アフターストーリー 18
このまま、離れても良いのかと二の足を踏んでいたら
「うむ、メイドの負けじゃな」
唐突なジャッジにメイドのやつが
「え”!?」
驚いた声を出し渇いた笑い声を出しながらお義父様を薄眼で眺めている。
「こやつは誰かに撫でられても暴れないように教育しておる、じゃが、好きな相手が離れて行くのが我慢できなかったのか、目線と鼻先が娘ちゃんにずっと向けられておる、それが証拠じゃよ」
確かに、お義父様の言う通りね、ずっと今も目が此方に向けられているわね。
「そ、そんな!?」
メイドが驚き後ろに下がると馬の鼻先が此方に向けられ袖に噛みついてくる
「うむ、傍にいて欲しいようじゃな、すまんが少しばかり相手をしてやってあげてくれ」
甘えん坊の相手には慣れているので
「しょうがないわね」
快く引き受け、馬に近寄って鼻先を撫でてあげると嬉しいのか顔を上下に小さく揺らし始める
「うむ。こやつが甘えた相手はわしが知る中では、これで二人目じゃな」
何も言い返せないのかメイドのやつは口を閉じて営業スマイルで少し距離を取る
いや違うわね、近寄ってきたお義父様を警戒してるわね。
距離を離されたことに何も感じていないのか、それが当たり前すぎたのか、お義父様もメイドの行動に何も言わないのよね。
二人の独特な空気感を感じていると早く撫でろという意志が込められた重みが背中から伝わってくるので鼻先を撫でていると
「お待たせして申し訳ありません!」
太い足音が聞こえてくるとアロハシャツの男性が近づいてくる
どうやら、お義父様と別行動をとられていたのかお義父様がやってきた方向とは違う方からやってきたので
「準備は終わりましたか?」
これから先の小さな旅、その準備が終わったのか確認すると
「はい、良き時間を過ごさせていただきました、息子や娘がこの街でどう働いているのか見ることが出来、父としては」
最後の言葉が震え喉が絞まったのか言葉が途切れてしまった。
この人もきっと、悪い人じゃないのね。
姫ちゃんはお父様の事は嫌いだっていっていたけれど、憎んではいなかった。
ぶっきらぼうに突き放すような事をよく言うけれど、内心、心配もしている様子だった。
言葉には出さなかったけれど、態度でわかっていたのよね。
実家に結構な金額を寄付として実家の方で管理されている鉱石を高値で仕入れていたものね。
言葉の続きを待っていると一筋の涙が頬を伝っていくので
「貴方の人生はこれから先も輝いております、涙をお吹きください」
ポケットからハンカチを取り出して渡すと膝をつく様に折り曲げ号泣されてしまった。
大の大人がこうも感情を曝け出させてしまったことに焦ってしまう。
やらかしたかしら?っとお義父様を見ると困った顔をしていてメイドのやつは地雷踏んだわこいつって鋭い視線を送ってくるじゃない!
…何かを踏みぬいたのならしょうがない。
腰を落とし泣き崩れている姫ちゃんのお父様の肩をあやす様に叩いていると背中が引っ張られる?後ろを振り返ると馬の鼻先が此方に向けられており、撫でろっと視線が訴えかけてくる…
仕方なしに腕を伸ばして馬の鼻筋を撫でながら泣き崩れている男性の肩を叩き続ける
…何の時間よこれぇ
どうしたらいいのか、どうしてこうなったのか、困惑していると
『貴女、ほんっと、そういうとこあるわよね』
もう一人の私が呆れた声でこの状況を笑うように突き刺してくる!
っく!こいつはこいつで!なんかわかってる様な空気を出してくるじゃないの!
『どうして気が付かないのかしらね、恋の伝道師さんは、貴女はね、私達に似ていることをお忘れかしら?』
似ている?
『そうよ、姫ちゃんのお母様っということは私の妹、つまりは目の前で泣き崩れている男が亡くしてしまった妻に似てるってことよ…胸以外はね』
あ!ぁ、ああ~…そ、そうよ、ねぇ~…
彼女の助言によって自分がどんな地雷を踏みぬいて爆発させてしまったのか理解してしまった。
己の失態が何か、踏みぬいた地雷が何か、理解することが出来たけど!
だとしてもよー、そっけない態度なんて出来るわけないじゃない!
『それもそうよね、だから何れこうなることは目に見えていたわよ、注意何てしようがないもの』
ごもっともなご意見ありがとうね…
言われて思い出したわね、始まりは私が姫ちゃんのお母様に似ていたから…だったのよね。
こうなってしまったのは仕方がない、こうさせてしまったのなら責任を取る。
姫ちゃんのお父様が落ち着くまで寄り添ってあげましょう…いえ、一人だけじゃないわね、もう一頭も満足するまで寄り添ってあげるわよ!
明日、腕があがらなくなるという覚悟を決めて
一人と一頭が満足するまで両腕を動かし続けた
「それじゃぁ娘ちゃんいってくるからの!スピカには明日、戻ってくると伝えておいてくれ」
「お見苦しい所をお見せしてしまってお恥ずかしい限りです」
「聖母様、この御恩は必ず!」
三者三葉の言葉を受け止めるが、せめて同時に言わないでほしかったわねっという言葉を飲み込む
彼らの言葉を置いていくように馬車が動き出し大きな門を潜り…昔ではありえない光景、馬車が死の大地へと進んでいく
大きな門が開かれたその先は…とても広大で何処までも青く澄み渡る空が出迎えてくれていた。
あの時代と違い門を開くだけで心を閉ざしてしまいたくなるような殺意を感じない、あの時代と違って今の時代では、この大地にはもう白き獣は一匹一頭…何処にも見当たらない。
何処を歩いても、そう、平原だろうが森の中だろうが、今はもう完全に埋め潰した沼地だったエリアであろうと、何処を歩こうが安全
死の獣は一つも生息していない大地となった。
ただ、年月が経とうが野生の獣も見当たらない、いえ、空を飛べる鳥くらいなら観測したことがあるっていってもねほんっと時折よ?それもね、長くは居ないの、羽を休めに下りているくらいで直ぐに死の大地から旅立っていく
理由は単純よね、この大地には野生の獣が食べれる様な木の実などが一切ない
野生の獣が生きれる場所では、ないのでしょうね。
この死の大地を生命溢れる大地へと生まれ変わらせる…それが今の私達が…いいえ、この街の目標、その一つとなっている。
手始めに門から少し逸れた場所では色々な作物を既に育てようと奮闘しているところよ、気候の問題なのか道のりは遠そうなのよね。
一筋縄ではいかない、獣が居なくなったとしても…
視界の端へと消えていくように小さくなっていく馬車の後姿を見ているだけで、震えてしまう。
死の大地と呼ばれていた時代では、馬が門の先を一歩でも前に進めば殺気に晒され発狂失禁し倒れてしまっていた、今はもうその逸話なんて幻のように馬車が進んでいく
「いくら安全になった大地とは言え見送るときくらい澄ました顔していないで手でも振ってあげても良いのでは?薄情な方ですね~」
此方の気も知らないで挑発してくる年増に表情一つ変えず告げる
「五月蠅いわね年増、腕がもうあがらないのよ」
恥もへったくれも無く曝け出してやるわよ!己の老体っぷりをね!少しはいたわれってーの!!
「ぁぁ~…婆ですねぇ…見た目がお若いから忘れてしまいがちですけど~、そうでした、いつ埋葬されてもおかしくないご年齢でしたね」
事実だから何も言い返せない!
両腕をお腹の前に揃え、笑顔で見送り続けることしか出来ないので、彼らが振り返っても見えてもいいように笑顔で門が閉まるのを待ち続ける
せめて、それくらいは、しないとね…薄情すぎるものね。
─ 整った道とは違い僅かに揺れる馬車の中
「想像していたのと違い、快適ですねー!いやー!人生で一番、馬を走らせていて楽しいですよ!こんなにも心地よい風なんて初めてでございます!」
心地よい風が入って来るじゃろうと窓を開けていると従者の楽しそうな声が風と足音と共に流れ込んでくる。
行きとは違い過ぎる声色に何か変化があったのかと察する。
あの街は、激的に人を変えてしまう何かがあるのかもしれぬな
今にも歌い出してしまいそうなほどに浮かれ上機嫌な声に応えてやらんとな
「昔と違ってな、ここにはもう脅威が無いからの~思う存分、楽しむがよいぞ」
とはいったが、わしの心には、ここがどれ程までに危険なのかしっかりと刻み込まれておる、帯刀せずに足を踏み込むのは未だに馴れぬ。
念のためにな、娘ちゃんが動けない間に、荷台に剣と槍を括りつけておいたが…無用の長物となるじゃろうな。いいんじゃ、これはわしの心を安定させる薬みたいなもんじゃ。
ここが死の大地であれば、馬車の中とはいえど心臓が小さく波打ち気配を消せと警告を出してくる。
でも、気配を消したところで、今となっては何も感じない。
この大地に初めて立った時に息子がどれ程の苦難を浴びせられたのか嫌でも理解してしもうたからの~
この大地は人を憎み過ぎておる
地面からも空からも…当然、大地の上に立つ全ての獣が人を殺そうと殺気が溢れておった。
娘ちゃんもそうじゃが、戦う術が無い者たちが心を固めてこの大地で職務を全うし続けてきたことに心打たれたもんじゃわい
わしですら、この大地で長く立ち続けるのが…辛いと感じてしまったのじゃからな。
力無き者たちであれば、あのような憎悪の渦に身を投げ出す勇気なんて、普通では無理じゃ。
故に、じゃな、大昔、この場所には犯罪者を刑罰として送り続けることでしか人員を確保できんかった、ゆえに、この街には犯罪者が多かったのは致し方なかったのだと痛感させられたわい。
熾烈を極めるほどの脅威にさらされるなんぞ並大抵の胆力では耐え切れん、そんな豪胆なものが好んでこの場所で働こうとは思わん、人を確保するには、刑罰として放り込むしかこの大地を守るために必要な人員を確保出来んかったんじゃろうなぁ…
若かりし頃のわしじゃと、あのような大地、誰でも生きていけるだろう、御大層な名前だなって思ったりもしていたわい。




