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最前線  作者: TF


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794/843

Fine 憧れ敬愛した輝きを胸に 10

魂がここにあれど、肉体に刻んだ修練の日々は忘れぬのだと思っていたが…そもそも俺が覚えている記憶とは違ったのだな。

俺の中にある生前の記憶もまた偽りだというのか…剣に人生を捧げるとは言わんが幼き頃から降り続けた剣、それすらも偽りだったというのか。


それを証明するかのように良く知った顔…生前の俺が繰り出す技はなんとも陳腐だった

地の利を理解せず

体の理を知らず

得物が持つ原理すら分からず


「そうか、俺というのはそういうモノだったか」


稚拙な動きに苦笑を浮かべ目の前にいる愚物を一刀両断する

俺の魂がここにあるのであれば、目の前にいる愚物は俺の経験だけを内包した魂の無い物質、何も無い存在に慈悲なぞ無い

そう思っていた…


だが、一刀両断した際に伝わってきた感触、伝わってきた魂の叫びが俺の心を狂わせようとする

『外道が!!』

本来なら声に出して叫びたいところだったが声に出すわけにはいかない

怒りに任せて判断を鈍らせてはいけない!感情が俺の全てを支配しようとする愚かな己の頬を叩きたくなる!

気が付かず、すまない、すまない…俺はやはり人ではない鬼だ。ゆるせ、ゆるせよ…


天へ還ろうとする声を聴いてから、思い出すなんて…

俺は、何て薄情な男なんだ…


歯を食いしばり下がると俺が前へ出てしまったせいで俺が受け持つ死者が司令官の方へと歩を進めているのが見えた

下がりつつも死者を崩し壊し多勢に無勢となっている王を補助し近くにまで来たついでに司令官に現状を報告する

「すまない、手間取った!僅かだが敵の数を減らし後退できた!先の状況を伝える」

一声かけてからサクラの指に触れ意識を重ね言葉を飛ばす

何が起きたのか、周囲の変化はどのようになっているのか、どうして俺が声を荒げてしまったのか、簡潔にまとめ伝える。


「…っは?」

サクラが怒りを覚えるのは当然だ

何せ俺が切ったのは


生前の俺、その器に強引に放り込まれたのであろう

生前の俺と共に生きてくれた女性


生前の俺が愛した女性の一人だった…


湧き上がる怒りの炎を抑えるためにも、俺が冷静にならないといけないのに、俺は冷静になっていなかった。

先の情報をありのままに伝えるとサクラの感情が昂り怒りの炎に支配されるのをわかっていても俺は…ああ、俺は情けない

彼女の傍にいてはいけないと思っていたのに、ちょっとしたことで彼女に縋ろうとしている。


なんと情けないのだろうか


「怒りを抑えろ、冷静に」

俺のせいで怒り狂おうとしている彼女に冷静を装って声をかける、それが情けない俺の精一杯だ。

血に汚れ、心も弱く、正常な判断が出来ない俺が彼女の傍にいる、許されるわけもなし。


だが、この一連の流れ無駄ではなかった、情けないが心に幾ばくかの余裕が出来た。

俺の怒りを受け止めてくれたからなのか、心が冷静になっているのを感じる、気持ちを切り替えることが出来ている。

情けないモノだな…


『ユキもすまなかった、君のおかげで魔力残量も概ね把握することが出来た、おかげでサクラへと伝える情報にユキがまとめてくれた情報もねじ込めたよ。僅かだが魔力を渡しておいた、誰かに何かを報告すると思考が晴れるのは良いのだが、情けないモノだな』

そんなことない、あんなの、誰だって怒る

私だって

『俺の為に…いや、俺の愛した人の為に怒ってくれて感謝する、ここからは魔力に余裕がない!出来る限り魔力を温存して闘う!』

姿勢を低くし落ちているまだ剣として仕えそうな得物を拾い、魔力を温存するために槍は短剣のように短くし二刀流の構えで歩を進める


二刀流という武に関しては正直に言えば得意ではない。

だが、こう言う事もあるのだろうと先輩から教授していただいているし、爺さんからも教わっている。

彼らに比べれば練度も低く拙いかもしれないが、出来る限りのことはやらせてもらうさ!


前からくる新しく生み出された死者が身にまとう鎧。

覚えのある意匠だ、先と比べて陳腐な張り付けた鎧とは違ってまだ綺麗な方だな

綺麗が故に俺達が敬愛する彼らの為に掲げた紋章…月と狼を象った紋章を

「その鎧を志し無く使わないでもらおうか!その柱を背負わないでもらおうか!!!」

悲しみと怒り、そして苛立ちが混ざった感情が表に出てしまう。


冷静さを幾ばくか取り戻しておいてよかった、あのままサクラのもとへ戻っていなかったら俺はこの紋章を見てかつての俺の想いを穢されたのだと感じ、暴れ狂っていただろう


なまくらの切っ先で死者の小手を下から上へと叩きその衝撃で前腕が天へと放り投げられ上半身が揺らめいたところを短剣と化した槍の切っ先で鎧の隙間である脇腹を刺しそこから彼らを縛っている術を断ち切る


しっかりとした鎧だからこそ動きに制限できる、俺達は何度だって鎧を着た敵と戦ってきたのだ。

だからこそ、死者の動きが読める、今の俺なら最小限の動きで流れるように兵士達を・・・

その先を考えず、ただただ、心を無にするように、何時もの仕事、何も変わりのない作業の如く


内に秘めた怒りを忘れるように集中していく…

されど、戦場を把握するための思考を止めず。

感情を流し、襲い来る死者という激流の中でありとあらゆるロスを無くすように流れに身を任せるように体を動かしていく。


まるで木々の間を駆け抜け大空へと羽ばたくような風のように俺の体が流れていく

小さな小さな、村のなかで木剣を振っていた幼き頃、木々の隙間から時折、吹く心地よい風。

俺の頬を撫で木の葉を天へと誘っていたあの優しくもあり強くもあった風のように体が流れるように動く


この動きこそが本来の俺であり、武とはそれが当たり前なのだと言わんばかりに流れるように死者を埋葬していく




無心で死者を倒し続けていると遠くから「いちち」と、小さな悲鳴が聞こえた。っふ、下手な演技だ、サクラはそういうのが得意な方だろうに敢えてわざとらしくしているな。

あれが演技だと直ぐに理解するほどに彼女が発した声はわざとらしかった、きっと、俺達には演技だとわかるようにしたということはこれから先ここを起点として何かが起きるのだろう、つまり、彼女の中で何かしら策が生まれたのだろう、戦況が動く!


動くと分かっていても目の前から敵が消えることが無い。

全てを独りで把握するのは厳しいな、っであれば

『すまないが、サクラの方へと意識を向けてくれ』

俺と感覚を重ね俺の全てを受け継ごうとしているユキに指示を出すと

頷いてくれるのを感じることが出来たが、いかんな、反応が僅かすぎる


魔力が乏しくなっているせいなのか、もしくは、意識を重ね過ぎて境界線があやふやとなり魂が混ざり合ってしまっているのかもしれない魂の同調現象っとやらが起きてしまっているのか

『苦労を掛ける』

言葉を投げかけるが返事が返ってこない、あのユキが返事を返さないわけがない。


ユキの声が聞こえなくなってしまった。

先の答え、後者が正解だとしたら俺達の体…限界が近いのだろう、されど、慌てふためくことも無し。

覚悟は決めている、ユキの了承も得ている、いざとなれば、臓器の一つや二つ未来の為なら惜しくない、くべてやるさ


魔力という窯の中にな


意識を集中させ僅かな魔力の欠片を拾い集めるように体内で圧縮し何時でも爆発できるように圧縮していると

『司令官が何かする』

今にも溶けて消えてしまいそうになほど小さなユキの声が聞こえ少々安堵する。

どうやら俺の考えは正しいのだろう、だとすれば、予想通りか?

『うん、魔力の流れを感じるそれも一点に』

何かしらの術式を使う前準備っというわけか…

賭けに出るっというわけだな、犠牲無しに進めるのは無理だと判断したのだろう。

では、俺もまたそれに合わせよう


彼女の覚悟、それに合わせてこそパートナーというのだろう?


使おうか、医療班としてこの先の戦闘に大きな影響を与えない臓器を

『選定する、魔力をこの手に』

目を閉じ、祈りと謝罪を捧げ…狙いを定める。

周囲の死者の位置を瞬時に把握する

目の前にいる狙うべき対象を守るために立ちふさがる大きな壁

その向こう側にいる件の獣事、殺すつもりで限界まで魔力を高め筋肉や骨へと浸透し何時でも爆発させることが出来るように魔力の欠片を保存するように圧縮していく


後は、これを爆発させるためのきっかけとして内臓の一つくらい魔力へと変え俺を一つの魔術として打ち出す。

そう、サクラと共に歩み学んだ術式、はるか遠くの頂、彼が授けたもうた奇跡のような術…

俺は何度か見ているあの光を…

思い出せ、あの光を…イメージしろ、より深くより鮮明に…


そう、まるで、ああ、似ている、俺が見た絶望と悲しみの光…

金色に輝く白き黄金の太陽が大地を裂いたあの…光へと俺は…なる!

光の柱となり戦場を駆ける!!


俺そのものがホーリーバーストとなる!!!


『動くよ!』

司令官が何かしらの動きを取った!っであれば俺が!…


魔力を爆発させようとした

気が付いてしまった


最も魔力へと還るのだとしたら何が良いのかを


嗚呼、そうだ、俺、が

気が付いてしまった、最も何を捧げればいいのか、魔力を産みだす炉へくべればいいのか

何を失ってもいいのか


俺は失念していた。『ぇ?臓器を』


そう、俺そのものが光へとなればいい

俺こそが白き黄金の太陽へと成る


何も臓器を炉にくべてやる必要なんてない

魂は魔力、魔力は心、俺という死者を炉へと、くべてやればいい


ユキ『ダメ!』

俺の技を学んだな?『学んだ!でも』

サクラを…『お姉ちゃんの傍に!』

俺達の聖女を…『ダメ!!』


頼んだぞ!!!


すまんなサクラ

俺は、君の傍に帰れそうもない。



【ダメだよ】



魂を燃やそうとした、だが燃やせれなかった、俺の魂は…この声には従わずにはいられなかった。

幾らユキに止められようが腕を掴まれようが前へ出て立ちふさがろうと覚悟は揺れなかった。揺れるはずがなかった…踏みとどまるような事なんて起きるわけがなかった。


だが

彼女だけは別だ


「せいじょ、さま」

神経を尖らせ気配を探ると胸が締め付けられ歓喜の声をあげ泣き叫びたくなってしまう。

もう二度と感じる事のないあの…彼女だけが持つ、あの…

あの清らかで…誰しもが崇め敬い縋ってしまいたくなる、あの清浄な気配を感じる!!


優しく微笑む様な月の光

そう

空に浮かぶ神聖なる月そのもの


天を見る

太陽は動かない

あの時と同じではない、空に二つ目の太陽は無い

視線を地平線へと向ける

だが、木々が邪魔で月は見えない


俺の時代になかった信仰

月の裏側から彼女が帰ってきたのかと

直ぐに首を振り否定する

何を馬鹿な、そのようなこと

あるわけが

【お願い光の精霊様、私を守り続けてくれた光の精霊様、最後のお願いを聞いて欲しい】

あるわけが


二度も声を感じ、彼女特有の気配が途切れない

これが幻想幻覚夢幻ではないのだと理解すると

木々を通り抜け大地を照らす光が強くなる

天を仰ぐように視線を上げると

そこにはかつて見た奇跡がそこにはあった


空に二つ目の太陽が産まれた


【ありがとう、太陽の騎士、私の騎士様、彼から託された奇跡、ずっと、守ってくれてありがとう】



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