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現代ダンジョン奮闘記  作者: だっち
異世界の余波

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第150話 龍脈に刻まれた滅びの記憶

是非、ブックマークか評価を。

私にガソリンをください!!

陽平が扉に入ると、応接室のようなところに出た。


「お、きたきた、大丈夫だったか?」

「やほ」


「あ、トラさん、姉ちゃん」


2人は椅子に座って寛いでいた。


「神谷はまだみたいだぜ」

「そうなんだね、ふう、怖かったよ」


「ん?陽平んとこはアトラクション、それとも底なし通路?」

「どっちも違うよ。真っ暗な空間で、そこかしこから音とか人の声がしてさ」


「みんな違う……?」

「みたいだな。

俺んとこは底なし通路で、真弓んとこはアトラクションだったってさ」


「へー、神谷君は?」

「まだだ。手こずってるのかもな」


しばらく3人で話していると、ガチャっと扉から直哉が入ってくる。

「お、みんな!」

『あの扉で合っていましたね』


「おう、神谷も来たか」

「みんなクリアね」


「いや、難しかったー。

みんなよくわかったね、あれ。

俺はイチカがいなきゃわからなかったよ」

「みんなそれぞれ違う試練だったみたいだぜ。

神谷のはどんなんだったんだ?」

「俺のは109個ある扉から1つだけの正解を選ぶってやつだった。

間違えると魔素が吸われてさ、やばかったよ」


「ってことは、魔素を吸われたんだな?」

と武虎がニヤリとからかう。

「最初だけね。

んで、イチカが本物を見破ってなんとかね」

「なるほどな」


「で、ここは何?

入ってきた扉もなくなっちゃってるけど……」

「わからん。

まあ4人がクリアしたから、そろそろ次の試練がくるんじゃないか?」


壁にスウッっと扉ができ、そこから老執事が出てくる。

「皆様、おめでとうございます。

第1の試練、クリアでございます。

第2の試練は、こちらの扉からご参加ください」


「この試練は何のためにやってんだって聞いても、答えてくれないんだよな?」

「はい、その通りでございます。

しかしモルデガルド様にお会いになるのならば、3つの試練をクリアいただく必要がございます」


「ふう、わかったよ」

「みんな準備はいい?」

「ああ、大丈夫だ、行こう!」


* * *


扉をくぐると、いきなり外に出た。

まわりを見回すと、洋館の影もない。


4人が戸惑ってキョロキョロしていると、空間に老執事の声が響く。

「これは龍脈の記録が再生されている現象、つまり幻です。

この村は、遠い昔、まだ歪視(わんし)瘴谷(しょうこく)が、そう呼ばれていなかった頃に、谷にあった名もなき村です。

皆様には、この滅んだ村の原因を探り当てていただきます」


「滅んだって……?」

「それはご経験いただければわかります。

ではご武運を」

と言って、声が聞こえなくなる。


「なあイチカ。

龍脈の記憶ってなんだ?」

『この世の自然発生する魔素は、すべて龍脈から発生しています。

そして生物が死んだときに霧散する魔素も、すべて龍脈に取り込まれていると言われています。

つまり、龍脈は膨大な魔素を有すると同時に、様々な記憶を宿していると伝えられています』


「なるほど?」

『龍脈の記憶とは、そういった積み重なった記憶が龍脈より吹き出し、人間に幻を見せる現象です」


「……幻。

この村みたいなもの自体が幻ってこと?」

『はい、そうです。

ここは外に見えますが、間違いなく洋館の中です」


「へー、そんなことがあるのか……」

「で、この村はずっと昔に滅んでいて、その原因を俺たちに探れってことか。

まずは少し調べてみるか」

「そうね」


* * *


辺りを散策すると、普通の村だった。

石造りの家が並び、朝市の声が飛び交い、子供が路地を走り回っている。

人々の顔に生気があり、笑い声がある。


4人はそれを、少し離れた場所から眺めていた。

幻と言うのは本当で、人びとに声をかけても反応がなく、触ろうとしてもすり抜けた。


「幻……か」


また試してみるように、近くの家の壁に手を伸ばした。

指が透けるように、すり抜けた。


(触れない、のか……)


村人たちは直哉の存在に気づかない。

おじさんが荷馬車を引いて通り過ぎ、老婆が井戸の縁で世間話をしている。

誰も、こちらを見ない。

まるで透明人間だ。


村人たちは変わらず笑い、話し、荷を運んでいる。

普通の、村の夕方だ。


* * *


——場面が、跳んだ。


まるで本のページを数十枚めくったように、時間が一気に前へ進む。

直哉は思わず目を細めた。


季節が変わっていた。

冬だ。

さっきの活気が、嘘のように静まり返っている。


広場に、女が1人立っていた。

30代半ばだろうか。

ぼんやりと空を見上げて、動かない。


男が駆け寄ってくる。夫らしい。

「おーい、メリー。

飯が冷めるぞ。いつまでそこにいるだ?」


女は振り返ったが、顔に表情がなかった。

「……ええ」


それだけ言って、のろのろと歩き始めた。

男は女の顔を覗き込み、何か言いかけて——黙った。


「なんだあれ」

武虎が低い声で言った。


「わからない、なんか感情が抜けているような……」

「一体何が起きてるんだ?」


武虎は何も言わなかった。

ただ、男の背中を見ていた。


* * *


場面が、また跳んだ。


春になっていた。

路地の隅で、小さな男の子が膝を抱えて泣いていた。


母親らしい女が、そのそばに立っている。

立っているだけだ。

泣いている子供を見て——何もしない。

目が、虚ろだ。


「かあさん」


男の子が顔を上げ、母親を見た。

母親は男の子を見返したが、その顔に何もない。

怒りも、心配も、愛情も。

全部、消えていた。


「ねえ、かあさん!」

男の子が母親を揺するが、ほとんど反応しない。


陽平が泣いている男の子を見て、やるせない顔をしている。


「……陽平」

直哉が呼んだ。


「わかってる」

陽平の声が、かすかに震えていた。

「わかってるよ」


それでも、足が動かなかった。


* * *


場面が跳ぶたびに、村は静かになっていく。


市場から声が消え、路地から子供が消え、井戸端の笑い声が消えた。

村人たちは1人、また1人と、表情を失っていく。


夫が、妻が、老人が、若者が——誰もが同じ顔になっていく。

空を見るだけで、動かない。

食べない。

眠らない。

ただ、立っている。


「……何年経った」

武虎が呟いた。


「5年、ぐらいだと思う」

陽平が答えた。


武虎は広場を見渡した。

あちこちに、立ったまま動かない村人がいる。


「一体何なんだよ、これ!

これが全部自然現象っていうのかよ!!」

『はい、大変珍しい現象ですが、その通りです。

これは魔素による感情の収奪です』


「なんでそんなことが……?」

『わかりません。

基本的に龍脈は、生物が死んだ時に魔素を収奪すると言われています。

しかし、ここでは生きている者から収奪が行われています』


* * *


視界が白く弾けた。


気づいたら、最初の村に戻っていた。

朝市の声が聞こえる。

子供が走り回っている。


「また最初からか……」

武虎が低く言った。


「何周目だ」

「4周目」

真弓が答えた。


陽平は無言で、村の中心部を見ていた。

広場の奥に、石造りの井戸がある。

村人たちが順番に水を汲んでいる。


(また、あの子が笑ってる)


何度見ても慣れない。

この笑顔が、数年後には消える。

それを知っていながら、見ていることしかできない。


「今回こそ原因を見付けよう!」

直哉が言った。


「分かった」

「うん」


4人は散った。


* * *


——場面が、跳んだ。


1年後。

村が少し静かになっていた。


真弓は村の端から端まで歩き回っていた。

農地、家畜小屋、水路、貯蔵庫。

どこにも異常な魔素の臭いはない。


広場の前を通ったとき、井戸のそばで男が座り込んでいた。

50代の農夫だ。

頭を抱えて、動かない。


農夫の隣に、女が立っていた。

妻だろう。

男の肩に手を乗せようとして——やめた。

乗せても、意味がないとわかっているからだ。

女の目は、もう虚ろだ。


農夫は気づいていない。

頭を抱えたまま、かすれた声で言った。


「……なんで。なんで俺の女房だけ」


真弓はそれ以上見ていられなくて、顔を逸らした。


* * *


陽平は子供たちの様子を追っていた。


路地を走る子供。

広場で遊ぶ子供。

井戸の水を運ぶ子供。


(水を……)


足が止まった。


子供たちが、頻繁に水を飲んでいる。

大人より、回数が多い。


場面が跳んだ。


2年後。

子供たちの変化が、大人より早かった。


あの男の子が、広場の隅で石を見つめていた。

昨日まで友達と走り回っていたのに。

目に、何もなかった。


陽平は唇を引き結んだ。

「なんで、なんで子供の方が早いんだ……?」


そうか、水の量だ。

子供は汗をかき、よく動く。

だから水を多く飲む。


「水に何かあるのかもしれない!」


陽平は走った。


* * *


「水だ」

4人が再び集まったとき、陽平が真っ先に言った。


「水?」

武虎が眉を上げる。


「水に原因があるのかもしれない。

ほら、子供の方が効果が出るのが早いだろう。

いろいろ見ていたら、子供の方がよく水を飲んでたんだ」


「水の出どころは……」

直哉が言った。


「「「井戸だ!」」」


4人の視線が、同時に広場の中心へ向いた。


* * *


場面が跳んだ。

また最初に戻った。


「すぐに井戸に行こう」

直哉が言うと、全員が頷いた。


4人は迷わず広場へ向かった。

村人たちは相変わらず直哉たちを無視して動き回っている。

朝の水汲みが始まっていた。


井戸のそばに立ち、直哉は中を覗き込んだ。

深い。

底は見えない。


「降りられる?」

陽平が縄に触れようとした。

指がすり抜けた。


「くそ」


「よし、俺が行ってくる。

ここが幻なら、きっと井戸の水も幻だ。

いざとなったら蜻蛉飛び(フリップ・ターン)で上がってこれるだろうしな」

と言い、武虎が井戸に飛びこむ。


静寂。


直哉たちは黙って待った。

広場では村人が談笑している。

笑い声が響いている。

この人たちが数年後に何もかも失うと知りながら、直哉たちは息を詰めて井戸を見ていた。


「見つけたぜ!」

武虎が井戸から飛び出してきた


「井戸の底に——穴がある。

石の隙間から、魔素が噴き出してる。

触れた瞬間にわかった、相当な量だ」


「それが水に溶けて」

「そう。きっとずっと前からだ。

この村の人たちはそれを飲み続けてた」


笑っている村人たち。

水を汲む女。

走り回る子供。


全員が、すでに飲んでいる。


(何年も前から、もう始まってたんだ)


胸の奥が、重くなる。


「……原因がわかったな」

武虎が静かに言った。

いつもの荒々しさが、どこにもなかった。


その瞬間——


視界が白く弾けた。


* * *


気づいたら、村人が全員消え、人のいない村だけに立っていた。

笑い声も、水の音も、何もない。


しばらく、誰も口を開かなかった。


「……終わった、のか?」

陽平がぽつりと言った。


「どうなんだろうな……」


直哉は答えたが、視線は正面に向けたまま動かなかった。


あの子供の顔が、まだ頭の中に残っていた。

最後に見た、虚ろな目が。

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