
「瞬閃七連撃インパクトッ!!」
分体生成と変幻武器のモーニングスターモード、そして砕陣を併用した青い閃光が7つの軌跡を描き、ハキーシャへ殺到する。
「断裂猛襲!!」
赤虎の咆哮が響き、武虎の爪が空間を裂く。
真弓は地面で構えながらマシンガンのように連続弾を叩き込む。
「いっけぇぇぇぇ!!」
陽平も拘束を解かせまいと、難陀の強度を最大限まで上げる。
四方向からの総攻撃。
ハキーシャは吸収しようと無数の口を動かすが、させまいと難陀か更に締め上げる。
決まると思ったその瞬間。
ハキーシャの1つの目に、直哉の左目と同じ紋様が浮かんだ。
『……時穿つ瞳……』
「吸収してたのかよ……!」
真弓が叫ぶ。
ハキーシャの周囲の世界が粘性を帯び、直哉たちの攻撃が遅くなる。
「やべぇ、避けられる……!」
武虎が歯を食いしばる。
だが――
直哉の左目が光った。
「本家が……負けるかよッ!!」
世界が赤く染まる。
「時穿つ瞳――」
(イチカ、一瞬でいい、無識界を発動してくれ!!)
直哉がイチカの発動に合わせて、無識界を切り、識界を展開する。
「――ゼロッ!!」
直哉はハキーシャの目を、時穿つ瞳を発動している目の時間を止めた。
そして、ハキーシャの動きが元に戻る。
「今だ……全員、叩き込めぇぇぇぇ!!」
そして――
ドガァァァァァァンッ!!!!
空気が破裂し、地面が衝撃に歪み、鼓膜が震える。
爆ぜた魔素の衝撃波が四方へ奔り、荒野に響き渡る。
衝撃の光と魔素の炸裂が混ざり合い、世界そのものが揺さぶられるように轟音が空間を揺らす。
青の七閃。
赤虎の爪。
真弓の連弾。
陽平の顕装壱式 難陀。
すべてが一点へ炸裂した。
光と衝撃が爆ぜ、ハキーシャの体が大きくたわむ。
* * *
ハキーシャの無数の口が、眼が、爪が、一斉に動きを止める。
ボコッ、ボコボコボコッ
ハキーシャの体表が、まるで沸騰するように沸き立つ。
次の瞬間。
「……ッ!」
直哉が思わず目を細めるほどの魔素が、内部から噴き上がった。
ハキーシャの体が膨張する。
吸収し続けていた魔素が、限界を超えて逆流したのだ。
「離れろ!!」
武虎が叫ぶ。
直哉たちは一斉に跳び退いた。
そして――
ドンッ!!
音というより、空気そのものが弾けた。
ハキーシャの身体が内側から破裂し、霧のような粒子となって四散する。
「……消えていく」
陽平が呟いた。
空中に舞った赤黒い光の粉が、風に溶け、空気へと吸い込まれていく。
その時、幻なのだろうか、人々の、子供の笑い声が、安心するような声が聞えた気がした。
真弓は銃を構えたまま、ゆっくりと息を吐く。
「やっと……終わったってわけね」
武虎は肩を回しながら、
「あいつらも解放されたってことなのかな」
赤黒い粒子は、最後の一片まで空へ溶けていった。




