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現代ダンジョン奮闘記  作者: だっち
交錯する思惑

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132/140

第122話 戦場の商店街

是非、ブックマークか評価を。

私にガソリンをください!!

昼過ぎ、直哉と武虎は商店街を歩いていた。


真弓と陽平はそれぞれ別の用事がある。

今日は2人だった。


「どこ行くんだ?」

「特に決めてない。ぼんやり歩いてた」

「おま、誘うなら目的地くらい決めておけよ」

「だってしょうがないじゃん。単独行動だめって言うからさ」


武虎が「お前ってやつは」と言いながら、それでも隣を歩き続けた。


その時――椎名からメッセージが来た。


《緊急。現在、複数の工作員と交戦中です。

神谷さんたちに向かえる状況ではありません。

今すぐ安全な場所に移動してください》


直哉は武虎に画面を見せた。


武虎が立ち止まる。

「まじか!」


(イチカ!?)

(『——警告。3名が接近しています。いずれも身体強化剛を発動しています』)


「トラ、やばいぞ。3人だ!」


2人は同時に身体強化剛を発動した。


商店街の通りから、3人の男が現れた。

30代くらい。体格がいい。

普通の探索者とは、目の色が違う。


2人が武虎の前に立ち、残りの1人が直哉の前に立った。


「神谷直哉。大人しくしてもらえるなら、手荒なことはしない」

「断る」


直哉と武虎が、同時に動いた。


* * *


2対1。

厄介だが、やりようはある。


右の男が半歩動いた。

構えを取ろうとした、その前に——踏み込み最小限の動作で、強化したこぶしを腹に叩き込む。


「ぐっ——」


左の男が即座に横から来た。

側頭部への蹴りだ。速い。


頭を下げる。

蹴り足が頭上を抜けた瞬間、軸足へ足払いをかける。

同時に右の男の腕を引いて、2人の動線が重なる位置へ誘い込む。


「っ——」


よろいた一瞬で右に向き直り、肘を顎に入れた。


ガッ!!


のけ反らせたまま体を入れ替え、右の男へ正拳を叩き込む。


「——ッ!」


2人が後退した。

たった数秒の交錯で、体勢が崩れている。


止まるな。

常に動き続け、2人の間に一直線に並ばれないよう角度を取る。

1人の攻撃が来た瞬間にもう1人が死角に入らないよう、位置を計算し続ける。

10年間以上、体に染み込ませてきた感覚だ。


右の男が踏み込んでくる。直線的な右ストレートだ。

軌道の内側へ踏み込み、腕を内側から弾く。

弾いた勢いを体の回転に変換し、左の男への肘打ちへ繋げる。


左の男が頭を下げた。

肘が空を切った瞬間――右の男から低い蹴りが来た。

前後から挟む形だ。

挿絵(By みてみん)

後退してかわす。


「……やるな」

2人が顔を見合わせた。


息を整える。まだ行ける。

「かかって来いや!」


今度は2人が同時に動いた。

正面から右の男。背後に回り込もうとする左の男。


前後から挟み込まれる。


踏み込む方向を変え、右の男の横へ出る。

右の男を盾にする形で、背後からの攻撃を消す。

右の男の死角へ入りながら、肘を首に打ち込む。

右の男がよろめいた。


左の男が軌道を変え、上段への蹴りを放つ。

低く屈む。

蹴りが頭上を抜けた。

左の男の着地の瞬間、足首を払う。


「っ——」


左の男が膝をついた。


背後から右の男が来る。

肩口へ、今度は両腕で組み付こうとした。

半歩前へ出て、組み付きを外す。

体を入れ替えながら、みぞおちに肘を落とした。


ドッ——


右の男が前屈みになる。

呼吸が速い。


2人の息が上がってきている。

自分は、まだ乱れていない。


追い込もうとした時、2人の動きが、止まった。

空気が変わる。


「ちっ、識界(しきかい)か!」


相手の魔素が広がっていく感覚が、肌に伝わる。

見えない。だが、境界が自分の周囲に張られていくのがわかった。


「ほう、気づくのか」

男が笑い、構えを変えた。


(どこだ。何が来る。神経を研ぎ澄ませろ……!)


男が指を鳴らした。


パチン。


――瞬間、肌が粟立つ。

体が動いていた。考える前に、左へ跳んでいた。


直後――


立っていたアスファルトが、音もなく一文字に裂けた。

刃が入ったわけでも、何かが飛んだわけでもない。

ただ、空間が、裂けた。


自分の足があった場所が、ぱっくりと口を開けている。


「——」


「……ほお」


もう一度。


正面――肌が粟立つ。右に跳ぶ。

直後、地面が一文字に裂けた。


3度目。低く屈む。

頭があった空間が裂けた。

前髪が数本、ふわりと舞う。


「——くそったれ……!」


4度目。

右にかわす。


「ちっ!」

わずかに反応が遅れた。

ジャケットの左端が、裂かれて宙に舞った。


「……まるで獣だな。こうも見事にかわすか」


答えない。


(かわし続けるのは限界がある。前に出るしかない……!)


「——断裂猛襲(ブレイクアサルト)ッ!!!」


全身に赤いオーラが爆ぜた。

虎の輪郭が膨れ上がり、黒い稲妻が体表を走る。


男が指を鳴らした。


来る――どこだ!

肌が粟立った場所へ、爪を叩き込んだ。


「そこだぁぁッ!!!」


断裂猛襲(ブレイクアサルト)の爪が、大切断(スラッシュ)の斬撃にぶつかった。


キィィィィィィィンッ!!!!


空間が軋む。

金属とは違う。甲高い音が周囲を震わせる。


余波が四方に散った。

自転車が吹き飛ぶ。看板が折れる。窓ガラスが割れた。


赤い魔素と黒い裂け目が、空中でぶつかり合う。


「——ッ、まさか……!」


男が後退する。追う。


「逃がすかぁ——!!」


――しかし。


影縛り(ブラック・バインド)


足元に黒い影が広がった。

足首を掴まれ、それが体中に絡みつく。

「——なっ、動きが——ッ!」


引き剥がそうとするが、影は引き伸びるだけで千切れない。

「くっ——このォ……!!」


* * *


一方、直哉は1対1だった。


「こんなところで仕掛けてくるのかよ!」


踏み込んで突きを叩き込む。

受け流された上にカウンターが来る。

身を捌いてかわした。


均衡している。

実力が近い。


(イチカ!)

(『時穿つ瞳(クロノス・ハック)』)


幾何学模様が左目に浮かぶ。

燐光が瞬いた。

世界が、粘りを帯びた。


右手の軌跡が見える。

一歩左にずれる。拳が空を切った。


その脇腹に突きを叩き込む。


「っ——」

敵がよろめく。


次が来る。蹴りだ。

後退し、重心が泳いだ瞬間に踏み込んだ。

顎に上段突き。


ガッ——


「——なぜかわせる……!」

大振りの右が来る。


「遅い!」

身を沈めてくぐり抜ける。

すれ違いざまに脇腹を叩き、回り込んで背中に肘を入れた。


ドッ——


前のめりに崩れる。


「まだだ!」

間合いを詰め、腹に連打。

上段。また腹。


「——ぐっ、——ッ!」


じわじわと削れていく。

時穿つ瞳(クロノス・ハック)が続く限り、この均衡は崩れない——


その瞬間、相手の表情が変わった。

「——驚天動地(パラドックス)


何かが、体を包んだ。


(——!)


右に踏み込もうとした。

体が左に動いた。


「——え」


前に出ようとすると、後退する。

殴ろうとすると、腕が引っ込む。


全ての動作が、逆だ。


(『——能力干渉です! 意図した動作が全て反転しています!』)

「くっそ——ッ!!」


右手を動かそうとした、左手が動く。

右を向こうとすると、左を向く。

逃げようとすると、向かっていってしまう。


(イチカ! 何か方法は!)

(『試しています——逆の動作を意図することで——いえ、それも干渉されます。

能力の解除方法が不明です!』)

(くそっ、どうすれば!!)


(『——分体生成(アバター)、展開します!!』)


体から、淡い光が溢れ出した。

光が人型を作る。直哉と同じ姿、同じ大きさ。

一瞬で、分身が顕現した。


分体生成(アバター)が男へ踏み込む。


「——ッ!」


男が後退する。

分体生成(アバター)が追う。


直哉はその間、体の反転を解こうとした。


逆の動作を意図する——反転する。

魔素を集中する——解けない。


「くそ——解けない——ッ!!」


分体生成(アバター)が男を押し込んでいた。

ガッ、ガッ、ガッ——


「いい分身だ。しかし——」

男が構えを変え、攻撃に転じる。


(『——圧力が——! 分身への魔素供給が追いつかない——!』)

アバターの輪郭が滲む。

手足の形が崩れていく。


「——消えろ!」


ドォォンッ!!


分体生成(アバター)が弾き飛ばされた。

光が散り、分身が消えた。


(『……打ち破られました』)


体はまだ逆を向く。

踏み込もうとすると後退する。


「抵抗をやめろ」

「——誰が!」

「そうか」


男が静止した。

少し離れた方向を見た。

つられて直哉も見る。


武虎が、担がれていた。


影縛り(ブラック・バインド)に全身を絡め取られている。

腕も足も、黒い影が縫い付けるように固定されていた。

術者が武虎を肩に乗せ、こちらへ歩いてくる。


武虎は意識がある。

歯を食いしばって抵抗しようとしているのが見えた。

しかし動けない。


「——神谷、気にするな……!」

武虎が声を絞り出した。


「黙れ!」

術者が武虎の頭を押さえつけた。


男が直哉に向き直る。

「大人しくするなら、こいつには手を出さない」


直哉は武虎を見た。

武虎がこちらを睨んでいた。

「いいからやれ!」と言っている目だった。


「……」


「どうする?」


直哉が構えを解こうとした――

その時。


——暴風が吹き荒れた。

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