表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
現代ダンジョン奮闘記  作者: だっち
新世界

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

109/132

第102話 異世界日本支店

田所からメッセージが来たのは、レポートを提出してから3週間後のことだった。


「神谷さん、正式に決裁が下りました。本格参入の方針で進めます」

「早いですね」


「ウチの部局長が動くと早いんです」

田所は電話越しに苦笑した。

「まず10名を先遣隊として送りたいと考えています。

そして、その10名で拠点の整備と現地の基盤づくりをしたいと考えています」


「転移をやるのは大丈夫だと思います」

「ありがとうございます。

では、そちらも正式に契約させてください。

1日最大400キロ、1ヶ月の上限は2,000キロで契約させていただきたいです。

報酬はこちらで試算した額をメールで送ります」


直哉は後日届いたメールの数字を見て、少し固まった。

想定よりかなり上だった。

「おお、こんなにか、やばいなこれ……」

『収益構造として悪くない条件ですね』


先遣隊の出発は翌週に3日に分けて行くことに決まった。

田所を含む10名分の異世界の服装も揃えて、順次、転移していった。


* * *


先遣隊が最初に向かったのは、町の商業ギルド連合の窓口だった。


受付に座っていたのは、恰幅のいい中年の男だった。

髭を蓄え、帳簿を眺めながら田所たちが入ってくるのを一瞥した。


「なんだ、見慣れない顔だな。旅商人か」

「はい。新しくギルドを立ち上げたいと思いまして」

と田所が答える。


「ギルドねえ」

男は帳簿から顔を上げた。

「どこの出身だ?」

「遠方からです。東の方から」


「東……はて、どの辺だ」

「かなり遠いので、ご存じないかもしれません」


男はしばらく田所の顔を眺めてから、「まあいい」と言って書類を1枚取り出した。

「ギルド設立には審査がある。

まず登録料、それから扱う品目の申告、代表者の身元保証。

身元保証は現地の商人か冒険者に1人頼め。

あと、初期審査に2週間かかる」

「2週間ですか」


「急ぎたいなら追加料金で短縮できる。1週間になる」

「では通常で」

男は少し意外そうな顔をした。

急ぐのが普通だからだろう。

田所は書類を受け取り、一通り目を通してから交渉担当の部下に渡した。


2週間後、許可が下りた。

ギルド名は「JP」だそうだ。


「JPって、そのままですね」

新しく設置したギルドの看板を見上げながら直哉は言う。


「短くて覚えやすいので」

田所が笑いながら答える。

「意味を聞かれたら適当にはぐらかしています。

現地の人には語感が珍しいようで、むしろ印象に残るみたいです」

「なるほど」


中に入ると、棚に整然と商品が並んでいた。

小瓶に入った日本の香辛料や調味料、改良された魔道具。

温度を一定に保つ保温箱、音を遠くに届ける伝声筒の改良版、光量を細かく調整できる照明具。

現地にはない味と、魔石を動力にした「家電的な何か」が所狭しと並んでいる。


「値段はそれなりに張るのに、よく売れてますね」

「香辛料は特に反応がいいです」田所が言った。

「現地にない味なので珍しいんでしょう。

魔道具だと保温箱が人気で、食材の保存に使えると気づいた料理人が買い占めていきました」


ちょうどその時、客が1人入ってきた。

続けて2人。外を見ると、短い列ができていた。

「引っ切り無しですよ」と田所が苦笑する。


「想定より早く回っています」

「それはよかった」


「稼いだ分は現地の素材とポーションに変えています。

研究班が喜んでいる」

「ポーションって、地球にはないですよね?」


「そうなんです」

田所が少し真剣な顔になった。

「魔石を使った回復は、地球では難易度が非常に高い。

自分自身に使うのがやっとで、他人に対して行うことはほぼできない。

だからポーションも地球には存在していない。

異世界に来て初めて、回復ポーション、解毒ポーション、病気治療ポーション……そういったものが普通に流通しているのを見て、研究班は相当興奮していましたよ」

「確かに、地球で使えるようになったら大きいですよね」


「医療が変わる可能性がある。

だから研究班は必死です」


直哉は棚の小瓶に目を向けた。

香辛料が大量に所狭しと置かれている。

「調味料はどうやって用意してるんですか?

そこまで荷物なかった気がしましたけど」


「それが」田所が苦笑した。

「魔石で調味料を生成しようとすると、とんでもなく高くつくでしょ。

いわゆる共同幻想の問題で」

「そうっすね」


「地球では、例えば醤油は数百円という認識が社会全体で共有されている。

でも異世界の人たちにとって醤油なんてものは存在すらしない。

価値の基準が共有されていないから、魔石が莫大なコストを要求してくる」


「だから全部日本から運ぶしかないですよね?」

「基本はそうです。

ただ、一つ抜け道がわかりまして」田所が声を少し落とした。


「閉鎖された空間で、その場にいる全員が地球の価格感覚を共有している状態なら、地球の値段に近いコストで生成できることが判明しています。

今、拠点の倉庫で実験中です」

『確かに、地方や部族などには、特有の技術というものが存在しています。

閉鎖された集団では、その集団特有の共同幻想が発生してもおかしくありませんね』


「日本人だけで部屋を閉め切って、醤油を生成する?」

「ええ、醤油だけなく、胡椒や精製塩などもですね。

まだ精度にばらつきがありますが、品質も上がってきていますし、変換コストも地球に近くなってきています。

神谷さんの転移の重量制限もありますし、これは突き詰めていく課題の一つです」

「なるほど」直哉は頷いた。

「うまくいくといいですね」


「いえいえ、神谷さんたちが基盤を作ってくれたおかげです」

田所は小さく頭を下げた。

「本当に助かっています」

直哉は少し面食らって、「いえ」とだけ返した。


ギルドの外に出ると、列はさらに伸びていた。

冒険者風の男、荷物を抱えた商人、子どもの手を引いた女性。

それぞれが店の中を覗き込み、何を買おうか値踏みしている。

どこの国でも、見慣れない店というのは人を引き寄せるものらしい。


4人で片手間に売ってた頃とは、スケールがまるで違う。


直哉はそのまま何も言わずに、賑わいを横目に歩き出した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ