リットル奪還作戦(前編)
おまたせしました。
紫色の夜空へと、太陽が昇り始めるにつれて白色の光が差し込み始め……周囲を夜から朝へと変えて行く。
そんな光景の中で、港がある集落から離れた原っぱには無数のモンスターが集落を護るかのように屯っていた。
それらは全てこれから訪れるはずのプレイヤーという戦う力を保持する者たちを向かえるために配備された者たちだ。
だが、先日これらを使役しているボスの下にプレイヤーが寝返りその多くをつれて集落を落としに行ったからか、無数……と言っても幾つかの虫食い穴のように所々で少ない配置が見て取れた。
けれど少なくなった穴をカバーすべく与えられた命令に従うようにモンスターたち……大半はウルフやベアーなどの動物系が会話をするように唸り声を上げてノシノシと歩いていく。
多分「来たか?」「いや、来ていない。というかまだ来ないんじゃないのか?」といった感じの会話をしているに違いない。
「……グルグルと周囲を見渡しているようだが、既に内側に入っているという考えはないみたいだな」
「あちゃりみゃえだ。こうゆーズルにゃんて、モンスチャーたちに思いつきゅわきぇにゃいんだからにゃ」
そんなモンスターたちの様子を、原っぱと集落の間にある街道よりの樹の近くでオレとブシドーは見ながら口にする。
というか本当に正面から来たら襲うようになっているんだろうなこれ……。
そう思いながら、オレは背後を向くとそこにはオレとブシドー、そしてアニマステラとカスジj……ジ・ゴールドを除いた他のメンバーが立っていた。
ちなみにあの後、片道転移をブラッドレックスさんの居る集落に配置したところ、オレの意図を理解してくれたようでイースの集落へと保護したエルフたちと共に転移してくれた。
そのときの彼の状況は、一言で言うと……エルフハーレム系主人公という印象が強かった。
何せ、助けられたエルフたち3名が助けてくれたブラッドレックスに夢中なのかべったりだったのだ。
それを見たときのオレたちの心境はなんとも言えない気分だった。
……ちなみに名前のほうはかなり後の番号から名乗った名前だったからか、イーゼは分からないようで微妙そうな顔をしていた。
「今はまだ気づかれていないだろうから、今の内に港のほうに向かおう」
「そうだネー。ミーも速くリットルさんたちを助けてエルフを解放したいネー!」
「ブラッドレックスさん、大きな声を出さないでください。気づかれちゃいますからぁ」
「OH、ソーリーネー」
「それじゃあ、リェッチュゴー」
「ゴーなのだ」
小さい声で会話を行い、オレの合図と共に一斉に港へと駆け出した。
オレ? オレはブシドーに抱き抱えられてるよ。
ああ、速くおっきくなりたいなー……。
◆
「……敵の殆どは居ない、けど……少ないながら精鋭がいると言ったところか?」
しばらく原っぱを移動し、港のある集落が近づいてくると一斉に息を潜めながら集落へと近づいて行った。
そして、集落と原っぱを区切るために建てられたであろう柵の近くまで近づき、こっそりと中を覗くと……黒い翼を生やした兵士たちが集落内を歩いているのが見えた。
アレってたしか……PVでも用意されていた物だから、神様じゃなくても天使とかが操っているキャラクターだったよな?
「エルサ、集落の中に敵は何体いるか分かるか?」
「ちょっと待っちぇろ」
ブシドーの問いかけに返事を返しながら、オレはマップを自分の視界に表示し始めた。
視界に表示されたマップでは集落の詳細な形が表示されており、その中を定期的に歩く赤い点が4つと集落の広場らしき場所に青枠で囲まれた灰色の点が3つ表示されていた。
それをオレは説明すると、納得したように一同は頷く。
「なるほどな……、昨日からマップの配置が変わっていたけどわたくしたちが攻めてくることを予測して外周にモンスターを配置して、万が一突破したらのときに集落にある程度の強さを持つ敵を配置していたってことか」
「だろうな。とりあえず……どう動く?」
「どう動くか、と聞かれたら……あの兵士を倒してリットルさんたちを助ける。としか言いようが無いでしょう」
「その場合、相手がどんな風に攻撃を行うかも情報が載っていないから、危険だと思うネ?」
「けど、TIMEが掛かったら外周にいるモンスターたちもコッチの様子に気づいて襲ってくる可能性が高いと思うネー」
オレから得た情報を元に彼らは意見を出し合っていく。
というか良くあの兵士たちはオレたちに気づかないな……。いや、もしかすると気づいているけど、仕事以上のことはする気がないってことなのかも知れないし……。
そう思っていると、突如オレのマップに<危険>と赤い文字で表示された。
えっと、なにこれ……? そう思っていると、港の奥に見える海が急に荒れ始め……空にも雲が見え始めたではないか。
「なんだ……これは?」
『む? これは……かなり強い怒りの気が向こうから感じるのじゃ』
「え、怒りの気ですかぁ?」
流星さんが眉を寄せ、ポンコ……命さまの言葉に樹之命さんが返事を返していた。
その直後、荒れた海から細長い銀色の蛇が姿を現した。――いや、蛇じゃない。あれは……!
『GGGGGGGGGGGRRRRRRRRRRRRRRROOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOONNNNNNN!!』
現れたそれ……と言うか巨大な龍は周囲の空気を震わせるほどの激しい雄叫びを上げ、暴れ狂ったように周囲を飛び回り始める。
……周りは雄叫びに驚いているようだが、オレのほうは今にもちびりそうだった。
何故なら、周りは雄叫びに聞こえる声だが……オレにはしっかりと聞こえた。
(何処だアアアアアアアア!! この俺にふざけた真似を働いた馬鹿者は何処にいる!? 聞こえているぞ、感じているぞぉぉぉぉ!! 見つけて噛み砕いてやるわああああああああああ!!)
うわぁ……、超激おこプンプン丸でムカ着火メギドファイアーだよあれ……。
見つかったら本当にヤバイな。
心の底からばれないことを祈りつつ、ジッとしていると切れ長の瞳で龍……いや確か龍神だったよな? それが、真剣に周囲を見回していた。
『GGGGRRURURURURURURURURURURURU……!』
(何処だ、何処に居る? この周囲に居ることだけは理解している。だが、気配が弱い……もしかするとあそこの密集に隠れているのか? ならば、一気に叩き潰して確かめてやろうではないか!)
違います。気配が弱いのは小さくなったからです。何て言えるはずも無く、オレはジッとブシドーの腕の中で硬くなっている。
そして、オレの心境がまったく読めないまま、龍神は空中を泳ぐようにして集落の外周へと移動を開始していった。
……一分ほどして、激しい雷がその方角からし始め、犠牲になっているであろうモンスターたちに同情せざるおえなかった。
「……これは、モンスターが戻ってきて挟まれるという心配は無くなった……と考えるのが良いのだろうか?」
「た、多分そうじゃないでしょうかぁ……」
「けど、あの龍はいったい何を探してたんだろうな?」
「味方として現れたって感じじゃ無さそうだったヨー」
「というよりも、怒り狂ったFATHERみたいな感じだったネ」
「…………」
向こうから響く雷の音を聞きつつ、彼らは口々にそう言う。
そんな中で、オレをギュッと抱き締めているブシドーが密かにオレに向けて内緒相談を行ってきた。
『……さとる。あの龍神、お前を探していなかったか?』
『……ああ、お前にも聞こえたのかあの声……。多分、というか絶対オレを探してるよなアレ……』
『ああ、驚いたのだが、拙者にもあの叫び声の中に混じった言葉は聞こえた。……もしかすると共通点があるのだろうか』
『まあ……ひと段落着いたら詳しい話はするってことで、今は見つからないことを祈るのみ。ってところ……』
『分かった。それじゃあ、ばれないように頑張ろうか……。もしくは対抗策を用意するしかないな……』
内緒相談でブシドーと会話をするオレだったが、話を聞いてばれるわけにはいかないということを理解した。
というか、あの龍神に居場所がばれる前にテラっさん、ミッちゃん、エクサを開放するべきだ。
だから、彼らへとオレは口にする。
「じぇんぎゅん、とちゅげき!」
「……はい?」
「じぇ……ぜぇ、ぜぇんぎゅん、とちゅげき!」
「ああ、全軍突撃と言いたいのか……」
舌足らずながらも頑張った声でようやく流星さんがオレが言いたいことを理解してくれた。
そして他のメンバーを見ると、オレにご執心なサンフラワーさんと樹之命さんが突撃する気満々だった。
それ以外のメンバーは少し躊躇しているようだったが……。
「此処は隠れて、と言ったほうが良いのだろうが……どうするべきか」
「正面突破で行ったほうが良いと思うのだ」
確認を取るように周りに流星さんが言った瞬間、イーゼがそう口にした。
その言葉で彼女へと視線が向けられたのだが、その理由を彼女は口にする。
「出てきたアレが何なのかは分からないけれど、アレのお陰で兵士たちが混乱しているようなのだ」
「……なるほどぉ。混乱に乗じてですか、それが一番みたいですねぇ」
「だったら、遠距離から一斉に攻撃してから突っ込むのが一番、ってところか?」
「ワタシは、それで良いヨ」
「ミーたちの実力が物を言うネー」
「……出たとこ勝負だろうが、それしかない……か。その案で行こう」
一同がそう口にしてから、即座にリットル奪還作戦が開始されることとなった。




