第114話 拠点の種まき
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私にガソリンをください!!
エルタの街は、ラグナから馬車で半日ほどの距離にあった。
ダルヴァとは逆の方角、西の街道を進んだ先にある。
街の規模はラグナと同程度だが、農業が盛んで周辺に畑が広がっていた。
街道沿いの集荷拠点としての役割が大きいらしく、荷馬車の往来が多い。
市場には農産物が豊富に並び、ラグナより活気がある印象だ。
直哉・武虎・真弓・陽平の4人が田所さんの馬車に乗り込み、朝のうちに出発した。
ガタゴト揺れながら2時間ほど進むと、草原の向こうに石造りの街壁が見えてきた。
「あれがエルタですか」
陽平が幌から顔を出した。
「そうです。
こじんまりしていますが、荷馬車の集まる街なようです。
おそらく商人との繋がりが作りやすいでしょうね」
昼過ぎにエルタの門に着いた。
冒険者タグと商業ギルドの証明書を見せて入る。
* * *
田所さんが事前に連絡を入れていたらしく、商業ギルドの担当者がすでに待っていた。
「ここで待っていてください。
交渉が終わったら呼びます」
田所さんが4人に言い、職員2名と共に建物の中へ入っていった。
直哉たちは入口の前に残った。
「護衛って、こういうことか」
武虎が壁に背を預けながら言った。
「そうですね。中に入っても邪魔なだけですし」
陽平が周囲を見回した。
商業ギルドの前には人の往来がある。
商人、荷運び、街の住民。
誰も4人を気にしていない。
真弓は建物の陰に移動して、市場の方向を眺めていた。
直哉はその場に立ちながら、周囲の人の流れを眺めた。
行き交う馬車。露店の掛け声。荷物を担ぐ男たち。
「……エルタは活気があるな」
『農産物の集積地として機能しているためです。
情報伝達の速度が上がれば、ここのような街が一番恩恵を受けます。
価格の変動や集荷の予定が即座に届くようになれば、荷馬車の動きが変わります』
「使者を走らせる手間がなくなる、か」
『その分のコストが他に回せます。田所様の交渉が成立する可能性は高いです』
しばらくして、田所さんが出てきた。
「話が進みました。
担当者が上に確認してから3日後に返事をくれます」
「どんな反応でしたか」
直哉が聞いた。
「食いついていました。
ただ、最後に『JPとはどんな組織か』と聞かれました」
「何と答えたんですか?」
「技術の出所は企業秘密と。今はそれ以上は話せないと」
「通じましたか?」
「今は、ですね。
規模が大きくなる前に対策が必要ですね」
* * *
会議室を出た。
武虎が言った。
「うまくいきそうですね」
「まだわかりません。
上が首を縦に振るかどうか」
田所さんが言った。
「3日待つ間に、ダルヴァの交渉も並行して動きます。
今日はエルタに泊まって、明日ダルヴァに向かいましょう」
宿を取って、夕方まで時間ができた。
4人は街を歩いた。
市場を一回りすると、農産物が豊富に並んでいる。
真弓が露店の芋に目を留め、銀貨を払って5個買った。
「イモイモ」
「異世界で焼き芋食べるのか……」
「何が悪い」
武虎が「べつに」と言いながら、真弓のあとをついていった。
宿に戻り、焼き芋を食べながら4人で話した。
「結果が早かったですね」
陽平が芋をほおばりながら言った。
「待ってる間、中でどんな話をしてたんでしょう」
「田所さんが結構話してたな。15分くらいかかってた」
武虎が言った。
「あの魔道具、見せた瞬間に食いつく気がしますけどね」
陽平が言った。
「声が本当に届いてたら、断れないですよ」
『食いついた可能性は高いです。
相手が求めているのは技術の出所ではなく、魔道具が使えるかどうかです。
使えると判断した時点で、出所への疑問は一時的に後退します』
「……なるほど」
直哉が呟いた。
『商取引の原則は、魔素能力とは別の分析範囲です』
「でも、実績が積み上がるほど疑われることも増えますよね?」
陽平がぽつりと言った。
「田所さんもそう言ってた。
避けられないって」
「じゃあどうするんですか?」
「信頼の方が疑念を上回るようにする」
直哉が言った。
「それしかないだろ」
真弓が「実績と信頼、ね」と返した。
『相手が技術に驚いている間に体制を整えるしかないでしょう。
一次的には田所様ですが、直哉あなたが根幹なことに変わりはありませんよ』
誰も続けなかった。
芋が、じんわりと温かかった。
* * *
翌日、ダルヴァへ移動した。
前回来た時の行政担当者・フォンターナが今回はより積極的に迎えてくれた。
前回の訪問で顔を知られていたせいか、入口での手続きもスムーズだった。
「では行ってきます。
ここで待っていてください」
田所さんが職員2名と共に建物の中へ入っていった。
直哉たちは外で待った。
ダルヴァの街並みが広がっている。
馬車が往来し、市場の喧騒が聞こえてくる。
「……ここから繋がっていくのか」
『第一段階が完成すれば、ラグナ・ダルヴァ・エルタが電話で繋がります。
3点が繋がれば、街道沿いの商人が動き始めます。
農産物の価格や集荷の情報が即座に届くようになれば、荷馬車の動きが変わります。
それがJPへの依存を生み、通信網の価値が自然に広まっていきます』
「うまく転がれば、連邦全体が動くな」
『ええ、そのための最初の3点なのでしょう』
しばらくして、田所さんが出てきた。
「こちらも決まりました。
前回の訪問で顔を覚えてもらっていたおかげで、話が早かった」
「よかったです」
「2つとも取れましたね」
田所さんが頷いた。
* * *
帰り道の馬車の中、田所さんが切り出した。
「2つの街とも話が進みました。
次の段階に入るためには、こちらの人員をさらに増やす必要があります。
エンジニアだけでなく、現地での設置や管理を担う人間も必要です」
「こちらに転移させるんですか?」
「そうなります。
ただ——」
田所さんが直哉を見た。
「転移ができるのは、今のところ神谷さんだけです。
国でも技術の研究を進めていますが、確立されるまでには時間がかかる。
その間は、神谷さんに転移をお願いするしかありません」
馬車の中が少し静かになった。
「はい、確か1か月で2000キロでしたっけ?
30人前後ってとこですかね」
「ええ、そうですね。
ご負担をかけてしまいますが、よろしくお願いします」
「わかりました。
大丈夫です」
「ありがとうございます」
田所さんが続けた。
「神谷さんには、これからも動いてもらうことが多くなります。
その分、政府としてできる限りの便宜を図るつもりです。
何か困ったことがあれば、遠慮なく言ってください。
装備でも、情報でも、地球側での手続きでも——できる限り対応します」
「それはありがたいですね」
陽平が言った。
武虎が腕を組んだ。
「転移の技術が確立したら、お前の負担は減るのか」
「そうなりますね。
それまでは、神谷さんの存在が計画全体の要になります」
直哉は窓の外を見た。
夕暮れの街道が続いている。
草原が赤く染まり、馬車の影が長く伸びていた。




