第112話 次なる展望
是非、ブックマークか評価を。
私にガソリンをください!!
馬車が止まった。
石造りの門が、正面に立ちはだかっている。
ラグナより高く、厚い。
門の両脇には鎧姿の衛兵が2人ずつ立っており、入場する者を1人1人確認していた。
「大きいですね」
陽平が馬車の幌から顔を出した。
「ラグナの倍はありそうだな」
武虎が腕を組んだ。
列が少しずつ進む。
商人の荷馬車、旅人、冒険者らしき集団——いろいろな人間が列をなしていた。
順番が来た。
衛兵が馬車に近づいてくる。
田所さんが先に降り、商業ギルドの証明書を差し出した。
衛兵はしばらく書類を確認し、それから馬車の中を見渡した。
直哉たちも冒険者タグを見せる。
「通れ」
短い一言で、門が開いた。
* * *
街の中は、ラグナとは別の空気を持っていた。
道幅が広い。
馬車がすれ違えるだけの余裕がある。
石畳の質も整っており、ラグナより手入れが行き届いている。
市場は大通りに沿って広がっており、露店と常設の店舗が混在していた。
香辛料・布・金属製品・食料——種類も量も、ラグナとは段違いだ。
「ここなら需要も大きいですね」
田所さんが街並みを眺めながら言った。
「まず宿を確保しましょう」
宿はすぐに見つかった。
大通りから一本入った路地にある、3階建ての石造りの建物だ。
1階が食堂兼受付で、2階3階が客室になっている。
部屋を押さえてから、田所さんが役割を振った。
「私達は今日から市場と行政の窓口を当たります。
今日と明日の2日間で調査を終えて、明後日の朝に出発します。
神谷さんたちは自由に動いてください」
「わかりました」
「じゃあ、飯でも食いに行くか」
* * *
2日間は、久しぶりにのんびりした時間だった。
初日は街を一回りし、ご飯を食べ、ショッピングを楽しんだ。
2日目は武虎と組み手をして、陽平が回復の練習をして、真弓はどこかへ1人で消えて夕方に戻ってきた。
「姉ちゃん、何してたの?」
「散歩」
「2日も?」
「うん」
陽平は何も言わなかった。
夜、田所さんが戻ってきて情報共有をしてくれた。
「通信手段がないこと、保存食の技術が低いこと、医療用ポーションの供給が不安定なことを確認しました。
それと、行政の担当者と名刺交換ができました。
こちらにも支店を出すことができそうです」
「ご苦労様でした」
「いい調査でした。
明日の朝、出発しましょう」
* * *
3日目の朝、7人は馬車でラグナへの帰路についた。
来た時と同じ街道を戻る。
ガタゴト、ガタゴトと揺れながら、草原の中を進んでいく。
昼を過ぎ、日が傾きかけた頃——
「そろそろ野営の場所を探したほうがいいですね」
田所さんが言った。
「もう少し先に開けた場所があったはずです」
御者が答えた。
馬車が進む。
その時。
ヒュッ。
空気を切る音がした。
矢だ!
馬車の幌に、矢が突き刺さった。
「伏せろ!!」
直哉が叫ぶより早く、武虎が馬車の外へ転がり出ていた。
街道の両脇——木立の陰から、複数の人影が飛び出してきた。
布で顔を覆い、弓や剣を持っている。
1人、2人、3人……数えると8人いた。
「みんな馬車の後ろに!」
直哉が職員2名と田所さんを馬車の陰へ押し込む。
矢が2本、3本と降ってくる。
(『8名。弓使いが3名、近接が5名です』)
直哉はバットを構え、武虎と横に並んだ。
陽平が木刀を抜く。
真弓が銃を両手に持ち、馬車の上へ跳んだ。
「盗賊か」
武虎が吐き捨てた。
「そうみたいですね」
矢が来る——直哉は蜻蛉飛びで軌道から外れ、弓使いの1人へ一気に距離を詰めた。
「クリムゾン!」
グレートソードモードが展開し、弓を叩き落とす。
そのままバットの腹で腹部を押して、木立に叩きつけた。
気絶した。
「——はん」
真弓が馬車の上から声を上げた。
楽しそうだった。
通常弾で、弓使いの足を撃つ。
パンッ——弓使いが足を折る。
続けて2人目。肩。
パンッ——倒れる。
「虫は虫らしく潰れなさいな」
残った近接の盗賊5人が、一斉に向かってくる。
武虎が前に出た。
ただの身体強化を使って、先頭の盗賊の剣を掌で受け流す。
剣が地面に落ちる。
武虎はそのまま腕を取り、腹に膝蹴りを入れ気絶させる。
「次」
陽平の難陀が走り、2人の足を一度に絡め取る。
2人が地面に倒れ、身動きが取れなくなった。
残り2人が向かってくる——
「ほらほら」
真弓が馬車の上から狙いをつけ、2発。
肩と膝。
2人が同時に崩れた。
「全員仕留めました」
陽平が倒れた8人を見渡した。
「全員生きてますね」
武虎が縄で盗賊たちを縛っていく。
「田所さん、大丈夫ですか」
直哉が馬車の陰へ声をかけた。
田所さんが立ち上がった。顔が少し青い。
「……はい。大丈夫です」
職員3名は馬車の陰で固まっていた。
根本さんは両手を膝の上に置き、視線を落としている。
もう1人は馬車の壁を両手で掴んだまま動かない。
「初めてですか、こういうの」
陽平が近くにしゃがんで聞いた。
根本さんが絞り出すように言った。
「……はい。本物の矢が飛んできたのが初めてで」
「慣れなくていいことですよ」
武虎が縛り終えた盗賊たちを街道の脇に転がした。
「次の通行人か衛兵が見つける。放っておけばいいだろ」
「行きましょう」
直哉は馬車に向き直った。
「野営地を探さないといけない」
馬車が再び動き出す。
ガタゴト、ガタゴト。
* * *
ラグナの門をくぐったのは翌日の夕方だった。
JPギルドに戻り、全員で食事を取ってから、田所さんが口を開いた。
「今回の調査で、一番大きな課題がわかりました」
直哉たちが田所さんを見た。
「通信網です」
田所さんは紙に何かを書きながら続けた。
「やはり、こちらの世界には電波という概念がないようです。
今なら我々が独占できそうです」
「なるほど。でも一から作るのは大変そうですね」
直哉が言った。
「ええ。
ですが、それだけに見返りも大きいです。
あとは、強権で奪われないよう立場を確立しなければなりませんね」
田所さんはペンを走らせながら、独り言のように続けた。
「まず拠点を増やす。それぞれの拠点が情報を集める。
ラグナを中心に、街道沿いに点を打っていく——」
直哉はその紙を覗き込んだ。
地図の上に、いくつかの点と線が描かれていた。




