リットル奪還作戦(後編)
お待たせしました。
「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオーーーーーーッ! すぅ~~…………ふぅ~~~~……」
1分以上叫び続けていたテラっさんだったが、叫び続けて失った酸素を補充するようにゆっくりと息を吸い……そして、それを吐き出した。
そんなテラっさんの様子を見ながら、周りは雄叫びの恐怖で固まっており……何とかブシドーも刀に手を置くぐらいしか出来ていなかった。
というか、本当に目覚めたテラっさんが敵に回っていたら一番最初にオレとブシドーがKILLされてしまいそうだ。
そう思っていると……。
「……ふぅ……。助かったぞ、お前たち……って、エルサ……なのか?」
「そうりゃ」
「シャマラに封じられていた間はアバターから抜け出すことが出来ない状態だったが、変なことになっているようだな……。すまないが、ミリとエクサの拘束も解いてくれないだろうか?」
「あ、ああ、お安い御用だ……!」
オレを見て驚いた表情を浮かべるテラっさんだったが、ブシドーへとそうお願いしてきた。
……というか、ログアウト出来ないで磔にされているって……時間の経過が分かっていないだけまだ良かったのか、それとも最悪だったのか……分からないな。
そう思っていると、ブシドーは素早く刀を抜き放ち、残る2つの十字架を切り開いていった。
すると、桃から生まれた桃太郎よろしくな感じに、ミッちゃんとエクサが中から出された。
――ベチャ。
「ぐはっ……! い、いたいわ……」
……あ、エクサは運動音痴だからか、綺麗に顔から地面に落ちているな。抵抗する間も無く顔からダイブ、アレは痛い。
ミッちゃん? 彼女は、出た瞬間にトンと地面に降りると……うんと精一杯背伸びをし始めたよ。
「んん~~~~~~っ! あ~~っ、時間が止まっていたけど、何だか肩凝ったッスね~~!」
そう言いながら背伸びをするミッちゃんのスイカップなお胸は見事に揺れており、オレはジッと見つめてしまっていた。
――って、うおおおおっ!? ブ、ブシドー!? 突然なにするだぁーー!!
「エルサ、アレはいけない。お前の教育上きっといけないものなんだ……」
「にょああ~~!? は、はにゃせぇぇぇ~~!!」
「ん? ……んんっ!? え、何ッスかこの幼女? え、この顔……え? うぇぇぇっ!? ま、まさか……エルサさん!? エルサさんッスか!?」
「うぅ……痛かったわ……。あら? 面白いことになってるわね……」
ブシドーに目を手で押さえられてジタバタ暴れるオレ、そんなオレに気づいたミッちゃんが驚いた声を上げ、その声に釣られてエクサが近づき……面白い物を見るような瞳をオレに向けた。
まあ、どう考えても面白い状況なのだろうけど……。逆にオレは面白くないけどな!
マジマジと見られ続けているオレだったが、その行為は突然終わることとなった。
「ミリ、エクサ、お遊びはそれぐらいにしておけ。……さて」
「「ひっ、ひぃっ!?」」
テラっさんがギロリと、視線を少し離れた上空をホバリングしている兵士2人へと向けると2人は情けない声を上げながら、蛇に睨まれた蛙のように怯えた声を上げた。
それをブシドーの手が取られた目で見ると、全力で逃げ出そうとしているのか、彼らは互いに逆の方向へと飛んでいこうとしているのが見えた。……が、それは無理だったようだ。
何故なら――、
「誰が逃げろと言っていた? お前たち、どうなっているのか分かっているつもりだろうな?」
「ひ、ひぃぃぃ! お、お助けぇぇぇ、シャマラさまぁぁああああーーーー!!」
「は、はやい……。いや、流石は訓練場の長、と言うべきだろうか……」
「しっしめた! 今の内に――ぃぃぃぃぃ!? ごっはあああああああ!?」
「よっしゃ~、ストラ~~イクッス!」
素早く地面を蹴ると、テラっさんは一瞬で逃げようとしてた片方の兵士の頭を掴み、逃亡を阻止していた。
更にもう一人の兵士はその掴みを何とか回避したようだが、ミッちゃんが自身が入っていた十字架を持ち上げると飛んでいくそれに向けて投げつけていた。
アレってかなり重そうだったけど……、うん、流石パワー馬鹿!
そう思っているとテラっさんが掴まえた兵士と共に地上に降りてきて、そんな彼へとオレたちは近づいて行った。
「さて、何か言うべき言葉はあるか?」
「お、お助けぇぇぇぇ!! 私たちは悪役ロールに従ったまでなんだーー!!」
「ああ、そうだろうというのは分かっているつもりだ。だが、ここまで酷いことになったら止めるのが私たちの役割ではないか?」
「そそ、そうです! そうです! 申し訳ありませんーーっ!!」
真剣な表情をしながら、兵士の頭を手で掴むテラっさんだけど……あ、これって真剣に怒ってるわ。
それに気づいている兵士はゲーム内でも神の世界でも命の危険を感じているようで必死に謝っている。
……これはアレか? 凄い人が動けないから今の内に調子こいてやろうと思った結果というやつか?
そう思っているとこれ見よがしに黒い翼を白い翼へと変化させていく兵士。
「ほ、ほら! 私も手伝います! 手伝いますから見逃してください!!」
「……うわぁ、あからさまにヘタレッスね」
「もう少し意地っていうものを見せなさい……。無理だろうけど」
「お前という奴は……、天使としての誇りを持てっ!」
「何でもしますか――ほごっ!?」
兵士を操作する三下天使に呆れるミッちゃんとエクサ、そしてプッツンしちゃったテラっさんがそんな三下を地面に叩きつけた。
その一撃は叩きつけられた兵士を中心に周囲の地面を陥没させ、兵士のHPも0にしてしまっていた。
結果、命乞いをしていた兵士のアバターはその場から消えて行き、テラっさんの手には何も残らなかった。
きっとこの騒動が終わったら、中の天使も厳罰に処されるだろうなぁ。コウモリみたいな最後だったし。
「…………むぅ、しまった!」
「テラっさん、やりすぎッスよ~~!」
「テラ、やりすぎだ……」
「そうだな……。――だが、やりすぎついでに捕らえられたエルフたちを助けに行こうではないか?」
あれ、一度やりすぎちゃったからハメ外そうって言ってない?
そんな不安を感じていると、ミッちゃんとエクサも笑みを浮かべ始めているのが見えた。
あ、やな予感がする。
「そうッスね~。わたしも体をうんと伸ばしたいッスよ!」
「そうね。我輩も久しぶりに全力を出したいわ……」
「そうと決まれば話は速い。……すまないが、ここからは私たちが預からせてもらうが良いだろうか?」
そう言って、テラっさんはこちらへと近づいた流星さんたちへと問いかけた。
テラっさんの言葉に流星さんたちは戸惑いながら仲間たちと顔を見合わせ、……示し合わせたように頷いた。
「……分かりました。後はテラさんたちにお任せしましょう」
「私が言ったことだが……、本当に良いのだな?」
「はい、正直言いますと我もですが他のメンバーももう限界ですし、あの邪神が言っていた頼みの綱であるエルサも今はこの状態だ。ですから、我らが戦うよりも貴方がたに頼ったほうが良いと考えましたが……宜しいでしょうか?」
神に対して敬っているからか、流星さんはそうテラっさんたちへと言うと頭を下げた。
それに釣られるようにしてオレや他のメンバーも頭を下げた。
とりあえず、オレも頭を下げるべきだろうと考え、ブシドーの胸の中でぺこりと頭を下げた。
「うひょ~! エ、エルサさんかわい過ぎじゃないッスか~~!?」
「これは、可愛いね……。魅了がかからないのが不思議なくらいだわ」
そう言ってミッちゃんとエクサはオレを見つめ、テラっさんも頷いているのが見えた。
「よし、それではちょっと行って来るとしよう」
「そうッスね♪」
「ちょっと船を潰してエルフ助けるだけだから問題ないわ」
テラっさんたちが口々に言うと、彼らの体が宙へと浮き始めるのを見た。
それを彼らは驚いた様子で見ていたが、3人は悠然と海のほうへと歩き始めた。
そんな彼らの後に続くようにオレたちも港へと向かうと、3人は既に海に浮かぶ軍艦のような巨大な船へと進んで行った。
……そして10分ほどが過ぎ、オレたちの視界には荒れた海とボガンボガンと激しい音が響き傾く船が見えていた。
「うわぁ……、船が揺れてるな……」
「凄い気を感じるヨ……」
「すげー雷が落ちてるなー……あ、また落ちた」
『わらわ、恐怖しか感じぬぞ……』
「あの人たちの中身って、荒神じゃないんですよね……?」
口々に彼らがこの状況の感想を口にし、なんとも言えない表情を浮かべる。当然オレもだ。
頼んでしまったのはこっちだけど、これはアレだよな……。歩兵対歩兵の戦争にミサイルを使用したもんだよな?
いや、ミサイルじゃなくて核ミサイルかも知れないのか? けど、向こうも同じ物をチラ見せしてきた物だし……、実際どうなんだろうか?
疑問に首を傾げていると船の用事は終了したらしく……。
「あ、沈んだぞ?!」
「WAO、これは……タイ●ニック並みの沈没っぷりネー!」
視界で真っ二つに折れて沈んでいく船を見ながら、ブシドーから驚きの声が洩れ……ブラッドレックスさんから興奮の声が洩れた。
……というか囚われていたエルフは無事なのか?
「み、みんなは無事なのか?!」
どうやら、心配だったのはオレだけじゃないようで不安そうにイーゼが尋ねてくる。
……本当に、大丈夫だよな?
そう思っていると、イーゼを除いたオレたちの視界に告知が表示された。
――――――――――
条件を達成しました。
・神とその眷属の開放
・エルフを104名救出。
しばらくの休息の後、街造りを始めてください。
――――――――――
これは……。
「あっ、あれは!」
驚くオレたちだったが、イーゼの声にハッとし彼女が指差す方向を見ると……沈み行く船から空中を浮かぶようにして、救出艇を両肩に載せたテラっさんとミッちゃんの歩く姿が見えた。
そして、その小型船には大量のエルフたちの姿が見えた。
それを見ながら、オレたちはホッと息を吐くのだった。
……なんだろうかなり不完全燃焼。




