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現代ダンジョン奮闘記  作者: だっち
新世界

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第100話 公表と交渉

是非、ブックマークか評価を。

私にガソリンをください!!

藤堂道場の門をくぐるのは、もう何度目になるだろう。


入り口に差し掛かったとき、先に気配を察したのか、引き戸がガラリと開いて武虎が顔を出した。

「よう、神谷。待ってたぜ」


いつも通りの仏頂面だが、どことなく落ち着かない様子が滲んでいる。

武虎がそういう顔をするのは珍しい。


「緊張してるのか?」

「してねえ」

即答だったが、返すのがちょっと早すぎた。

俺は笑いを噛み殺しながら靴を脱いだ。

武虎は気づいているだろうが、突っ込んでこない。それがまたらしい。


「とりあえず、親父にはざっくりとは話しておいた。

だいぶ戸惑ってるけど、なんとかする方向で動いてくれるみたいだ」

「そっか。助かる」


「よし、んじゃ行こうぜ」

武虎は道場のほうではなく、廊下の奥へと歩き出した。

普段は稽古の前後にしか足を踏み入れたことのない場所だ。

本宅のほうへ通されるのは初めてだった。


廊下を進むと、木の香りが漂う落ち着いた客間に案内された。

座布団が4枚、向かい合わせに並んでいる。

床の間には掛け軸と、小ぶりな盆栽が一鉢。

生活感と品格がちょうどいい塩梅で同居した空間だった。

正直、少し緊張する。


しばらく待つと、引き戸が静かに開いた。


武虎の父親——藤堂柳太郎が入ってきた。

長年の修練で培われた、無駄のない佇まい。

探索者としての目線で見れば、只者ではないとすぐにわかる。

会うたびに、そう思う。


「やあ、神谷君。武虎から話は聞いているよ」

穏やかな声だった。

向かいの座布団に腰を下ろしながら、柳太郎は俺をまっすぐ見た。


「ちょっと信じがたい話ではあるが、君や武虎が嘘をつく理由もない。きっと本当なのだろう」

「はい、もちろんです」

俺はできるだけ背筋を伸ばして答えた。


「それで、詳しく話を聞かせてもらってよいか?」

「——それは、私からご説明いたします」

声は俺の口から発せられたわけではない。

空間に、静かにそれは響いた。


柳太郎の眉がかすかに動いた。

「なんだ、どこからともなく声が……」


『私はイチカ。

いわゆる、異世界製のサポートユニットです』


武虎が横から補足した。

「親父、不思議なことにこいつは神谷の体の中にいるんだ。

マジックアイテムみたいなもんなんだってさ」

「体の中に……」

柳太郎は一瞬言葉を止め、それからゆっくり息を吐いた。

動揺を整理するような間だった。


「続けてください」


イチカはそこから順を追って説明した。


自分がどういう存在であるか。

異世界アル・テラス大陸で魔導士エルド・フェルミナによって開発されたサポートユニットであること。

長らく封印された状態で異世界の骨董品屋に存在していたこと。

直哉が偶然それに触れたことで起動し、以来ずっと彼の体内に宿って行動をともにしていること。

そしてある時点から転移門(ゲート)——異世界と地球を繋ぐ経路——を開く能力が使えるようになったこと。


柳太郎は途中で何度か小さく頷いたが、口を挟まずに最後まで聞いた。


「なるほど」

ひと呼吸おいてから、柳太郎は静かに言った。

「まさか、そのようなことが。

武虎から聞いたときは、さすがに面食らったよ」


「驚かせてしまってすみません」

「いや、謝ることはない。

むしろ話してくれてありがとう、というべきだろうな」


柳太郎は腕を組んで少し考えるそぶりを見せてから、俺に視線を戻した。

「それで——これからどうしたいのだ?」


俺はちょっと考えた。

正直に言えば、まだ全部が固まっているわけじゃない。

「うーん、それがよくわかりません。

異世界で冒険したいとは思っています。

ただ、異世界で手に入れたものをこっちに持ってきたいとも思っていて、その過程で僕が異世界に行けることがバレるかもしれません。

変にバレてしまうと不都合が出るかもしれないので、コントロールできるときに自分から明かしたほうがいいと思ったんです」


「ふむ」

柳太郎の目が細くなった。

戦略的に考えている、というより、目の前の十七歳がどんな人間かを測っているような目だった。

緊張する。でも、視線を逸らしたくない気持ちがあった。


「それで——異世界には何人ぐらい連れていけるのだ?」

『8名連れていくことができます。正確には800キロほどです。

1キロ転移させるのに1魔素が必要です。また転移者は直哉と接触している必要があります』


「800キロか」

柳太郎はしばらく宙を見た。


「国に伝えれば、おそらく調査員を連れて行ってほしい、となるだろう。それはどうだ?」

「頻繁にだと困りますけど、時々なら全然大丈夫です」


「それは助かる。

向こうも無茶は言わないと思うが、念のため伝えておこう」


柳太郎は少し前のめりになった。

「逆に、国にやってほしいことはないのか?」


俺は少し迷った。今の時点では、とくに何も思い浮かばなかった。

「特にこれといったものは……あ、でもヤスは何かあるかも」


「ヤス?」

「幼馴染です。いろんなもの作ってる奴で、たぶん俺より頭が回るので」


柳太郎はおかしそうに目元を緩めた。

「わかった。まずは来週に役人との打ち合わせを打診しよう。

それまでに要望をまとめておいてもらえるか?」


「はい、わかりました」

ひとしきり話し終えると、柳太郎は「ゆっくりしていきなさい」と言ってそっと席を外した。


客間に俺と武虎だけが残った。

武虎は立ち上がって軽く肩を回した。

「せっかく来たんだ。道場で一本やるか」


「そのつもりで来た」

「だろうな」

武虎はかすかに口角を上げて、先に廊下へ出た。


道場に入ると、張り詰めた空気がすっと入れ替わった。

交渉の場から稽古場へ。

こっちのほうが俺には馴染む。


武虎は肩を回しながら構えを取った。

「よし、んじゃ今日も俺が勝つぜ」

「言ってろ。今日からはイチカありで行かせてもらうぜ」


それからしばらく、2人は無言で汗を流した。

言葉はいらなかった。

お互いの呼吸を確かめながら、打って、さばいて、また打つ。

武虎の動きには迷いがなく、俺の動きも少しずつキレが上がっていく。

国とどうのこうのという話は、この瞬間は吹き飛んでいた。


* * *


夜、スマホに着信が入った。

ディスプレイを見ると「武虎」の文字。

出ると、すでに複数人の声が聞こえてきた。

グループ通話だった。

武虎、真弓、陽平、そしてヤスの声。


「おう、今大丈夫か?」


武虎が確認するように言った。

「来週、役人と打ち合わせになりそうだ。

それまでに国への要望をまとめなきゃいけなくてな。

何かあるか?」


しばらく沈黙があった。

5人が同時に考えている沈黙は、不思議と落ち着く。


最初に口を開いたのはヤスだった。

「遂に、ですね。

拙者、1点ほど考えておりましたぞ」


「なに?」

「役人が異世界から入手した技術を特許に登録した場合、その使用権を我々にいただく、というのはどうでしょうか。

タダで情報を渡すのも少々もったいない気がしますぞ」

通話の向こうがしばらく静かになった。

みんなが考えている間だった。


陽平が返す。

「確かにそれはありだね。技術は向こうが管理するにしても、使う権利だけでも持っておいたほうがいい」

「弁護士に確認」

真弓が短く言った。

それだけで意見が一致した。


結局その夜の話し合いは、それひとつにまとまった。

異世界から持ち帰った技術や知識を国が特許として登録した場合、その使用権を俺たちに認めてもらう。

それが条件だ。


シンプルだが筋は通っている。

無茶な要求でもないし、国側も受け入れやすいはずだ。

ヤスの提案はいつもそういう形をしている。

大げさじゃなく、でも確実に実になるやつ。

俺1人では絶対に出てこない発想だ。


通話を切って、スマホを置いた。

俺は天井を見上げた。


「異世界、か」


数日前まで普通に学校に通っていた気がする。

今夜は道場で一本やって、国への要望を考えて、5人で通話して。

なんか、すごいことになってきた。


怖いとか不安とかよりも、面白いという気持ちの方が勝っている。

それが今の自分の正直なところだと思った。

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