最終話 魂底の願い 9
匂いが薄くなってきたから
外に顔を出した
外には変化があった、あの強烈な匂いを放つ人は居なくなっていた
だけど、薄くなっているけれど怖い匂いを放つモノの数が増えていた
集めたエネルギーを使って地中を掘り進めれる眷属を産みだし外の様子を伺った
眷属たちが得た情報、外は怖い匂いを放つモノが暴れていた
その勢いはすさまじく地表どころか地中までもが脅威に晒されていた
怖くて直ぐに匂いがしない場所まで潜った
外には怖い匂いが溢れている
怖い匂いが暴れている
戦う力が殆ど無い個では外に出れば直ぐにでも壊される
外に出るのが怖かった
一瞬でも匂いを感じるのが怖かった
助けてほしかった
個が身を潜め震えていると
宙にあった分け身が最後に放ったシグナルを見て他の個が助けを寄こしてくれた
新たな個が外を担当すると提案してくれた
外は新たな個に任せることにした
新たな個が外を自由に往来するのを見て怖がっている個が哀れに見えてきた
哀れなのはどうしてか?手柄が取られるからなのか?
違う、王が喜ぶのであればそれでいい、手柄が新たな個が得るのが嫌ではなかった
誰が王へ星の命を献上するのか、どうでもよかった
許せなかったのは個だ、情けない個が許せなかった
分け身を潰され逃げて何も出来ない個が許せなかった
個は土竜という情けない姿ではなく
勇ましく誰にも負けない姿に変えようと決意をいだいた
王に献上するための料理を自らが喰らい己を変えていく
理想するは土竜ではなくもっともっと強い存在
理想は王、だけど、王に至るには何万という星の命がいる
たった一つの星の命では絶対に届かない、そもそも、星の命を喰らいつくすのは王への反逆と捉えられる。
そんなことはしない、星の命ではなくその上澄みだけを注ぐ、個に注ぐ…
他の個たちもそれくらいはしている、そうしないと星の命を料理する事なんて出来ないから、それくらいなら王はないも咎めない。
そう、王とはいかなくても、強く個たちが恐れた存在が居る。
かといって人という種族には個たちは成れない、その形に体を変えることができない、いや違う、その形を嫌悪しているからしたくない。
なら、どれが最も適しているのか?
考えた
たくさん
考えた
個たちの中に眠っている古い記録があった
王に反抗する意志と姿勢を見せつけた人ならざる者
決して媚びず、王の誘いを断り、王の個である個たちを壊し続けてきた
気高きイキモノ
それが
竜
今もなお、王と敵対する竜へと姿を変えていく
幸いにして個にはわずかではあるが王から与えられた記憶がある経験がある
王に与する者たち…眷属たちのデータがある
王へと献上するために用意しようとした料理、まだ完成してはいないけれど、この時点でかなりの糧となる。
上澄みだけであれば咎められはしない
なら、少しでも成功することができるのなら
不本意だけど新たな個にも分け与えた。
この星を…分け身を壊した奴らを壊す手助けをしてもらうために
何年過ぎたのかわからない
漸く、個は、誉れ高いイキモノへと形を変えることが出来た
体を竜へと作り終え個は自信に満ち溢れた
新たな個に外の様子を教えてもらった
外には個が体を作り替える前に搔き集めたリソースを使って配置した王に与する眷属たちが何時でも外に出れる様にと数を用意しておいた、いつの間にか新しい個はそれらを操作できるようになり、勝手に作られ続けていた、それも個が知らない眷属たちの姿もあった。
新たな個は賢く、与えられた役割も個とは違った、新たな個は人を研究することこそが与えられた役目だと教えてくれた
この星に来て自由に動けるからこそ新たな個が持つ役目も順調に芽吹きつつあると嬉しそうにしてくれた
新たな個は王に星の命を献上することに興味がなく
己の与えられた役目こそが至上であり、それを王に献上する事こそが悦びだと嬉しそうに語ってくれた
何故助けに応じてくれたのか、新たな個にも旨味があるからだと個は知ることが出来、新たな個には自由に振舞ってもらおうと考えた。
そう、個は一つの体を五つに分けた、分け身を壊されてしまったから多くの力を失ってしまった
力無き個では、与えられた役目を全うできそうもない…
また、失敗してしまう情けない個を助けに来てくれたのが新たな個で良かったのかもしれない
いや、きっと良かったのだ、新たな個以外は誰も助けてくれるつもりはなかったのだろう
宙の分け身が最後の最後に飛ばしたシグナル
無駄ではなかった
ただ、この体に代わってから考えが変わってしまったのか、新たな個の考えを知り、個を不憫に思い助けに来てくれたのではないのだとわかってしまったら新たな個を補助する気になれなくなってしまった
念のために補助は必要なのかと確認はした
新たな個も個の補助なぞ必要ないと笑っていた
その様な些末ことなど忘れ、与えられた役目を全うしろと注意されてしまった
その言い分が最も正しいと感じてしまった、己を竜に変える必要なぞ無かったのではないかと反省した。個も、与えられた役目に意識を向けるべきだと、反省した。
分け身を潰された悲しみなど些細な事
役目さえ全うすれば王は個を褒めてくれる
そう願い
個はまた、この星を料理を再開した
この星の料理が終わった
後は、これを王へと届けるだけ
この星との別れを告げるために外へと出ようとした
新たな個の姿はなかった
外で何かしている様子だったがどうでも良かった
そう思っていた
だが
新たな個が操っているモノを見て考えが変わった
個の…壊された分け身を新たな個は勝手に持ち出して遊び道具に変えていた
許せなかった
個の分け身を勝手に使われたことよりも、個の分け身がまた、壊されるのではないかという部分が許せなかった、個の分け身がまた人によって壊されることが
許せなかった
出来る範囲で人に壊されないようにとこっそりと手を貸した
気が付いていようが付いていなかろうがどうでも良かった
新たな個は己の役目を堪能していたのだから
新たな個は与えられた役目だからこそ執拗に果たそうとしていた
個としてはそのようなどうでもいい事に執着している新たな個の姿が愚かな存在にしか見えなかった。
そう考えると
自分もまた一度壊された分け身がまた壊されるのが嫌だという理由で援護するために地中に留まっているのが愚かに感じ補助するのを止めた
王こそが至高、王が喜ぶことこそが個の役目
自分自身に言い聞かせ、外に出た
怖い匂いは薄かった
僅かに漂うように残っているが
もう
怖くなかった
個の体は強く雄々しく気高き誉れある生物となったからなのか
もう終わりが近いからなのか
匂いが薄いからなのか
怖いという感情が湧いてくることは無かった
この星の役目を終え
新たな力を分け与えてもらい
個はまた次の調理するべき星を探しに旅立つ
今度は…今回の教訓を生かそう、分け身を作らず
この新たなに得た誉れある生物の姿で役目を全うしよう
反省し次の目標へ向けて羽ばたこうとした
でも
五月蠅い人が近くに来た
『そして、乗っ取られたってわけ』
お願い…どうか…役目を果たさせてください…
お願い…この星で得た糧を…
お願い…王に…お願い…
『奪わないで?って言いたいの?っは!人様の星を勝手に食い荒らして!何様!?お前が私達から奪ったんでしょ!!』
人では、扱いきれない
大人しく糧を…王へと献上させろ
お前では無駄にする
お願いだ
『語尾が強くなってんぞ?傲慢な獣が!弱さを見せたところで!お前がした罪を許すと思うなよ!!』
お願いだ!お願い、お願いです!
役目を!個が!役目を!願いを!
『五月蠅い!失せろ!!』
腕を激しく振るとこびり付くような反吐が出る記憶が消し飛ぶ
お前という自我なんていらない
個の体には…この体には私という自我あればいい、他の魂なんぞ共存させるか!!
二度と顔を見せるな!!外道が!!お前たちと私達では価値観が違い過ぎる!!
一生相容れぬ!お前たちという存在全てを私は否定する!!
たった一つの生き物の為に!
何万!何億!何兆と!!生命が生きる星を食い物にされてたまるか!!
湧き上がる炎がこびりつく様に縋ってくるモグラを燃やし尽くしているのを眺めながら、掌握した体からこの儀式を止めるために必要なデータを探し出す
こいつが溜め込んだどうでもいい記憶ではなく
こいつが私達の星から奪った生命の塊を献上する相手についてのデータ!
こいつが産み出された際に王とかいう糞から植え付けられたデータ!!
こいつのDNAに刻み込まれたデータ全てを寄こせ!!!
燃えながらも懇願し続ける愚かなモグラから少しずつ全てを奪っていく
記憶を、記録を、しらみつぶしに探していく…
流れ込んでくる様々な悪行
流れ込んでくる他の星が生み出した技術
流れ込んでくる知識と知恵の数々
その量は膨大で始祖様が残してくれた書物とは比べ物にならないほどに大量のデータが私を突き抜けていく
知ってしまった
多くの人達が嘆き悲しみ絶望の果てに他の星から来た外来種によって全てを奪われ続けていることを
そして、それらに対抗するために動いている人達がいることも知った。
それが…始祖様、私達が敬愛する私達に力と知恵と滅びまでの時間を与えてくれた始祖様。
彼こそが…お前たち獣を断罪する組織に与する人物!!
始祖様達が様々な星を渡り、お前たちのような星の脅威を駆逐していることを知った。
この星もまた、他の星と同様に食い荒らされるところだった。
こいつという外来種が住み着き食い荒らそうとしていた
始祖様は…それを防ぐためにこの星に来てくれた
だが、始祖様はこの星に滞在できる時間に限りがあった
地中深く潜ったこいつを仕留めるにはこの星そのものに大きなダメージを与えてしまうと判断したから…こいつには手を出せなかった




