第121話 動き出す影
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私にガソリンをください!!
椎名たちと顔合わせをした翌日の夜、ヤスから連絡が来た。
《ナオヤ氏、少し前から気になっていることがあります。
今日だけで、同じ顔を3度見かけました。
外国人2名と日本人1名です。
3人はそれぞれ別の場所にいましたが、共通して拙者の動きを追っていた可能性があります。
念のため報告します》
直哉は画面を見て、すぐに武虎・真弓・陽平に転送した。
《今夜、ヤスのところに行く。一緒に来てくれるか》
3人からすぐに返信が来た。
直哉は椎名にも連絡した。
《ヤスが尾行されている可能性があります。
今から4人でヤスの自宅に向かいます》
《わかりました。私たちも動きます》
* * *
4人がヤスの自宅マンションに着いたのは、30分後だった。
ヤスはエントランスで待っていた。
長髪を結び、いつもの落ち着いた表情だ。
特に怯えている様子はない。
「ナオヤ氏、武虎氏たちも。夜遅くに来てもらってすまないですな」
「気にするな。詳しく聞かせてくれ」
4人がエントランスに入ったところで、ヤスが話した。
「今日の午前中、コンビニの前で外国人男性と目が合いました。
気のせいかと思いましたが、昼に図書館で同じ顔を見ました。
夕方、駅の改札を出たところで3人目——今度は日本人——が拙者の後ろを歩いていました」
「偶然じゃないよな」
武虎が言った。
「偶然にしては、距離の取り方が上手すぎます。
訓練された動きです。拙者は詳しくないですが、尾行の基本的な形に見えました」
「ヤス、今は怖くないか」
直哉が聞いた。
「怖くないと言えば嘘になりますが、拙者がパニックになっても仕方ありません。
だから報告した次第です」
直哉はヤスを見た。
肝が据わっている。
「よく冷静でいられたな」
「拙者、天才ですから」
「……そういうことにしておく」
「イチカ、周囲に魔素能力者はいるか」
『……2名。建物の外、それぞれ別の方向に潜んでいます。
魔素を抑えていますが、確認できます』
「敵か?」
『判断できません。椎名様たちの可能性もあります』
「椎名さんかもしれない。
確認してみる」
直哉は椎名にメッセージを送った。
《今、ヤスの建物の外に2名います。あなたたちですか》
すぐに返信が来た。
《1名は私です。もう1名は……確認します》
少し間があった。
《こちらの人間ではありません。
相手側の可能性があります。
建物から出ないでください》
直哉は全員にメッセージを見せた。
「やっぱり来てた」
真弓が言った。
「どうします?」
「待とう」
直哉が言った。
「向こうから動いてくるなら、そこで対処しよう。
俺たちから出ていくよりも、椎名さんたちにやってもらったほうが安全だろう」
「そうですな」
ヤスが言った。
* * *
それから10分ほど経った頃、椎名からメッセージが来た。
《外の1名、立ち去りました。
こちらで追跡中です。
今は安全です。
出てこられます》
「行くか」
武虎が言った。
全員で外に出た。
夜の住宅街に、椎名が立っていた。
「1名が立ち去りました。
追いかけましたが、路地で見失いました」
「どんな人間でしたか?」
直哉が聞いた。
「20代後半の男性。
相当な魔素能力者です」
「先日のカフェに来た人物とは別ですか?」
「ええ、おそらく。
顔は違いました。
組織に複数の能力者がいるということでしょう」
直哉は少し考えた。
「先日会ったハワードという男は、「仲間の気は短い」と言っていました。
断ったことで次の段階に移った可能性があるのかも」
椎名が頷いた。
「そう判断しています。
今夜は安田さんの動きを確認しに来たのでしょう。
次は直接動いてくる可能性があります」
「ヤスが狙われるということですか」
陽平が聞いた。
「直哉さんの周辺を通じて圧力をかける、というのは常套手段です。
安田さんへの接触も、その一つと考えられます」
ヤスが「拙者、囮にしてもいいですぞ」と言った。
全員が見た。
「冗談ですよ。でも半分本気です」
「だめだ」
直哉がすぐに言った。
「なぜですか。
拙者なりに準備もできます」
「それは助かるけど、でもやっぱりヤスが危険にさらされる状況はだめだ。
魔素能力者ってのは、ほんとにやばいんだって」
「自分でいうなよ」
武虎がわざと茶化す。
「ふふ、そうですな……
わかりました」
しばらくして、椎名からもう一つメッセージが来た。
《申し訳ありません、見失いました。
ただ、今夜の相手の動きを記録しています。
明日、田所さんを交えて共有したいと思います。
今夜は安田さんの建物も警護対象に含めます》
直哉は全員にメッセージを見せた。
「今夜はここまでか」
武虎が言った。
「みたいだな。ヤス、今夜はここを動くな。
椎名さんたちが外を見てくれてる」
「わかりました。
ナオヤ氏たちこそ、気をつけて帰ってくだされ」
4人はエントランスを出た。
夜の住宅街は静かだった。
しかしイチカが言った。
『先ほど立ち去った能力者ですが、完全に姿が消えたわけではありません。
遠方から監視している可能性があります』
「そうだな、まだ近くにいるかもしれない。
気をつけながら帰ろう」
「だろうな。
まあ、でも今日は派手な動きはしないだろう」
「そうですね」
「とりあえず田所さんに連絡しとくよ。
今夜と4人で固まって動く方がいいかな?」
「そうだな、ウチの道場来るか?
広いし、寝床も用意できるぜ。
それに親父もいるしな」
「確かに!
助かるよ」
4人は夜の住宅街を歩き始めた。
椎名たちがどこかで動いているはずだった。
相手側も、まだどこかにいる。
次に何をしてくるのか、まだわからなかった。




