アフターストーリー 9
此度の反省を自分なりに見つめ返していると窓から覗かせてくれる景色の雰囲気が畑や農場ではなくなっていき、徐々に、今もなお色褪せることなくわしの胸に焦げ付く様に焼け付いている懐かしい景色へと変わっていく。
そろそろ、馬車が止まるころあいじゃな。
予想通り、街の入り口で馬車が止まり窓が開かれ従者からお知らせの言葉が冷たい風と共に流れ込んでくる。
「ここから先は」
徒歩で向かいますよっというわかりきっている従者の言葉を遮り
「わかっとる、ここからの大通りは馬車の乗り入れを禁じとるからの」
ほれ下りるぞ、っと、この馬車の持ち主に合図を送ると一瞬だけ躊躇いおった?
こやつ…歩くのが嫌じゃから太っておるのでは?
「街のルールを守れ、貴族と言えどな」
椅子に座り立ち上がろうとしない怠惰な膝っかしらを叩くと「っは!」背筋を伸ばして返事を返してくる
その仕草から伝わってくる、喉を乾かしてしまいそうな程の緊張感。
何を緊張しとるんじゃこいつは?歩くのが嫌ではなく、この街に入ることに緊張しておるのか?
それ程までに、その服装で出歩くのが嫌だったのか?
古き貴族としての礼装はこやつの心の拠り所だったのかもしれない
失敗したかもしれんのぅっと自身の顎先を指先で撫でていると
馬車の扉が開かれたので、幾ばくかの気まずい雰囲気から逃げるように、先に下りると…冷たい空気が鼻や喉を通り過ぎていき、内側からも冷やそうとしてくる。
アロハシャツの下に寒さ対策の服を着といてよかったわい
歩いていないと肌寒く感じてしまう風を外からも内側からも感じていると、漸く下りてきた恰幅が良くわしと同じアロハシャツを着たおっさんが悲しそうな顔で周囲を見回している
その顔で勘違いしていることに気が付いてしまう。
着ている服ではなく、そう、この大地に立つというのが…辛かったのだろう。
その気持ちもわからんでもない
この街には、悲しい記憶が刻まれ過ぎておるからな
わしとて、それは同じだ…
この大地に立つと、愛する友や、家族たちの顔ばかり浮かんできてしまう。
おっさん、いや、老骨二人が吹き下ろされる風によって心も冷たくなってしまっていた。
心も体も震えそうになっていると
「では、馬車を所定の場所に」
擦れた声で従者がお辞儀をしてから馬を走らせていく。
大通りは馬車や車の通行は禁止しとる、じゃが、大通りから外れた場所であれば通っても良いことになっておるからの
馬車が遠ざかっていくのを見送り、二人だけになり、悲しくうつむいたまま動かない人物を見て思うところが出来てしまい、どうするか、自分の予定があっても二の足を踏んでしまっていた。
街についたはいいが
「お主はどうする?」
「…少し」
俯いたまま悲し気な表情をされてしまってはほおっておけない気分がゆらりと顔を出してくる。
道中、僅かとは言え連れ添ったのじゃから多少は気を利かせてやるべきじゃろうか?
しかしの~…こやつはこの場に居たいのか、先に進む勇気がないのか…
う~む、その何方かといったところかの?
動こうともしない人物を見て放置してはいけないんじゃないの?っという顔が頭の中でチラついてくる。
ふむ、このまま縮こまったこやつを放置するのも、姫ちゃんに悪い気がしてきたの。
うむ、そうであれば、大人として最低限、付き合うてやるとするかの。
そもそもじゃ、わしがこの街に到着する予定の時刻よりもかなり早くに到着したからの、時間もある。
急ぐ旅でもあるまい、な。
「よい、好きにするがいい、ここまで連れてきてもらったからの、それくらい待っててやるわい」
速く到着したからといって忙しい娘ちゃんの予定を考えずに自己主張激しく会いに行くのも違うじゃろ~しな、これ以上娘ちゃんに嫌われたくないからの。
うむうむ、娘ちゃんも仕事がある、仕事の邪魔をするのはよくない、そうじゃとも。
予定よりも早くに顔を出すとな迷惑をかけてしまう、そうなるとじゃ、娘ちゃんが時折見せる鋭い視線が此方に向けられるのは必定となる!…あれはの、老骨には堪えるんじゃよ。
縮こまっている馬鹿が再起するまで、この街の玄関口…周囲を見回していく。
懐かしい風景じゃ、ここは何も変わらんのぅ。
とは、いっても何度も何度も訪れているわけじゃないからの、正直に言えば昔と今で何か変化が起きていても何もわからんわい。
わしの人生、ここに来る用事が特に無かったっというのもあるからの…
息子が生きてるときは、親が顔を出すなんて恥ずかしゅうて出来るわけもなく
息子が旅立ってからは、色々な事件が立て続けに起きて王都から、いや、王城から離れることが出来んかったからの、不穏な一味が次の王を己が祀り上げたい人物以外を殺そうと動いておったからな。
王を守る者として離れることが出来んかったわい。
孫がこの街に来てからは、姫ちゃんのお願いとして渡された仕事が忙しくてそれどころじゃなかったわい。
全て落ち着いたころには、姫ちゃんも孫ちゃんも立派に育ったからのぅ、会いに行かんくてもわしの屋敷に姫ちゃんはたまに顔を出してくれたりする、それに、仕事で顔を会すことがあったから会いに行く必要が無かった。
ときおり、何かの遊びで呼ばれ…招待されることがあったが、それくらいかの?この街に足を運んだのは…
それ以外は、緊急事態。
それくらいでしかわしはこの街に来る用事が無かった。
わしが若い頃から言われ続けておるこの街の名前…
死の街…それも変わっておる、今は違う名じゃったな。
余りかわっていないであろう玄関口で長年変わっていないその門の前で一人の男性は空を見上げ思いを耽らせ
一人の男性はずっと悲しそうな表情で地面を見つめ、時折、体を震わせていた
気がすむまで待ってやろうと気長に空を眺めていると
「お父様!?」
聞きなれない声に視線を下げると、この街に古くから用意されている隊服という特殊な素材で作られておる白い服を着た青年が此方に駆け寄ってくる
考えるまでもない、こやつの息子じゃろうな。
姫ちゃんが居た時代から何れ弟や妹が志願してくるかも、っという話を姫ちゃん本人から聞かされておったからな。目の前にいる人物が腹違いの弟じゃろうな…しかし、似てないのぅ。
「今日はどう、ど…っぷ、くくく」
敬愛する父親の姿を見て噴き出すのを堪えている。
失礼なやつじゃのぅ?笑うのなら豪快に笑ってやれ、何時まで震えているのだとな
「に、似合わぬか?」
地面を見つめ震えていたあやつが恥ずかしそうに顔を上げ目の前にいる息子に視線を合わせることが出来ないのか、ずっと彷徨わせておる。お主は初心な乙女か!しゃきっとせい!ったく。
「いえ!似合っていますよ!僕の中にあるお父様のイメージが違い過ぎて、驚いてしまいました」
姫ちゃんとは似ておらず、系統も違う、けれども、綺麗な笑顔をしている青年をぼんやりと眺めていると、青年と目があい軽く会釈をされ目が大きく開かれていく
うむ、姫ちゃんとは似てないのう、じゃが、綺麗な顔立ちをしておるのぅ、母親に似たんじゃろうな。
「あちらの方は…!!ぜ、ぜんけ」「ラアキだ」
驚いたまま大きな声で名前を呼ばれる前に割り込む様に名を告げると、姫ちゃんの弟めが膝を地面に着こうとするのを先んじて手で制止させると
「ん、さ、ま?…えっと、これは?」
思いもよらない言葉に困惑し父上の顔を覗き込み指示を求めている様子がうかがえる。
こやつもまた、何処にでもいる縦社会…
ふむ、わしのイメージとは違ったのぅ、こやつめ姫ちゃんを放り出したくせに教育熱心だったのだな。
相手を建てるという基本が出来ているのに外に出したと言うことは後継としては何かしらの理由がって認めれんかったのか?器量も良さそうだというのに自の領地で何かしらの仕事を用意してやれんかったのか?
そこまで貧しい領地では無かろうに…他の家に口を出すつもりはないが、貴族というモノは薄情で非情じゃからのぅ。
実の息子に薄情なこやつの心情が理解できんなっと二人の様子を眺め続ける。
「そういうことだ、お前もわかるだろう?」
父の一言でわしが違う名前を名乗ったのがどういう意味なのか、関係性の薄いわしらが隣り合っているというこの状況を理解したのか
「…ぁ、はい!では、ラアキさん、ようこそおいで下さいました、何もおもてなしは出来ませんがごゆっくりと気の向くままに!ご滞在なさってください」
丁寧に、何処にでもいる貴族ではない旅人を迎えるように軽くお辞儀をしてから、笑顔で顔を上げ精一杯、されど全力で大きく両腕を広げ
「この街は希望に包まれています!貴方のしたいこと、なさりたいこと、その全てをこの街は受け止めます、この街こそ困窮した人たちが救いを求め命を振り絞り歩を進め!何れ辿り着く理想郷!我らを導く救世のお子を育てた女王が統治し、ありとあらゆる大陸に名を轟かせ始めている救世主様がおられる街!あの白き獣の脅威に怯えることなく!職に困らず!食に飢えず!死という不安から解放され、共に歩めるのだという安らぎがこの街には満たされております!ようこそ!旅の方!この街は貴方を歓迎します!」
丁寧な、されど仰々しい説明をしてくれる、必死に練習したのじゃろうな。
「貴方の旅路、その果てになれることを祈っております」
最後は貴族のように綺麗なお辞儀でしめてくれる
学があり、堂々とした立ち振る舞い、うむ、社交界に出しても何も問題なく器量よしじゃの?
この様な人物を手放すのか…ここまでしっかりと育てて置いて、手元に置かんというのは、あれか?後継が強欲なのかもしれんのぅ、血を分けた弟や妹達に欠片も領地を渡すつもりがなかったか?貴族であればそういうのもあるからの。
「ふむ、そうさせてもらうよ、説明感謝する」
よそ様の家に口を出すつもり何ぞ微塵もない、事なかれ主義として無難な返事を返すと
「お褒め頂き恐縮です!それで、お父様は」
青年もわしの事に触れるつもりはないみたいじゃな




