Fine 道の果て 15
メイドのやつ…眼球を小さく震わせるように動かしてるわね。
道中…かなり危険な橋を渡ってきたって事かしら?だとすれば、あちらの鰐が居た方はかなりの獣がうろついているってことになるわね。
「…はい」
苦しい想いをしたのか震わせるような返事に慰めてあげたくなるけれども、ここはそういうのは無しでいきましょう。
私達が知らない情報をこいつは持っている、思い出すのも辛いかもしれないけれど共有しないといけないのよ
「歯切れが悪いわね、言わなくても解るわよ、向こう側は獣が大勢いるのでしょう?」
どうやら、当たっているみたいね、大きなお目目が更に大きく開かれてるわよ。
思い出させたくないのはわかっているけれども確認しておきたいのよ
「貴女一人なら通れるのかしら?」
もし、通れる余裕があるのなら、一人一人、命がけで獣の隙間を通って塔に辿り着き修繕を開始させることが出来るかもしれない。
「甘く見ないでください、姫様の装備があって、私という技量を持ち合わせた人物でないと獣に感づかれます」
淡い期待も一瞬で砕けたわね。そうだったわ、こいつ、認識阻害の術式が編み込まれた姫ちゃん特製のロープを着てたじゃない。
「そうよね、大荷物をもっての移動何てもってのほかよね、塔の周りはどうなの?」
そんな状態でこの大所帯で荷物を持っての移動何て出来るわけもないわね…
塔の周辺はどうなっているのかしら?
「幸いにして塔を破壊するのが目的だったみたいです、塔の近くには、獣などの姿はあまりありません」
塔の破壊が目的?…一度あの塔を使用したからこそ、敵にとってあの塔が危険であると認知されていたってことになるわね。
だとしたら、術式研究所や研究塔も、危険ね…念のために地下にある大型魔石に通じるドアも封鎖しておいた方がいいかしら?
此方の主要施設破壊が目的だとしたら、塔の修理に多くの人が集まれば…獣達は集まってくるでしょうね、作業なんてさせてくれそうもないわね。
敵の数を減らしきるか、その数すらも跳ね除けるだけの数が必要よね。
「到達したとしても人が集まれば獣が集まるってことね…厄介ね、八方塞がりじゃない」
メイドのやつも同じ意見ってことね、小さく頷いて深刻な顔つきでこっちを見てくるじゃないの。
「騎士や戦士達のお姿が少ないように感じますが、病棟はどういう感じでしょう?」
その一言で頭が真っ白になる。
「病棟…」
途中、席を外してしまったから正直に言うと、何人運ばれてきてどの部署の人達なのか全然把握しきれていないのよね。
迂闊だったわね、症状を把握していればだれがどの程度で復帰できるのか計算できたじゃない
「質問した私が馬鹿でした」
鼻で笑って此方を馬鹿にしてくるってことは表情が読まれたわね!この小娘!
「研究塔の警備や警護には確か…10名から20名ほどいらっしゃったと思います」
そうよね、医療班のNo2として!しっかりと自分達を守ってくれている人の数を把握するのが当然よね。
はぁ、耳が痛いわね、長のこういうところを見習わないといけないわね…私もまだまだってことね。
「だとすると、術式研究所の方に戦士の皆様方が集まられている可能性が高そうですね」
「そうね」「恐らくは」
メイドの意見に私も長も同時に頷く、小娘もこういう部分は凄くしっかりしてるのよね。
「…一か八かですけど、私が術式研究所の方まで偵察に出ましょうか?」
って認めた傍から何言ってるのこの小娘は!?危険すぎるわよ!!
「危険よ?」「やめておいた方が」
言葉の続きを長に取られてしまい口をすぼめてしまう。
「いえ!やります!」
ってマントを羽織ろうとするんじゃないわよ!止めたでしょ!
貴女がここから離れられると困るのよ!この先を知ってて尚且つ、現状を把握している指揮官として機能しそうな人が必要なのよ!
「待ちなさい、私がいくわ」
「何もなしで行ける場所じゃないです、この魔道具があってこそ」
振りほどこうと睨みながら腕に力を込めるんじゃないわよ!この小娘!
行くのなら…戦う術を持つ人が行くべきなのよ、長も貴女も戦闘能力皆無すぎるのよ
外に出たことも無い貴女達に獣の相手は務まらない
「なら貸しなさい、貴女限定のサイズではないでしょう?」
腕を掴みながらマントを掴み引っ張る
「でも」
それでも抵抗してくるわね?貴女は!適材適所っという言葉を知らないのかしら!?
「でもじゃないのよ、私達に必要なのは何?」
賢い貴女ならわかるでしょ!?
不服そうに俯かないの!
「この先を見てきた人物が必要なのよ、貴女だけでしょ?この先がどうなっているのかその目で見たのは」
俯いて口を尖がらせるんじゃないわよ!まったくこんなところばっかり雇い主に似るんじゃないわよ。
「それにね、こういうのは慣れてるのよ、武器だって魔道具だってあるわ、多少でも戦えれる私が術式研究所に出向くのが正解なのよ」
戦略的に最も正しい事を突きつけると手の力が緩んでいく。
あと一押しね
「貴女もそう思うでしょう?」
同調圧力を得るために長にパスを出すと彼女も同意見で
「はい、今この場でフリーに動かれても問題ないのはNo2さんだと思います、ですよね?メイドさん」
しっかりと同調し圧をかけてくれる。
目を右往左往させて小さく指先が震えると
「はい」
声も小さく震わせながら頷いてくれる。
このまま、ここに置いていくとこいつ、やけっぱちになったりしないかしら?
発言しておいて今更だけど、長も、こいつも、追い込まれると本能のままに動く癖があるのよね…
姫ちゃんが催してくれたイベントで何度もそういうのを見てきたのよねぇ…
大丈夫かしら?いえ、大丈夫にするべきね!
「危険な戦場でじっとしているのが性分に合わないのはわかってるわよ、自分の技量に自身を持っていて活躍できる場を探しているのも頷けるわ、でも、正しい役割分担ってものがあるのよ」
諭すように優しく語り掛け自分の技量に自身を持ちなさいと奮起させようと試みても、通じていないのか、少々上の空…
不安だけど、時間が無いのも事実、ここは…きっと何とかなると信じて行動あるのみ!
「それじゃマント預かるわね」
手の力も緩んでいるので手早くメイドからコート、いいえ、マントを受け取り羽織ると
「はい、お気をつけて」
頼りにできる研究塔の長がしっかりと頷いてくれる。
少々心配だけど、きっと大丈夫、よね?追い込まれるような事態になんてならないわよね?
二人を残していくことに不安を感じてはいるけれども、行動を起こさない事には活路を見出せない、姫ちゃんを失う方がもっと怖い…
少しでも速く、姫ちゃんをサポートできる状況へと立て直さないといけないという母としての使命感が私を突き動かす
マントの長さの調整が終わると
「問題ありません、しっかりと視覚から貴女の姿を認識できなくなっています」
無事、マント型の魔道具が機能していることを長が教えてくれる。
力強く地面を蹴り術式研究所へと走っていく
獣が多いルートを選ばず、研究塔から北へ登っていくルートを選び息を殺しながら進んでいく
幸いにして研究塔に近づくまでは何処にも獣の姿が見当たらなかった。
研究塔の近くにまで到着すると念のために研究塔の様子を遠目で気取られないように視線を送ると、先と戦況は変わらずといった感じだった。
兎、蛙、鼠といった比較的小型の獣が押し寄せている、この状況を保つことが出来ているのも中型に分類されるそこそこ力のある獣が押し寄せていないからね。
研究塔の職員が迎撃用として用いている魔道具の殆どが術譜の類、殲滅力の高い魔道具は温存しているのでしょうね。あれなら、研究塔が押し切られる様な事は起こりえそうもないわね。
彼らなら安心して任せれると判断し、なるべくバリケードに近寄らないように気をつけながら進んでいく
もう少しで術式研究所が見える場所にまで近づくと
「そういうことね」
マントの中で小さく呟いてしまう、あれはもう近寄れない。
術式研究所の前には、戦士や騎士達がその先へと進ませないと人の肉で壁を作るように盾を構え獣を進ませないようにと獣達を抑え込んでいた
戦士や騎士達の盾や獣が邪魔で奥が見えないけれど、時折、杖が見えたりする。
盾にぶつかっている相手から少し離れた場所、土が盛り上がったり、水たまりが出来ているのを見る限り、術式班が必死に術式を使って敵の進行を遅らせようとしているのだと見て取れる。
術式研究所は研究所で、身動きが取れる状況とは思えれない。
こんな状況でこっちも人手が足りないから来て欲しい何ていえるわけもないわね。
そもそも、近寄れないじゃない。
術式研究所へと攻め込もうとしている獣は…
ぞっとするわね、中型種どころか大型種の変異種も混ざってるじゃないの。
更に、少し離れた場所に人型が何もせずじっとしている、恐らく自爆タイプ
術式研究所の中へ侵入したら速攻で自爆するために待機しているのでしょうね。
中型種が盾にぶつかって必死にこじ開けようとして、大型種が隙を見せれば直ぐにでも飛び掛かろうと喉をうならせている…
完全に獣がやる行動じゃないわね。計画性を感じるわね、誰かの指示の下動いている。
困ったわね、戻っても手詰まり、進んでも何もできない。
この状況を打破するには、何か、ひっくり返すような何かが必要…
マントに包まりながら思考を巡らせる。
少ない知識の中で何が出来るのか、姫ちゃんならどういう方法を選ぶのか…
考え込む。
一気に殲滅するのなら広域型の魔道具が手っ取り早いのよね。
っとなると、毒を散布する魔道具?ダメね…味方ごと殺すことになるからダメよね
空気をぶつける魔道具で爆弾などを飛ばす?
そうね、中身が何にするかがってところが問題ね、シャインスパークでも詰め込んで一斉に起動させる?
味方も光で貫くわね、爆弾も敵が更に集まるリスクしかないわね。
火を産みだす魔道具に油は?
危険ね、味方を巻き込むし、遠巻きにいる獣にそれをしたところで私が狙われて死ぬのよね
獣を焼き殺すなら動かないように固定しないと無理なのよ、火が付いた状態でこっちにくるわね。
出来る限り、遠距離で敵が近づいてこれない場所からの攻撃
そして、一体ずつ確実に仕留めることが出来る一撃力の高い攻撃
…そんな都合のいい魔道具なんてないわね。




