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現代ダンジョン奮闘記  作者: だっち
新世界

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第106話 緑の脅威

トログロダイトが唸り、地面を踏み鳴らしながら一斉に動いた。

挿絵(By みてみん)


「散るな、固まれ!」

直哉は叫びながらバットを構え、前に出る。

武虎とマルコ、リザが前衛に並んだ。

真弓、陽平、オルソンが後衛に展開する。


悪臭が鼻腔を満たす。

(『長時間の暴露は集中力を削ぎます。呼吸を浅くしてください』)

(わかった)


トログロダイトの1体が爪を振るい、直哉の首元を狙う。

バットで腕を弾き、返す刀で脇腹を叩く。

鱗が硬い。通常より手応えがある。


「硬いな!」

(『鱗の密度が通常種の2倍以上あります。打撃を集中させてください』)


武虎が断裂掌(ブレイクハンド)を発動した。

手に赤いオーラが集まり、黒い稲妻がバリバリと走る。

真正面から掌底を叩き込んだ瞬間——トログロダイトの胸に穴が開き、巨体がゆっくりと前のめりに倒れた。


「随分と温いな!」

「ナイスだ、トラ!」

直哉も気合いを入れ直し、更にバットを振う。


戦線が均衡しかけた——その時だった。


「——っ、なんだこれ!」


オルソンの声が後方から響いた。


振り返った直哉の目に映ったのは、後衛の足元で動く"植物"だった。

いや、植物ではない。

草に擬態していた何かが、蔓のような腕を伸ばし、オルソンの足首を掴んでいた。

黒ずんだ幹に、腐った葉。人型の輪郭——しかし、そこに生きている気配がない。


挿絵(By みてみん)

ヴァイン・ブライトだ。


「後ろだ!」

草むらのあちこちから、次々と立ち上がる。

4体、5体——後衛を狙い澄ましたように、包囲を形成していった。


(『ヴァイン・ブライトは再生能力を持ちます。斬撃より打撃、または火属性が有効です』)

(前衛と後衛、同時に来るように仕掛けてあった——)


視界の端、グリーンドラゴンがいた。

動いていない。

少し離れた岩の上に腰を下ろし、こちらを眺めている。

まるで観劇でもするように、静かに。


* * *


後衛では、3人がそれぞれの対応に入っていた。


陽平はすでに体中に蔦が絡みついていたが、木刀の剣先に意識を集中させる。

水操(ミズノ・シラベ):壱式 難陀(なんだ)!」


木刀から水の蛇が生まれた。

細く、鋭く、意思を持つように空中でとぐろを巻く。

陽平が意志を込めると、水の蛇が腕に絡まった蔓へ走り込んだ。

ジャ、ジャジャッ——水の牙が蔓に食い込み、ずたずたに裂いていく。

再生しようとする切断面を潰しながら、2本目、3本目へと連続して水蛇が奔る。

陽平は拘束を振り払い、一歩前へ出た。


「——っ、くそ」

真弓はグロック17を両手に構えていたが、ヴァイン・ブライトの蔓が両腕に絡みつき、銃口を塞いだ。

引き金が引けない。


「邪魔くさい」


真弓は舌打ちし、体に魔素を集中させる。

「——翼界(よくかい)

背に光の奔流が翼のように伸び、真弓の体がふわりと浮いた。

次の瞬間、地面を蹴り、空へ——


蔓が引き伸ばされる。

全身に食い込んだまま、真弓の体が強引に上昇した。

ブチッ、ブチブチッ——蔓が根元から引きちぎれ、ヴァイン・ブライトがよろめく。

絡みついていた残りの蔓も空中で振り払い、真弓は完全に宙へ出た。


「……こいつはあまり好きじゃねえんだがな」


ぼやきながら、銃口を下へ向ける。

地上で固まっているヴァイン・ブライトの群れを見下ろし、真弓は銃に砕陣を纏わせた。

赤いオーラが銃口に滲み光を帯びる。


引き金を引く。

通常の半分程度の弾速で弾が発砲される。

だが着弾した瞬間、


ドン、ドンッ!!


小規模な爆発がヴァイン・ブライトの密集地点で連続した。

黒い体液が飛散し、再生しようとする蔓が根元ごと吹き飛ぶ。


「きったねえな」


散り散りになった個体には、通常の魔素弾を叩き込む。

2発。正確に幹を射抜き、黒い体液が飛散した。


しかしオルソンは違った。


足首を掴まれ、引き倒される。

魔石袋を弾き飛ばされ、武器を絡め取られ、あっという間に蔓が全身に巻きついていく。

「——誰か——!」


オルソンの叫びに、武虎が反応した。


「マルコ、あっちだ!」

「わかった!」


武虎とマルコが前衛を離れ、オルソンへ走る。

その2人が抜けた穴を直哉とリザが塞ぎ、前衛の崩れを必死に抑えた。


武虎がオルソンを縛る蔓へ断裂掌(ブレイクハンド)を叩き込む。

赤いオーラが手を包み、黒い稲妻がバリバリと走る——蔓の消えた部分から、オルソンの腕が解放される。

マルコの槍が残りの蔓を薙ぎ払い、オルソンを引き起こした。


「立てるか!」

「……はい、なんとか」


オルソンは膝をついたまま、それでも弓を構え直した。


* * *


戦闘は激化した。


前衛では直哉が2人の穴を埋めるように遮二無二走る。

「うぉぉぉ、クリムゾン・インパクト!!」

イチカが直哉の気合いに合わせて、変幻武器タクティカル・フォージと砕陣と重ねて発動する。


ガギィィィンッ!!


ハルバードモードになったバットでトログロダイトが3体まとめて吹き飛ぶ。


後衛では陽平の難陀(なんだ)が縦横に奔り、真弓の魔素弾が空中から正確に幹を射抜く。


だが——数が多かった。


「マルコさん、下がって——!」

叫んだ時、マルコはすでに膝をついていた。

武虎との連携でオルソンを救った直後、前衛に戻る間際にトログロダイトの爪が肩を抉っていた。


リザも左腕にヴァイン・ブライトの蔓が深く食い込み、顔色が悪い。

オルソンも攻撃はしているものの、もう余裕がない。


(『3名の状態が危険域です』)


「陽平! 3人を頼む!」

直哉の声に、陽平が即座に動いた。

「わかった、任せろ!」


陽平はマルコの腕を肩に担ぎ、リザとオルソンに後退を促す。

「下がれ、俺が守る!」


3名が戦線を離れ、陽平がその前に立った。

木刀を構え、追ってくるヴァイン・ブライトを難陀(なんだ)で次々と裂いていく。


残ったのは直哉、武虎、真弓の3人だ。


「数が減った分、こっちが楽になったな」

真弓が空中から2発同時に撃ちながら言った。


「楽には見えないけどな」


「あたしは常にこれが通常運転だ」

真弓の魔弾がトログロダイトを2体まとめて吹き飛ばす。


武虎が吠える。

断裂猛襲(ブレイクアサルト)を発動し、虎の形をした炎のような輪郭を纏う黒い稲妻が表面を走る。

いつも魔素を操り、長剣のように伸ばした爪でヴァイン・ブライトをまとめて薙ぎ払う。


——ズバァァンッ!


赤い閃光が空間を切り裂き、ヴァイン・ブライトが触れた部分から消えていく。

蔓が、幹が、腐った葉が——次々と削り取られ、跡形もなく消滅した。


静寂が戻った。


直哉は肩で息をしながら、周囲を確認した。

ヴァイン・ブライトの残滓が地面に薄く散っている。

トログロダイトは1体も残っていない。


後方では陽平が3名を庇い、地面に腰を下ろしていた。

マルコは意識を失っている。リザとオルソンも、もう動けそうにない。


* * *


「——なかなかやるではないカ」


岩の上からグリーンドラゴンの声が落ちてきた。

相変わらず、動いていない。

その声には、驚きも感心もない。


直哉は肩で息をしながら、グリーンドラゴンを見上げた。

「約束通り、片付けた。

続きを聞かせてくれ」


グリーンドラゴンはしばらく直哉を見ていた。

「……貴様、消耗しているな」

「そうか? まだまだ行けるぜ」


「ふん」

グリーンドラゴンは岩から降り、ゆっくりとこちらへ歩いてきた。

一歩ごとに地面が低く揺れる。


直哉たちの前で止まり、視線を下ろした。

「私がここにいる理由を、貴様らは"追われた"と聞いたナ」

「ああ」


「正確に言えば——住処が使えなくなっタ、だ」

グリーンドラゴンは北の方角へ、もう一度視線を向けた。


「もともと私は、この森の奥にある遺跡に住んでいタ。

古い石造りの場所だ。私が生まれる前から、そこにあっタ。

静かで、人間も近づかない。悪くない場所だっタ」


「だが、最近になって——その遺跡が熱を放ち始めタ」


「熱?」

「床が焼け、石が赤く染まル。

魔素の乱れも酷い。近づくだけで皮膚が焼けル」

グリーンドラゴンは左前脚の火傷を一瞥した。

「これはその時のものダ。

原因はわからん。ただ、あそこはもう住める状態ではなイ」


直哉はイチカに問いかけた。

(イチカ、心当たりはあるか?)

(『……遺跡が突然熱を帯びる現象。

魔素の暴走か、あるいは遺跡内部に封じられた何かが活性化した可能性があります。

詳細は現地を確認しないとわかりません』)


「その遺跡の場所を教えてもらえるか」


グリーンドラゴンは直哉を見た。

「なぜだ?」


「原因を取り除ければ、あんたは住処に戻れる。

そうすれば、この辺りの生き物も落ち着く」


「貴様らに、それができるカ」


「できるかどうかはやってみないとわからない。

でも、やらずに諦めるよりはいい」


グリーンドラゴンはしばらく無言だった。

長い、長い沈黙だった。


やがて——ゆっくりと息を吐いた。


「……もし原因を取り除いたなら、私は住処へ戻ろウ。

そして、この辺りを乱すこともせヌ」


「約束してくれるか」

「私は嘘をつかん。人間と違ってナ」


武虎が小さく鼻を鳴らした。


「もう一つ」

グリーンドラゴンは続けた。

「住処に戻れたなら——遺跡の中に財宝があル。

貴様らの好みに合うかは知らんが、1つずつ持っていくがいイ」


「それは……」


「礼ダ」

グリーンドラゴンはそう言って、視線を切った。

「下等な生き物に礼を言うのは癪だが、約束は約束ダ」


* * *


直哉が振り返ると、後方でマルコが目を開けていた。

「……生きてる、か」


「ああ、生きてるよ」

陽平が疲れた顔で笑った。

「回復します。少し待ってください」


陽平は木刀を地面に突き刺す。

水操(ミズノ・シラベ)肆式(よんしき) 和修吉(わしゅきつ)


木刀を中心に、水の蛇が魔法陣を描き淡い光を放つ。


範囲内にいた3名の傷口が徐々にふさがり、顔色が戻っていく。

リザが深く息を吐き、オルソンが上体を起こした。


しかし陽平は最後の1人を終えた瞬間、その場に崩れ落ちた。


「陽平!」

「……大丈夫。ちょっと魔素が空っぽなだけ」

陽平は地面に仰向けになったまま、ぐったりと笑った。

「3人分回復させたら、こうなるよね」


真弓が呆れたように鼻を鳴らした。

「この愚弟め」


「ひどい……」


マルコが立ち上がり、直哉に頭を下げた。

「……助かりました。情けないところを見せてしまった」


「いや、お互い様です。

あれだけの状況で戦線を保てたのはみんなのおかげだ」


マルコは少し目を細め、それから決意したように言った。

「私たちは町に戻ります。

ドナートに報告しなければ。それに——これ以上は足手まといになる」


「一緒に来てもらえればよかったんだけど」


マルコは槍を握り直した。

「あなたたちにしかできないことがある。私たちには私たちの仕事がある」


リザが荷物を漁り、支給品のポーションを取り出した。

「これ、持っていってください。

私たちには、もう使う機会がなさそうなので」


赤いポーション4本と、青いポーション2本。

直哉はそれを受け取り、バッグに収めた。


「ありがとう」

「いや——こちらこそ」

「生きて帰れたのは、あなたたちのおかげです」


3名は森の道を戻っていった。

その背中が木々の向こうに消えると、直哉は改めて仲間を見渡した。


武虎、真弓、陽平——陽平はまだ地面に転がっている。


「……遺跡まで、あとどのくらいだ」


グリーンドラゴンが後ろから答えた。

「半日ほどだ。熱がひどくなり始めたら、近い証拠だ」


「わかった」


直哉はバットを肩に担いだ。

陽平がよろよろと立ち上がる。


「行けるか?」

「大丈夫。少し休めば動けるようになるよ」


グリーンドラゴンはただ北の方角を見ていた。

その方角の遥か奥に——熱を放つ遺跡が待っている。

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