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現代ダンジョン奮闘記  作者: だっち
交錯する思惑

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第123話 藤堂柳太郎

是非、ブックマークか評価を。

私にガソリンをください!!

公園の入口に、藤堂柳太郎が立っている。


武虎の腕を掴んでいた男が、柳太郎を見た。


「と、藤堂柳太郎……」

動揺が、声に滲み出ていた。

しかし男はすぐに目を武虎へ向け、捕らえた腕を引き上げた。


「動くな、こいつが見えんのか!」


柳太郎の目が、変わった。


怒りだった。

表情ひとつ動いていない。

声も上げない。

しかし眼の奥に——静かで、深く、消えないような炎が灯った。


「やれるものならやってみるがいい」


直哉は息を呑んだ。


息子が目の前にいる。

能力で縛られている。

それでも、1ミリも揺るがない声だった。


しかし——有利なはずの襲撃者たちは動けなかった。


柳太郎の気迫と、その背後から滲み出る底知れない魔素の圧に、身体が縫い止められているようだった。


風の音すら、遠くに感じる。

誰も動かない。

いや――動けない。

時間が止まったかのような、永遠にも思える間。


そして――

気づいたときには、柳太郎が男の目の前に立っていた。


誰も、動く瞬間を見ていない。

歩いた気配も、ピクリと動いた痕跡すらない。


ただ――

ほんの一瞬前まで10メートル以上先にいたはずの男が、今は、呼吸が触れるほどの距離に立っている。

挿絵(By みてみん)

ズンッ。


地鳴りのような音と共に、武虎を捕えていた男が地面にめり込んだ。

上段からの振り下ろしだ。

石畳が放射状にひび割れ、小さなクレーターが口を開いた。


誰も声を出せなかった。

残った敵の男も。

武虎も。

直哉も。


全員が、目を丸めていた。


「う、うわぁぁぁぁぁ!」


残った敵の一人が、後ろへ飛びながら指を、パチンと鳴らす。

大切断(スラッシュ)

見えない刃が空間を切り裂いて柳太郎へ向かう。


しかし、柳太郎を中心に激しい風が渦巻いた。


空間の裂け目が流転嵐舞(テンペストヴェイル)とぶつかった瞬間、甲高い音と共に裂け目が消える。

風は小動もしなかった。


「——ば、バカな!!」


男がむやみやたらに大切断(スラッシュ)を連発する。

パチン、パチン、パチン——。

どれも同じだった。

甲高い音が鳴るたびに、風の中へ吸い込まれるように消えていく。


柳太郎は動かなかった。

拳を構え、油断なく男を見据える。


流転嵐舞(テンペストヴェイル)の暴風が、どこからともなく出現する裂け目を、ことごとく——何事もなかったかのように——無効化する。


「武虎」


柳太郎が、前を向いたまま言った。

授業の続きをするような声だった。


「よいか。このような目に見えない攻撃も、魔素によって防ぐことができる。

お前の断裂猛襲(ブレイクアサルト)も、そのような特性を持たせることができる。

精進を忘れるな」


「……はい」

武虎が、影縛り(ブラック・バインド)が解けた足元で、それだけ返した。


そしてまた、一瞬の間に柳太郎が男の前に現れた。

拳を、振り抜く。


グシャッ。


男が吹き飛ぶ——しかしそのまま空中で、四方八方から殴られたように体が踊り続ける。

多方向から同時に衝撃が入り、コマのようにギュルギュルと回り続ける。

やがて衝撃が収まると——男は白目を剥いて、その場に倒れた。


(『わかりました。

藤堂師範は、相手のまばたきを利用しています。

相手がまばたきした瞬間に、足裏に気流を発生させて移動しています。

体の予備動作がまったくなく、かつまばたきの瞬間に行っているため知覚できないのです』)


ホバー移動。

体を動かすのではなく、空気で運んでいる。

だから踏み込みも、重心移動も——何もない。


残ったのは、驚天動地(パラドックス)を使う敵一人だった。


「2人共、下がりなさい」

柳太郎が、直哉と武虎に向けて静かに告げた。


直哉はまだ驚天動地(パラドックス)の効果を引きずっていた。

体が重い。思考に靄がかかる。

しかし、後退するという単純な動作であれば——意識して動ける。


「師範、あいつの能力は——」

言いかけた瞬間、敵が仕掛けてきた。


しまった、と思いながら叫ぶ。

「気をつけてください、感覚が狂わされます!!」


しかし——

柳太郎の歩みは止まらなかった。


ゆっくりと。

何事もないかのように。

敵へ向かって、ただ歩いていた。


敵が驚天動地(パラドックス)を重ねて放つ。

1度、2度、3度——何度仕掛けても、柳太郎の足は止まらない。


「——なぜだ!?」

敵が声を上げた。


(『藤堂師範の周囲に、識界(しきかい)とは別の魔素の波長を感じます。

これが敵の能力を阻害しているようです』)

(そ、そんなことまで……)


逃げようとした。

踵を返す。


それが、最後だった。


また、一瞬で距離が消えた。

柳太郎が敵の背後に出現し、一撃を入れる。

男はそのまま崩れ落ち、動かなくなった。


静かになった。

風の音と、遠くの車の音だけが残った。


柳太郎が振り返る。

直哉と武虎を、順に見た。


「よく耐えた」


たったそれだけだった。

しかし直哉には——それで、十分だった。


「後始末は政府の人間がやる。

敵の回収も、建物の修繕も、こちらで手配してある」

「……わかりました」


「道場に戻るぞ。

真弓君と陽平君にも連絡しておきなさい」

「はい」


直哉はスマートフォンを取り出した。


《敵に襲われたけど、なんとか助かった。

詳しくは道場で話すよ。

藤堂師範も来てる》


真弓から《今から行く》と返信が来た。

陽平から《わかりました、急ぎます》と来た。


柳太郎が先に歩き出した。

武虎が隣に並んだ。


「……親父、どのくらい前から張ってたんだ?」

「今朝からだ」


「言ってくれればよかったのに……」

「言えば、意識するだろう。

そうすると相手にも伝わる可能性がある」


「それが理由か」

「そうだ。

だがこれで背後関係も明らかにできるだろう」


少し間があった。


「それに、神谷君と武虎の2人ならなんとかなると思っていたが。

まだ修行が足りんな」

「ちぇっ」


直哉は2人の背中を見ながら歩いた。

父と息子の会話は、それ以上続かなかった。

それで十分なようだった。

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