最終話 魂底の願い 4
「いっちゃったね」
静かな音が頬を撫で、ゆっくりと車椅子の車輪が回りだす。
振り返ることなく前だけを見て、私達は…最後の会話を始める。
「見えてたの?」
「うん、見えてたし感じてたよ、綺麗な人達だったね」
「見えてたのならさー会話に参加すればよかったのに?」
「しないよ、あの人たちは姫様の知り合い、私が入って良い世界じゃない」
「気にし過ぎだよ、っま、そこが団長らしいかな」
「うん、本当に、綺麗な人達だった、そして」
「可哀相な人達だった、でしょ?」
「うん、姫様もそう感じていたんだね」
「感じないでか、彼女たちが残した歌、彼女が残した言葉だと、魂底?にある叫びっていう表現の方がいいのかな?どれもこれもが悲しい歌だったんだもん」
「魂底かぁ、だとしたら私の叫びは何だろう?」
「好きな人に愛してもらう~っじゃないの?にひひ」
「馬鹿にしてー!…間違ってない気がするから否定できない」
「ふふ、それなら、団長の願いは叶ってるでしょ」
「そうかなー?」
「私や、メイドちゃん、No2に…うん、街の人や王都の人達、その多くが団長の事を好きだって人いっぱいいるよ?願いは叶ってる、愛といういろんな形、様々な形で団長の魂は満たされてるよ」
「…うん!そうだね!私、色んな人から愛されてる!」
「自覚があるなら最高じゃん?」
「うん、最高だった、私、この星に来てよかった、最高の人生を歩めた」
「なら、良かったじゃん。地球よりも文明が劣っているけど、楽しんでくれたのなら嬉しいかな」
「最高だったよ、友達も出来たし、いっぱい、体を動かせれたし、お医者さんにも成れた、思い残すことなんて無いよ」
「良い人生だった?」
「うん!最高で最良で、完璧で…もっと、永く生きたかったな」
「うん、そこに関しては私も同意だよ、私ももっともっと長く生きたかった」
「姫様は…お姉ちゃんの魂の願いって何?」
「…私かぁ」
お母様に会いたい
それが私の命題…だった、今はもう違う気がする。
「解放…かな?」
「解放?」
獣達っという恐怖から皆を救ってあげたい
脅威から人々を解放してあげたい
不安から、恐怖から、苦痛から、悲しみから、絶望から…
その全てから解放してあげたい。
「うん、解放、皆が平和に笑って暮らせれる世界にしてあげたい」
「大きな願いだね、流石は聖女様?」
「疑問に思わないでよ、失礼だなー!私だって私利私欲で動き続けてきたわけじゃないよ?」
「えー?…そういうことにしてあげる」
「失礼なー!」
「ふふ、あは、あはははは」
綺麗な笑い声が世界を包み込むようように広がっていく
その綺麗な笑い声に私も一緒に大きな笑い声をだしてしまう
世界の果てで笑い続けて
世界中が笑顔に包まれて
私達の旅は…笑い声で終わりを告げる
「どうする?」
「真正面からいくよっていいたいけど、少し様子見してもいいかな?」
世界の終わり
旅路の果て
そう表現しても、どう表現しても、表現しきれない…
大地の果て、あいつの後ろには青空しかみえない、そんな場所に大きな大きなドラゴンが頭を下げている。
白い獣達とは違い、その皮膚は黒、全ての光すら飲み込むほどに真っ黒だった。
…私が見た時と色が違う?全体的に白が目立っていたけれど、白くないね、黒じゃん?
「他の獣と違って体が白くないんだね、真っ黒」
「…っま、色なんてどうでもいいか」
「そう、だね。一瞬だけさ、姫様の瞳の色と同じだなんて思っちゃってごめんね?あんなのと一緒にして欲しくないよね」
瞳の色?…私ってどんな色してたっけ?金色?とかじゃなかったっけ?黒じゃないはずだよ?
「黒かったっけ?違う色じゃない?」
「魔力を渡すと黒色になってたよ?あ、でも、青色も入ってるかも」
魔力の密度を極限にまであげると色が変化するってことか…そういうこともあるよね。
魔力を込めるっていうと魔石が思い浮かぶかもしれないけどさ、魔石は色が変わらない。
そもそも、魔石とかは魔力を流し込んでいるっと言うよりも、魔石という器の中に魔力が抜けださないようにしているだけなんだよね、構造的にわかりやすくいうと瓶のような役目をしているだけ
そう、瓶の中に入れた水が瓶と溶け合わないようになっているのと一緒。
魔石と魔力が混ざり合う事がない、だから、色が変化しない。
でも、人は違う、細胞と魔力は密接に絡み合っている。
細胞の全てに魔力が溶け込んでいると私は仮定している。
つまり、私の髪の色が白色なのも魔力が足りていないから魔力という色素が抜け落ちてしまっている、瞳もまた、同じ原理ってことだよね…あ、そういえば、そうじゃん!■■■くんが私に魔力を注いだ後、じっと目を見つめてきて、黒になったなって言ってた!どーして気が付かなかったんだろうね…目の前に大好きで綺麗な人が見つめてくるんだもん、心臓が高鳴りすぎててそれどころじゃなかったもん…
白ではなく黒…私と同じであればあいつは、私と戦ったときは万全な状態じゃなかったって事?それなのに私達を蹂躙したってこと?腹立つなぁ…
「ってことはさ、あいつ、全身が真っ黒に染まるほどに魔力を蓄えてるってことになるよね?」
「うん、魔力を溜め込んで何をするんだろう?」
団長の疑問、私も気にはなる。
どうして魔力を溜め込んでいるのか、私達を魔力なくとも蹂躙できる存在なのに、魔力を溜め込む必要があるのか、私にはわからない。
そもそも、私達はアイツがどんな目的をもってこの星に来たのかも知らない…
そして、始祖様はどうして、あいつ等を討伐しているのかもわからない。
あくまでも予想だけど…ただただ、人類に仇名す害あるモノを駆除しているって単純な理由…だったら正義の味方かっこいー!っで済むけどさ…
そんなわけない、あんな超常的な人がそんな理由で動くなんてありえない。
空を見つめるが何も返事は帰ってこない。
彼を消費していなければ、答えを提示してくれたかもしれない。
今わかることは、ドラゴンのやつは、魔力を集めて何かをしようとしているっと言うことだけは理解した。
魔力…途方もない魔力が必要な出来事、一つだけ心当たりがある。
過去の悍ましき経験が警鐘を鳴らしてくる
「ここで開こうとしてるのかな?」
「開く?」
魔力を集め、器に流し込み、空に巨大な瞳を浮かび上がらせた儀式
あの瞳が何か、私にはわからない
あの儀式の後に何が起きるのか想像もつかない
あれをここで発動させようとしているのだろうか?
…可能性は否定できない
「うん、過去にねちょっとあってさ」
「…ぁ!もしかして王都での?No2が生贄に捧げられた」
まさかの答えに驚き目を見開いてしまう。
そっか、忘れてた団長は私の記憶に触れたんだった
「うん、その儀式をあいつ一つで発動させようとしているのかも?」
「あれって、何が起きるのかわからない、よね?予測も推察も?」
その先に何が起きるのか、予測も考察も完璧だったら何とか出来るんだけど…
今代の私が研究していたのかわからないけれど、泥の中に眠っている瞳達もそれについては研究はしてみたけれど、情報が少なすぎて何も得られていない。
私も同じくね…だから、何が起きるのか何て未知、知る術が無い。
「ごめん、情報が少なすぎて何も掴めていない」
「そっか、いいんじゃないのかな?私達であいつを止めてしまえば…壊せば良いんでしょ?」
なんともまぁ、豪快な作戦、団長らしいじゃん。
知能の知の字ないけどさ、困ったことに私も同意かな
ぶっ壊してしまえば儀式なんて関係ない
「元よりそのつもりだよ」
「だよね?相手は…じっとしていて動こうとしていないけれど」
そう、私達が見えているのだから、向こうも私達の姿を見つけれる場所にいるのに、我関せずでじっとしている。
「なんか、その、言っても良いかな?」
「遠慮せずどうぞ~」
「会話できるのかな?」
想定外の提案に呆れてしまう
「対話?しても無駄じゃね?あいつを殺すことに変わりはないから」
「そうだけど、ほら、目的とか、どうして、とか、その…」
あー…知的好奇心?相手の目的を知ってどうするの?
「知的好奇心だけなら捨てちゃいな、和解なんて出来やしないよ、それに知ったうえで…理由がその、ほら?同情するべき内容だったら殺しあうのって辛くない?」
「それでもだよ?相手の言い分を聞いてから…彼らの生きてきた目的も背負ってあげれ、ないかな?」
お優しいこって、そんなの背負う必要ないよ、敵は敵、それでいい、理由や目的なんて知らなくていい、あいつは私達を殺す為に存在している、なら、私達もそうあるべきだ。
「わかった、どの道、奇襲なんて出来る場所でもないし、堂々と会話してみっか?無理だったら即効で決着つけるよ?」
ってわかっていても、試せれるのなら試してみたくなるのが研究者としてのダメなとこだよね。
「うん、その、私も…ドラゴンって初めて見るから!お話聞いてみたいなって!」
この土壇場だっていうのにこの子は…似た者同士だよね、私達って
まぁ、そうだよね、あんな風に大人しそうにしていたら会話できるのならしてみたいよね。
私だって、あいつに殺されてなかったら何も思わなかったよ?
方針が決まるとゆっくりと車椅子が進みだす。
優雅な貴族の散歩のように真っ黒なドラゴンへと近づいていき
此方の声が届きそうな場所でとまる
「こんにちは」
貴族のように、上品で麗しい雰囲気を纏い声を掛ける…が、ドラゴンは何一つ反応しない
「こんな場所で何をなさっているのですか?」
例え無視されようが怒ってはいけない、淑女のように相手を尊重するかのように声を掛けてみる…が、何一つ反応が返ってこない
「頭を下げ眠られていらっしゃるのですか?」
寝ているのならこのままその首圧し折ってあげるんだけど?
幾度も死を経験しているからこそ…わかる。
これ以上近づくと私達はこいつに食いちぎられる




