リットル奪還作戦(中編)
お待たせしました。
大量のモンスターの方向へと龍神が飛んで行った。
それを見ていた邪神側の兵士たちはこちらに来ないことを祈りつつ、ちらりちらりと未だ雷雲が立ち込めている原っぱへと視線を向けていた。
けれど同時にあそこにはきっとプレイヤーたちが居て、龍神の餌食となっているに違いない。先行プレイに参加している全プレイヤーが死んだならば自分たちには特別手当が邪神から貰える。と考えても居るのだろう。
……本当ならば、全周囲を警戒しておけば良いものを、そういう考えがあったからか少し注意力が散漫となっていたようで、二人一組に分かれて行動している兵士たちの視界外の集落の柵から突如立ち上がったイーゼとサンフラワーさんの存在には気づくのが遅れてしまっていた。
「「っ!? て、敵しゅ――うぐっ!!」」
「遅いのだ。遅すぎるのだ!」
「穿て氷よ――『アイシクルランスッ!!』」
驚きながら、別行動の仲間へとオレたちの襲来を伝えようとした兵士たちだったが、ヒュッと風を切る音がした瞬間――イーゼの複数の風の矢が鎧に覆われていない喉と目に命中し、更にサンフラワーさんの放った氷の槍がもう一人の兵士の腹を素早く穿ち、そのまま民家の壁に磔にした。
風の矢が命中した兵士が一撃死を受けて倒れる一方で、もう一人の兵士は壁に背中を打った上に氷の槍で磔にガハッと体内の酸素を吐き出してしまっていた。
そこへ素早くブラッドレックスさんが柵を乗り越え、突っ込むと凶悪な見た目の大剣を振り被り、斜めに振り下ろした。
しばらくするとズズッと音がし、磔にされた兵士と共に壁が切り落とされた。……おぉう。
「FUU~~……、何とかなったネー!」
「油断するな、まだ残り2体居るんだ。それに、今回は闇討ち同然だったから上手くいった可能性もあるんだからな」
「大丈夫ネー。何とかなるなる、HEARTを強く持っていくネー」
ブラッドレックスさんに追いついた流星さんがそう言うのだが、ブラッドレックスさんはどうやらお調子者なようであっけらかんと答えていた。
ああ、おっちょこちょいしそうだ。……それは兎も角。
「イージェ、ありぇはなんだったんら?」
「どうしたのだ主? ……ああ、あの複数の矢のことが気になっているのか? 主とひとつになってから、我も魔力の使い方が良く分かるようになったのだ。だから一人でも複数を相手取ることが出来るのだ」
「わ、わ~~を……」
オレの問いかけに答えて、イーゼは誇らしげに胸を張っていた。
……これは、所謂アレなのか? 漫画とかゲームでお馴染みの強大な力に触れたらそれに近い能力を引き出せるようになった的なものなのか?
そう思っていると、ブラッドレックスさんに上半身を斬り落とされた兵士が最後の意地とばかりに張り裂けんばかりの声を上げた。
『て――――敵襲~~~~~~ッ!! てき――ごふっ』
周囲に響き渡る声でもう一度叫ぼうとした兵士の肺に血が込み上げたのか、血霧を噴出してガクリと反応をなくした。
だが、その兵士の声を聞きつけたのか、残る2人の兵士たちが黒い翼を広げながらオレたちのほうへと飛んでくるのが見えた。
「「侵入者発見! 直ちに撃退する!!」」
「くそっ! 仕留め損なってんじゃねーよ! ――『アイスガトリング』!!」
大声で叫ぶ2人の兵士を見ながらサンフラワーさんは悪態交じりに舌打ちをしながら、連射式の氷の弾丸を空中へと撃ち出していくのだが、あまり速度が出ないのかそれらは簡単に上下左右に羽ばたくことで避けられてしまっていた。
イーゼの矢もギリギリ届かないのか、飛ぶ兵士へと複数の風の矢を放つのだがそのどれもが兵士に刺さること無く、放物線を描きながら地上に真っ逆さまとなってしまっていた。
……しかも相手は上空を取っているからか、こちらに向けて優位であるのは間違いなかった。
その証拠に兵士たちは持っていた武器を弓矢へと切り替え、地上に向けて矢を撃ち出しはじめた。きっと、オレたちのようなインベントリを持っているに違いない。
「馬鹿め! そのような魔法が此処まで届くはずが無かろうが!!」
「しかも逆に私たちは矢を放てば狙いたい放題と来るものだ!」
「くっ! 致命傷は避けろ! 大丈夫か!?」
「だ、大丈夫ヨ! というか、地上に向けての攻撃って卑怯ダヨ! 男なら降りて戦うヨ!」
「下りないようならミーが赴くネー! 『エアダッ――「やらせるかっ!」――うわっ!?」
地上へと降り注ぐ矢を回避し、無理ならば腕を犠牲にする流星さん。
上空に向けて雑言を口にする嵐牙さん。……多分、天使だから性別は限り無く無いんじゃないかなぁ……?
そして、自らも上空に駆け上がろうとするブラッドレックスさんだったが、接近してきた兵士の体当たりによって地面に叩きつけられてしまっていた。
地面に叩きつけられたブラッドレックスさんを樹之命さんが回復を行う中で、サンフラワーさんは魔力回復系のクスリを飲みつつ何とか攻撃を当てようと魔法を放ち続けていた。
……正直、ジリ貧だと思う。
「さあ、どうする? お前たちには後が無いだろう? しかも、私たちに倒されればどうなるだろうなぁ? 更に言うならば長引かせるだけそちらが不利になるだろうな!」
「ふはははははははっ! それは良い! ならば、あの龍神が再びこちらに来るまで上空を飛び回ってやろうか!?」
それが分かっているのか、兵士たちはさも楽しそうに悪役ロールを行っている。
……ああ、日頃の鬱憤晴らしてるのかなぁ?
「こりぇ、まじゅくにゃい?」
「……ある意味、不味いだろうな。今は相手が2人だけだが……増えてくる可能性も捨てきれないし、龍神も戻ってきたら危険だろう」
「にゃんとかしにゃいと……、やばいにょな……」
オレの言葉にブシドーが返事を返し、危険であることを改めて理解しつつオレに出来ることは何かないかと思いつつ周囲を見渡した。
見回した周囲では、上空を飛ぶ2人の兵士を撃ち落すべく矢と魔法が飛びかい、地上では流星さんを始めとして嵐牙さんと樹之命さんが放たれる矢を地面を駆けて回避し、時にはわざと腕などで受けたりもしていた。
他に敵は現れないだろうか、そう思いつつオレは周囲を見渡す。……だが、運が良いのか敵はまったく居なかった。
そして2人の兵士は当ててみろと言いながら、上空を飛び回っている。
再び地上に視線を移し、ジッと道の先を見ると……何かが立っているのが見えた。
…………あれ? これってチャンスじゃね?
「にゃあ、こりぇって上きゅ、空とりゃれてりゅけど……かけにゅけたら、テリャっさんたちたしゅけれるんじゃにゃいのか?」
「……エ、エルサ? お前いま何と……? ――って、な、何でそれに気づいていなかった拙者!?」
多分、簡単な物ほど思いつかないと言うことなのかも知れない。
もしくは敵を倒さないと先に進めないという概念に囚われていたのかも……。
そう思っていると、オレを抱き抱えたままブシドーが立ち上がった。
「皆! しばらくその兵士たちを足止めしていてくれ! 拙者たちがテラさんたちを助けに行く!!」
「っ!? そ、そうだ。何故それに気づかなかった……!? いや、今は考えるべきではない。此処は我らに任せろ、そっちは任せた!!」
流星さんの声が聞こえた瞬間、オレを抱えたブシドーが一気に集落の広場に向けて駆け出した。
それに上空を陣取っている兵士2人も気づいたようで、慌てた声を出し始めるのが聞こえる。
「げっ! おい、速くあいつを止めろっ!!」
「分かってる! おい、待――うおっ!?」
「何処を見ている? お前たちの相手はこちらだぞ?」
「HEYHEYHE~~Y!! どうしたネー? よそ見しているとミーは空へと駆け上げるネー? 『エアダーーッシュ!!』」
ブシドーの腕の中で少し首を動かすと、空を飛んで追いかけようとした兵士たちが流星さんの挑発と同時に放たれたイーゼの矢とサンフラワーさんの魔法。そしてブラッドレックスさんの素早い空中疾走によって邪魔をされ始めた。
樹之命さんが何もしていないように思われそうだが、ブラッドレックスさんの速度が速いことから……きっと補助系の魔法を掛けたのだろう。
そう思っていると、ブシドーの足が広場へと辿り着いたようで移動が徐々に弱まっていくのを感じた。
「……着いたぞ、エルサ」
「おぅ。うわぁ……」
ブシドーに返事を返して、オレは広場を見渡す。というよりも、広場に置かれた3つの十字架を見る。
それはガラスに近い材質の物だと思うのだが、その中に磔にされたような形でリットル家の3人が収められていた。
何というか、この十字架……中に入っている人の額に光だったかビーム光線だったかを浴びせたくなるようなデザインしているな……。
そう思っていると、ブシドーが黒刀・禍津日を抜くと――。
「はあああああああああ…………っ!! てぇぇぇぇぇええええりゃああああああああああーーーーーーっ!!」
肺の息をゆっくりと吐き出し、刀を掲げ……強烈な雄たけびと共にブシドーは袈裟切りを放った!
直後、シャンという音がオレの耳に届き……それから少ししてズズッっと言う音が聞こえ、十字架の天辺からピシリピシリと亀裂が走って行き……真ん中から真っ二つに割れ、中からテラっさんが露わとなった。
すると、十字架は役目を果たしたとばかりに消え失せ、テラっさんはゆっくりと地面へと下り……膝を突いた体勢となっていた。
後はミッちゃんとエクサが入ってる十字架を破壊すれば良いと思うのだが……、テラっさんが目覚めるのか気になっているのか、ブシドーはジッと視線を下に向けていた。
「う」
「「う?」」
目覚めるのか、そう思った瞬間――弾けるようにテラっさんは体を起こし、
「ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオーーーーーーッ!!」
「くっ!?」
「ひっ!」
「ひぃぃぃぃぃっ!?」
周囲の空気を震わせるほどの雄叫びがテラっさんの口から放たれ、ブシドーは膝を突いた。
少し離れたところでは聞きなれない声が2つ悲鳴を上げているのだが……多分、あの兵士たちだろう。
その雄叫びを聞きながら、オレは目覚めたテラっさんと敵対することにならないで欲しいと心から思った。




