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現代ダンジョン奮闘記  作者: だっち
異世界の余波

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第144話 治療という名の国家資源

是非、ブックマークか評価を。

私にガソリンをください!!

厚生労働省本館。

窓のない小さな応接室は、照明が落とされ、外の気配が完全に遮断されていた。


席に着いているのは3人だけだ。

ダンジョン課・奥野局長。

厚労省の医務技監。

そして総括審議官。


空調の音が、やけに大きく聞こえる。


「……急な呼び出しで申し訳ありません」

奥野が頭を下げると、医務技監は腕を組んだまま、軽く顎を引いた。

「いや、構わんよ」

そして、机の上の資料に目を落としたまま、静かに言う。


「……で、“異世界の薬”とはどういう冗談ですか?」

口調は穏やかだが、半分は試している。

冗談であるなら、ここで終わらせるための問いだ。


総括審議官も、資料を指で揃えながら様子を窺っている。


奥野は、すぐには否定しなかった。

一拍置き、ゆっくりと口を開く。

「冗談ではありません」


視線を上げ、2人を見る。

「皆さまも、最近のニュースで異世界の存在が囁かれていることは、ご存じでしょう」


医務技監が、鼻で短く息を吐く。

「中国の発表だろう。

あれが全部だとは、誰も思っていないがね」


「その通りです」

奥野は頷いた。


「あれが全てを語っているわけではありません。

ですが――異世界の存在そのものは、事実です」


空気が、わずかに張りつめる。


「そして」

奥野は言葉を続けた。

「我々は秘密裏に、異世界とコンタクトを取ることに成功しています」


総括審議官の手が止まった。

「……異世界とコンタクト?」


医務技監が、眉をひそめる。

「どうやって、ですか?」


「それをこの場でお伝えすることはできません」

奥野は即答した。

曖昧に濁さず、線を引く。


「ただ一つ言えるのは、我々は異世界と継続的にコンタクトが取れている、ということ。

そして、その結果手に入れたのが――」


奥野は、資料の1ページを指で叩く。

「この、ポーションです」


医務技監が、資料を1枚めくる。

「……ポーション?」

「ゲームや映画に出てくる、あの?」


「はい」

奥野は迷いなく答えた。

「そのポーションです」


総括審議官が、困惑したように息を吸う。

「正直に言うと……

理解が追いつきません」


「それで構いません」

奥野は、落ち着いたまま続ける。


「このポーションは、異世界の教会で生成されたものです。

異世界には、治療の特殊能力に特化した能力者が数多く存在します」


医務技監が、ふっと目を細める。

「……宗教組織、ですか」


「ええ。

異世界では宗教組織が病院も兼ねている事が多いのです。

だから教会は、治療能力を社会的に運用する立場にあります。

そして、彼らが作っているものが、ポーションです」


「なるほど……?」

納得というより、咀嚼している途中の声だ。


奥野は畳みかけない。

代わりに、核心を置く。


「その中でも、このポーションの効果は――

病気の完治です」


医務技監が、はっきりと顔を上げた。

「……完治?」

「はい。完治です」


一瞬の沈黙。


「それは……」

総括審議官が、慎重に言葉を選ぶ。

「どの程度の病気まで、いけるんですか?」


「一般的な病気はもちろん」

奥野は、淡々と続ける。

「癌も完治します」


「……!」

医務技監が、思わず小さく息を飲んだ。


「さらに、症例数は十分ではありませんが、ALS、アルツハイマーなど。

現代医学では根治が難しい病気についても、完治が可能だと報告されています」


「……なんと」

総括審議官が、椅子にもたれた。


「なるほど」

医務技監が、資料に視線を落とす。

「それで、我々にアプローチを」


「はい」

奥野は頷いた。


「この薬は、安価で入手できます。

ただし――下手にばらまけば、今の医療を崩壊させてしまう。

それほどの“劇薬”です」


「……確かに」

医務技監が、静かに唸る。


奥野は続けた。

「それに、この薬は、既存の治療概念を根底から覆します。

飲用後、5分以内に効果を発現させ、病気を、完治させてしまう」


総括審議官が、低い声で言う。

「それが本当なら……素晴らしいが、恐ろしい」


「はい」

奥野は、はっきりと認めた。


「だからこそ、お願いがあります」


2人の視線が集まる。

「まずは秘密裏に、数例の実例を作っていただきたいのです」


「実例を……?」

「ええ、それを元に、日本国内で発言権を持つ方々を取り込みたい」


医務技監の眉が、わずかに動く。

「……“取り込む”、とは?」


「ご承知の通り、ダンジョン関連で、中国の動きが活発化しています。

我々は、主導権を失うわけにはいきません」

奥野は、言葉を選ばずに言った。


総括審議官が、ゆっくりと理解する。

「そのために、国内にも、国外にも、味方を作る必要がある」


「はい」

奥野は、深く頷いた。

「この薬は、そのためのカードです。

ゆくゆくは、既存医療の枠組みに組み込めればと思っています。

しかし、今はそれよりも――

影響力を高めることが、先決だと考えています」


医務技監は、しばらく黙っていたが、

やがて小さく笑った。

「……厄介な薬だ。

だが、放っておくには、あまりにも大きい」


総括審議官も、静かに頷く。

「わかりました。

もし効能が本当であれば、それは日本国にとっても計り知れない利益となるでしょう。

早急に検討しましょう」


奥野は、深く頭を下げた。

「ありがとうございます」


この瞬間、異世界の“万能薬”は、正式に国家の歯車へと組み込まれ始めた。


静かに。

だが、確実に。

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