アフターストーリー 13
そう、この街にいくのなら決まっている、わしも同じく果てに行く予定じゃったしな
わしが勝手に立てた予定ではの、手が空いておったらスピカに運んでもらおうかと、思うておったんじゃが、忙しそうじゃしな。
急ぐ旅でもない、馬車という乗り物も今後、乗るかどうかと言われたら乗ることはない。
なら、たまの休み、馬車に乗っての旅、っというのも悪く無かろう
「ラアキさんも、ですか?」
驚いた顔をするだけで、嫌がってはおらんようじゃの、なら、構わんっと言うことじゃな。
「なに、わしも、果てに行こうと思っておった、久しく馬車に揺られることも無かったのでな、昔ばなしに花を咲かせたいと思うておる」
「では、我ら男だけ、華は無く、されど我らは潤いを求めておらず、そんな旅も良いというもの、共に楽しましょう」
ん?何じゃ?憑き物でも落ちたのか、晴れやかな顔をしおってからに
まさか、あの僅かな一時でか?あの短い時間でこやつの憑き物が祓われたというのか?
同じようなやり取りをずっと続けていただけのような気がするが?
だとしたら娘ちゃんは聖母と言われても否定はできんのぅ、わしがそう呼ぶと怒るから呼ばんがな。
二人の予定が決まると、娘ちゃんが小さく笑ってから
「それでは、食料を多めに用意したほうがいいわね、お義父様は食べれないものって無かったわよね?」
今から食料をひとり分増やすのは手間じゃろうて
「よいよい、水があればそれでいいわい、後はそうじゃの…久しく食うてないあの不味い丸薬があればいいわい」
あの大地に足をおろすのであれば、あれを食うのが道理であろう?
不味い飯を所望されると思っていなかったのか、目を幾ばくか見開き
「これまた…あれはもう製造しておりませんよ?」
困った声で娘ちゃんから注意を受けてしまう、無論知っておるよ、死の大地で獣と戦うことが無くなり、死の大地でも火を起こしても問題なく、臭いのある物を食べたとしても問題なくなったから必要性が消えたのじゃとな。
じゃがの?わしは知っとるぞ?
「しとるじゃろ?しっとるぞい、スピカに持たせておるじゃろ?」
孫が持ち歩いておる、そのことを知らないわしではないわ
「あの子ったら…わかりました、スピカの分をお分けしますね」
物好きねぇっと小さな呟きが聞こえてきたが、アレが無いとこの街に、いや違うの。
あの大地に足を踏み入れた気がせんのじゃよ
「従者の方が仰っておられましたけど、もうすぐにでも出立されるのでしょう?もう!お義父様はいつも思い付きよね!急いで用意してきますので門の前で準備が終わるまでお待ちくださいね?」
娘ちゃんが回れ右をしようとするのじゃが、この街には便利なものがあるじゃろ?それを用いれば時間の短縮に繋がるじゃろ
どーせ、騎士部隊の奴らは暇しとるじゃろ?こきつこうたらええんじゃ。
「転送の陣はどうなっとるんじゃ?」
回れ右をするのをやめ、向けてきた表情をみて、これは失敗したなと直ぐに理解する
困ったような顔をして手招きをするので意を決して顔を近づけると
「アレはもうありませんよ」
物凄い圧を込められてしまう。
こやつもまた、わしのとこと同じく肝っ玉が座ってきたということかの、こわいこわい
「アレの存在は口外しないでくださいって言いましたよね?」
圧を込めたきつめに言われてしまう。
彼女に睨まれると言うことはの、大貴族に睨まれた小貴族の如くっというわけじゃ、身を震わせ額を地面につけ許しを請う、そうするのがお決まりなのじゃろうがな。
わしの悲しいサガじゃのぅ、そんなことよりも、娘ちゃんは良い年齢じゃというのに男心をくすぐる香り、それと、魅惑のボディ…そっちの方ばかり気を取られてしまったわい
「おお、そうじゃったそうじゃった、忘れてたわい」
鼻の下を伸ばさないように気をつけながら一歩、二歩と後ろに下がる。
このまま近くにいるとわしの腕が勝手に動きかねない…おほん。
嫌われかねない行動をしてしまいそうになるので早々に距離をとり平謝りをすると
「お願いしますよ?」
笑顔で首を傾げてくるが目は笑っていなかった。
あの顔をする妻に何度、煮え湯を飲まされたのか数えきれんからの、こわいこわい。
そうじゃったそうじゃったー、うっかり忘れておったわい。
あの魔道具は利便性が高くてわしの家に設置しておきたいと思うておったからくれまいかと相談したんじゃったな。
当然、答えはNOじゃったわい
理由を聞いて納得したわ
この街に災厄をもたらした魔道具っということで多くの者があの魔道具を嫌っておるっという理由でな。
あれから、7年も経つというのに未だに人の心に刻み込まれた爪痕は簡単には消えてくれんものなのだな、あの陣を果てにセットすれば皆が気軽に赴けるというのに…
「では、準備してきますので失礼しますね」
小さくお辞儀をしたあと、長いスカートが風で持ちあがらない程度に小走りで去っていく。
うむ、情品があり気品が溢れておる、それに安産型じゃ、良い女じゃのう
「…」
走り去っていくあの後ろ姿に見惚れているのはわしだけじゃないっということかの?
綺麗な後姿を眺め続けている、枯れ果てたと思うていた風船を突く
「綺麗じゃろ?」
お主もまだまだ若いのーっと肘でふくよかな脇腹を突いてやると照れた顔ではなく困った顔をしている。
「はい、とてもお綺麗です、ですが、あの顔、わたし…俺はあの顔に逆らえませんよ、妻に似すぎている」
返ってきた反応が想像していたものと違い、言葉の意味によってこやつが…どう感じていたのか一連の流れに納得がいった。
妻に…ああ、そうか、そうじゃったな、今になって気が付いたわい
わしが最後に見たのはまだまだ幼い頃じゃったから結びつかんかったが
あの幼子が成長したら確かにの、娘ちゃんに似てそうじゃな
っというか、姫ちゃんが娘ちゃんの事を母と慕うのは似ておったからでもあったな、完全に忘れておった。
忘れていた理由も姫ちゃんと娘ちゃんが二人でいる時は親子というよりも歳の離れた友人のような雰囲気じゃったから…ついな。
「娘同様、気が強かったのか?」
「そうですね、彼女は…長い話になります道すがら昔話を語らせていただいても?」
憑き物が落ちてから口が良く滑るのぅ?
お主もずっと、この大地に魂を引っ張られ続けていたのかもしれないの
お互い、難しい子を育てたもんじゃな
のう、シヨウ…お主も月の裏側で今も獣共と戦っておるのか?
月の裏側?…あ!いかん!流石にな!この街に来たのならまずはそちらに赴いて挨拶せんとな!
「っとと、そうじゃった、寄っておきたい場所がある、お主は先に門でまっておれ、話は馬車の中で聞かせてくれ」
「寄る場所?まだ、案内されていない場所となりますと…ぁ、失礼しました、先で待っております、時間は気にすることなく対話をしてきてくださいませ」
軽く頭を下げ眩しい光をわしに当ててからスマートな動きで従者と共に門へと歩いていく後ろ姿が心なしか…重さが減ったように見えた。
では、わしも…挨拶にいくとするかの
戦友たちに…
何年も変わらない墓前へと近づいていくと石碑の状態がよく見えてくる。
誰かが管理しているのか石碑には、汚れ一つ見当たらなかった。
「変わらんのぅ、いや、変わってはいけない場所だなここは、ここだけは」
街から少しだけ離れた場所にある、昔から、ずっと、この場所にある
石碑
石碑には、この街で死んだ多くの人達の名前が刻まれている
わしが面倒を見た事のある貴族の名前も刻まれている。
刻まれた名前、多くの名前の中に、わしが懇意にしていた者の名前が刻まれており、滑るように文字を読んでいた目が留まり、自然と、友の名前を呼んでしまう。
今もそこにいるような気がして。
「カジカ」
あやつもほんに、好き者だったのぅ。
また、夜の店に肩を並べて遊びにいきたかったのぅ
息子の愛弟子の一人、シヨウのやつがカジカを指導する上に当たって悩みがあるたびに文を寄こしおって…
カジカのおかげでわしの息子はより一つ、高みへと登れたことじゃろうな
惜しむらくは、弟子を見て己の枷をもっと外してほしかったものじゃ、さすれば、娘ちゃんも…
いや、やめておこう。これ以上は良くないの、引っ張られてしまう。
「マリン」
初めてみた時は男だと思って悪かったの。
出会ってから、何度も何度もわしに勝とうと挑戦してくるのはいいんじゃが、負けを認めようとしない負けず嫌いじゃったのぅ
また、あやつの作る料理を食べたかったのぅ、また、お前と遊びたかったな。
「オリン…いや、タイト」
わしが守れなかった王の血筋
この街へと逃がすために姫ちゃんとこいつを繋いでやった、関わると決めたからには責任をもって、姫ちゃんと共にあれやこれやと動いたのが懐かしいわい。
この街に来た時に、遠目であやつの姿を何度も見て胸が締め付けられた
あんなにも綺麗な顔をするようになったのだとな…
また、あやつの演奏を聴きたいのぅ、お前の娘も何かあればわしが守ってやるからな
…いや、スピカがおるから寧ろ、わしはお邪魔じゃな!
「アルケー」
お主とカジカの子は元気に育っておるぞ
王家を守る剣としてな…いずれ、スピカを守る剣になるのじゃろうが
あやつの方がの、遥かに強いから困ったものじゃがな、我が孫ながら強すぎておっかないわい
だからの、安心してカジカと共に…いや、わしの息子が輝いていたあの時代を駆け抜けた者達と共に、始祖様のお力になるんじゃぞ
「セレグ」
医療の父…ったく、わしよりも先に旅立ちおって
同じ老骨組として、シヨウと共に生きた数少ない者として
長生きしてほしかったわい…最後は勇ましくこの街を代表する戦士として見事な働きじゃったぞ
お前は立派な救い手だったぞ
大切な仲間達との挨拶と別れを続けていく
この石碑には、多くの戦士達の名前が刻まれている
古くはシヨウがいた時代から刻まれ続けている
だというのに…
彼女たちの名前は刻まれていない
「まだ、希望を感じておるのじゃな」
幾ばくかの間、そこにはいないとわかっていても
友たちとの会話を続けていく…




