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現代ダンジョン奮闘記  作者: だっち
交錯する思惑

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第111話 JPの朝

是非、ブックマークか評価を。

私にガソリンをください!!

朝の市場は、今日も混んでいた。


JPギルドの前には開店前から列ができている。

先頭は顔なじみの食堂の主人だ。

醤油を買いに毎朝来る。


「おはようございます。いつものですか?」

「ああ。昨日、醤油で炒めた肉を出したら大好評でな。

もう1本くれるか」


「ありがとうございます。醤油は残り12本です。追加は来週になります」

「来週か……困ったな。では2本もらおう」

「お1人様1本でお願いしております」


「もうちょっと、数増やせないの?」

「すみません、我々も何とかしたいのですが、こればかりは……」

「……まあ、そうだよな。わかった」


こういうやりとりが、毎朝続いている。


直哉は2階の窓から市場を見下ろしながら、変換装置(カツドン・メーカー)から出したから揚げ定食を食べていた。


「醤油、もう足りなくなっているんですか?」

「いえ、在庫自体はあります」

田所さんが隣でコーヒーを飲みながら言った。


「魔石で変換すれば、供給自体はほぼ無制限にできます。

ただ、出しすぎると価値が下がりますからね。

今は意図的に量を絞っているんです」

「なるほど」


「大豆は手に入るんですか?」

「似たような豆は見つかっています。

現地生産できれば、おそらく魔石変換よりコストは安くなるでしょう。

ただ、現地生産は最初から現地の人に任せる想定です」


「こっちでは作らないんですか?」


田所さんはコーヒーを一口飲んだ。

「ええ。

そこまで手を出すつもりはないんです。

まず魔石変換で商品の価値を上げる。

十分に知れ渡ったところで、製法ごと領主に売り込む。

特許のような仕組みもあるので、それで十分だと思っています」


「そうすると、ゆくゆくは調味料は売らなくなるんですか?」


「そうですね。

ただ高級路線として我々の商品は残ると思っています」

田所さんが少し前のめりになった。

「現地で作り始めても、品質を安定させるにはノウハウが要る。

慣れるまでには時間がかかる。

その間は、うちの方が確実に上質なものを出せる。

製法が広まっても、高品質の層はこちらが取れるんです」


直哉はから揚げを一口食べた。

「なるほど、そんなもんなんですね」


「とは言え、そううまく行くかは、やってみないとわかりませんが」

田所さんは微笑んだ。


* * *


JPギルドの事業は、この数週間で急速に拡大していた。


最初に売れたのは調味料だった。

醤油、味噌、マヨネーズ、チリソース、照り焼きソース、ホワイトソース。

いずれも現地にない味で、食堂や料理人の間で口コミが広がり、今では朝の列が途切れない。


塩・砂糖・胡椒・各種香辛料は、商人に卸売りしている。

行商人が他の町へ持ち出し始めており、ラグナの外にもJPの名前が知られ始めている。


もう一つの柱が、魔道具の改良版だ。


この世界にも魔道具はある。

熱を起こすもの、水を浄化するもの、光を出すもの。

しかし、どれも性能が低く、使い勝手が悪い。


それを地球の家電を参考に作り直した。


温度を一定に保つ保温箱。

明るさを自在に調整できる照明具。


現地の魔道具と比べると、性能の差は圧倒的だった。

「魔石が変わったのか」と聞いてくる客もいたが、仕組みは同じだ。

発想と設計が違うだけだ。


行政に先に売り込んだのは田所さんの判断だった。

「信頼を作るには、まず公的機関との取引実績が必要です」

冒険者ギルドと役所に保温箱と照明具をまず入れた。


効果はすぐに出た。

「あれはどこで買えるか」という問い合わせが、その翌日から来るようになった。


今では業務用として複数の施設が導入しており、商人からの注文も増えている。


「現地の魔道具屋から苦情が来ました」

根本さんが2階へ上がってきて、田所さんに報告した。


「どんな内容ですか」

「うちが売ってるものと同じ用途の道具が売れなくなった、と。

それと、製法を教えてくれないか、という打診も同時に」


田所さんは少し考えてから言った。

「教えることは今は難しい。

ただ、一緒に作る形なら話し合える、と伝えてください」


「了解です」


直哉は食べ終わった皿を置いた。

「対立するより取り込む、か」


「商売の基本です」


* * *


昼過ぎ、田所さんから声がかかった。

「神谷さん、少しいいですか。皆さんも」


1階の広間に直哉・武虎・陽平・真弓が集まった。

田所さんが地図を広げる。


「この街道を東に2日ほど行ったところに、中規模の町があります。

ラグナより人口が多く、商圏として有望です。ただ——」


「ただ?」


「まだ直接行ったことがありません。

どんな町なのか、行政は何を求めているのか、調査したい。

護衛をお願いできますか?」


武虎が地図を覗き込んだ。

「街道沿いなら魔物は少ないんじゃないか」


「カルロスさんに確認しました。

街道自体は比較的安全ですが、周辺の森から魔物が出ることがある。

特に最近は、グリーンドラゴンが縄張りを変えたせいで生態系が少し動いているようです」


「なるほど」

直哉は武虎たちを見た。


武虎が肩をすくめる。

陽平が頷く。

真弓は無言だが異論はなさそうだ。


「受けます」

「ありがとうございます。

私と職員2名が行く予定です」


「出発はいつですか?」

「明後日の朝を予定しています。

それまでに準備をお願いします」


* * *


2日後、夜明け前。


ラグナの門の前に馬車が1台止まっていた。

荷台付きの4頭立て。

御者は地元の馬車屋から雇った中年の男性だ。


「これ、7人乗れますか」

陽平が馬車を見上げて呟いた。


「詰めれば乗れますよ」

田所さんが荷物を積みながら言った。


全員が乗り込んだ。

7人分の荷物も入れると、確かに詰まっている。


馬車が動き出した。


石畳の上を、車輪がきしみながら進む。

ガタン。ゴトン。ガタン。


「……揺れるな」

武虎が眉をひそめた。


「そうですね、これはお尻にきますね……」


街道に出ると、道は土に変わった。

揺れは増した。


ガタガタガタ。


「これ、長距離だときついぞ」

「確かに。

クッションが必要ですね」


「……2日」


直哉は揺られながら、馬車の構造を眺めた。

車輪。車軸。荷台。

サスペンションがない。

クッションが薄い。


(イチカ、これ改善できると思うか?)

(『乗り心地の向上という点では、改善の余地は大きいです。

魔石を使ったショックアブソーバーの概念は、この世界にはないようです』)

(需要はあるよな)

(『確実にあると思われます。街道を行き来する商人にとって、馬車の快適性は大きな問題です』)


直哉はガタゴトと揺られながら、ぼんやりと考えた。

調味料。

魔道具。

そして馬車。


まだやれることは、いくらでもある。


「田所さん」

「はい?」


「馬車とか改良してくれません?」

「あはははは、私も同じことを考えていました」


ガタゴト、ガタゴトと、馬車は街道を進んでいく。


街道の両脇に広がる草原が、朝日を受けて金色に染まっていた。

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