第147話 偏屈と霧の待つ方角へ
是非、ブックマークか評価を。
私にガソリンをください!!
ラグナを出て2日目の野営の夜。
「うー、寒い寒い。
やっぱり夜は少し冷えるね」
「そいえば、地球と異世界って時期違うのかな。
地球じゃ夏だってのに、こっちは結構寒いよな」
「時期がズレてるのかもしれないし、そもそも四季がない地方なのかもしれないし。
どうなんだろうね」
「えっ、四季ないとかあるの!?」
「そりゃあるだろ。
地球でもそうじゃん。
熱帯とかは四季ないだろ。
あと北半球と南半球で季節が逆だし」
「あー、そうか、そういえばそうだな。
俺、海外旅行とか行ったことなかったから、考えたことなかったよ」
「海外旅行はなくても異世界旅行は地球人初だぜ」
「確かにな」
そんな風に、火を囲みながらワイワイしていると、森の奥の方から鳥が逃げるように飛び立つのが聞える。
「静かに!
奥から何か来やがる」
森の奥から木々をなぎ倒しながら、ゆっくりと巨体な何が2体、姿を表す。
体長は4メートルを超え、ぬらりと光る体表に長い触角が揺れている。
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「うお、超でっかいなめくじ!!」
「ひえぇぇぇ、ジャイアント・スラグだ!!」
御者が驚き、一目散に馬車に逃げこむ。
(『ジャイアント・スラグです。
なめくじだと甘く見ないでください。
強酸を持っており、どんなものも溶かします。
そして、打撃に強い耐性を持っています』)
確かに、ジャイアント・スラグがでてきた森の木木は倒され溶かされている。
通ってきた後にも粘液がついており、じゅぅと音を立て、地面を溶かしている様子が見える。
「でか……」陽平が呟く。
「まあ、行くか」武虎は拳を握りしめていた。
ジャイアント・スラグは触角を動かしたかと思うと、唐突に強酸を吐き出す。
「させない!
水操:弐式 跋難陀!!」
陽平が即座に反応し、水蛇の盾を空中に顕現させ、酸の雨を遮る。
盾で散らされた酸は、地面に落ち木の根を溶かし、土を変色させる。
「うぉぉ、やべえな、この酸。
みんな、最初から全力だ!」
「おうよ!」
武虎が身体強化を全開にし、側面から全力の拳を叩き込む。
それに合わせるように、直哉も逆側からグレートソードモード+砕陣のバットを叩き込む。
強力な攻撃にサンドイッチされたジャイアント・スラグは、そのまま2つに割かれ、地面にドロドロと溶けていく。
真弓と陽平も負けていない。
陽平が難陀を繰り出し、ジャイアント・スラグを絞るように切り裂きながら、ぐるぐる巻きに拘束する。
すき間からはみ出て膨らんだその部位目掛けて、真弓の砕陣弾が炸裂する。
ドバァァァン!!
申し合わせたように、2体のジャイアント・スラッグが破裂し、地面にドロドロと流れていく。
「ふぅ」
「思ったよりあっけなかかったな」
巨大なナメクジの死体が2体、街道にデロンと横たわっていた。
木々はなぎ倒され、地面には酸の溜まりが広がっている。
惨状といえば惨状だが、4人の表情は飄々としていた。
御者が馬車から降りてきて辺りを見渡す。
「いやいや、あんたらすごいな。
普通D級じゃこうは行きませんよ。
こうも簡単に倒されちまうと、魔物が弱いんじゃないかと勘違いしそうです」
4人はそんなもんなのかな、という顔をしながら魔石回収にうつる。
直哉は魔石回収装置を取り出し、死体に近づいた。
装置を当てて起動すると、光が収まり魔石が手の中に落ちてきた。
2つとも大ぶりで、手のひらにずっしりと重い。
「おぉ、でかいな」
「結構強かった、ってことなのかな」
陽平が覗き込む。
「なんだかんだ、俺たちも強くなってるってことか」
直哉は魔石をしまい、酸溜まりに目を落とした。
馬車が通れない。
「なあ、トラ。街道の酸なんとかしてくれ」
武虎が振り返る。
「お前な……俺の技を掃除代わりにするんじゃねーよ」
ブチブチ言いながら構え、虎のオーラを見に纏う。
断裂猛襲を発動しながら、酸溜まりを歩くと、オーラに触れた側から酸が消えていく。
「よっ、さすが」
「おめーな。
……次は自分でやれ」
御者が拍手した。
「いやあ、素晴らしいですな」
どこか的外れな褒め言葉を残し、御者は馬車に戻った。
* * *
カルネアに着いたのは、それから2日後だった。
荷物を宿に置き、4人はそのままギルドへ向かった。
「ヴァルドさん、いますか」
受付の女性が奥に確認し、すぐ戻ってきた。
「ちょうど帰ってきたところです。
食堂にいますよ」
食堂に入ると、ヴァルドが1人で飯を食っていた。
シャナもポルタもいない。
こちらに気づくと顎をしゃくった。
「おう、どうしたよ?」
食事をしながら近況を話す。
カルネアから帰って以来の動きを伝え、田所から聞いた状況もざっくりと話す。
ヴァルドは黙って聞いていた。
「それで」直哉は切り出した。
「害意のある人間を感知できる能力者に、心当たりはないですか?」
ヴァルドは少し考えた。
「……1人いる」
「まじっすか!」
「ただなあ……」
ヴァルドは杯を置いた。
「モルデガルドっていう偏屈ジジイだ。
一応紹介状は書いてやるが、あんまり意味ないかもな」
「そう……なんですか」
「ああ。
その能力のせいでいろいろあったみたいでな。
偏屈になった上に、嫌気が差して、今は人が寄り付かない場所に住んでる」
「へー、どこに住んでる」
ヴァルドが首を捻る。
「なんたっけかなぁ」
後ろのテーブルでポルタが飯を持って現れ、椅子を引きながら言った。
「歪視の瘴谷、だろ」
「ああ、そうだそうだ、それだ」
直哉は聞き返した。
「歪視の瘴谷?」
「結構やべえところだぜ」ヴァルドが続ける。
「年中、気味の悪い魔素が霧みたいに立ち込めてやがる。
しかも魔素に当てられて正気を失う奴が続出するんだ」
「なんですか、それ」
「さあ、わからん。
まあ、無識界さえ使えれば無効化できる。
だから、お前らなら大丈夫だろう」
「場所はどこっすか?」
「グラナード連邦の北のほうだ。
ここからだと5日ってとこだな。
詳しい場所はギルドで教えてもらいな」
ヴァルドは立ち上がり、「紹介状だけ書いてやる。期待すんなよ」と言い残して食堂を出た。
翌朝、直哉たちはギルドで地図を確認し、歪視の瘴谷への道順を聞いた。
受付の担当者は少し顔をしかめたが、場所は教えてくれた。
準備を整え、ラグナへは戻らずそのままカルネアを発った。
* * *
街道を進む馬車の上で、直哉は深く息を吐いた。
「歪視の瘴谷か……どんなとこなんだろうな」
陽平が頷く。
「ちょっと楽しみだよね。
地球じゃそんなとこないもん」
武虎は腕を組み、前方を睨んだ。
「偏屈爺さんか、ちょっと面倒だな」
真弓は小さく笑った。
「まあ、いつものことじゃない」
馬車は北へ向かって進んでいく。




