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船内コミュニケーション(後編)

お待たせしました。

 ――――――――――


 アイテム名:濃縮林檎果汁

 品質   :中級(6)

 説明   :メープルップル産の林檎果汁を煮沸濃縮で濃縮した物。単体では味が濃過ぎるため飲み辛い。

        水などで薄めたり炭酸と割って、ジュースにしないと美味しくない。


 ――――――――――

 ――――――――――


 アイテム名:ドロリ特濃★マンゴードリンク

 品質   :低級(3)

 説明   :ルーツフ島のマンゴーを煮詰めて濃縮した物をほんの少量の水で還元したドリンク。飲むと舌にドロドロのドリンクが絡みつき、正直言って飲み難い。というか、誰が作ったこんな物。

        オススメとしては、カキ氷にかけるのが一番だと思われる。


 ――――――――――

 ――――――――――


 アイテム名:メリッサの聖水

 品質   :上級(7)

 説明   :グレープレット産の白葡萄ジュース。葡萄本来の甘さが口の中に広がるが、甘過ぎず飲み易い。

        ただし、飲みすぎ注意。なお、聖水のような色をしているのでそんな名前となっている。なので誤解が無いように。


 ――――――――――


 鑑定結果が表示された3本のボトルを見ながら、オレは何とも言えない表情を浮かべる。

 同じように、鑑定を見ていたであろう雪火と、樹之命さんも微妙そうな表情を浮かべているのが見えた。

 ……何というか、微妙過ぎる飲み物が多い。というか、それしかなかったんだけど?

 ちなみにショートちゃんは怖い物が好きなのか、キラキラと瞳を輝かせながらマンゴードリンクを見ている。

 まあ、とりあえず……周りに確認しよう。そうしましょう。


「え、えーっと……の、飲()ますか?」

「飲みますかではなく、飲めますかと言う確認と言うのは……、些か酷いと思うのだが?」

「そう言うのは分かる。けど、ひとつは炭酸か飲料水で割らないと甘過ぎるみたいだし、ひとつはドロドロすぎて喉詰まらせそうで怖いし、最後のひとつは聖水らしいし……」


 そう言いながら、オレは自分たちで見つけたけれど手を出そうにも出し難いボトルを見る。

 だが、ここは男は度胸とでも言うように飲んでみるべきか?

 うーんと唸りながら悩んでいると、ショートちゃんがマンゴードリンクのボトルを手に取った。


「誰も飲まないのかな? だったら、ショートが飲むけど、良いかなー?」

「「え”っ?! ちょ――、まっ!!」」

「ショ、ショートッ!? ま、待ちなさいっ!!」


 ショートちゃんの言葉に正気を疑う声がオレたちの口から洩れ、彼女の姉であるベンティさんが止めようとするもショートちゃんは素早い手際でマンゴードリンクをドロドロと垂らしながら用意していた素焼きのカップへと注いでいく。

 普通のドリンクのようにトクトクではなく、ドロドロという垂れかたなのが恐ろしい!

 そのあまりのドロドロっぷりを驚愕の表情で見ていると、ショートちゃんがベンティさんに止められるよりも速く……注ぎ終えたマンゴードリンクが入ったカップに口をつけていた。


「いっただきま~~すっ! ごくごくご――――」


 笑顔のまま、ショートちゃんはマンゴードリンクを飲み始めた。……が、頬をプクーッと膨らませたままカップから口を離した。

 ……どうしたのかと思いながら、ショートちゃんを見てみると……プルプルと体を震わせながら、瞳に涙を浮かべているのが分かった。

 これは…………、まさか?


「もしかして、飲み込めない?」


 ――コクコクコク!


 何となく思った理由を口にすると、ショートちゃんが素早く首をブンブンと振って肯定をしていた。

 ……の、飲み込めないほどのドロリっぷりなのか……。

 恐ろしい事実を知って驚愕していると、ベンティさんに付き添われて口の中のドロドロをゲーすべくショートちゃんはトボトボとその場から離れて行った。


「ほら、向こうでゲーってしに行きましょ? 好奇心旺盛なのは分かるけど、それは無謀だったのよ……」

「……ショートちゃん、キミの犠牲は無駄にはしない。という訳で、このマンゴードリンクは単体だと危険物だということは判明したので、避けておこう」

「そう、だな……。だが匂いは良いのだな……、南国を感じるマンゴーの香りが堪らない。正直、香りに魅了されてしまいそうだ……」

「ああ、言われてみると……匂いはいい香りですねぇ。マンゴー好きには堪らない香りですよぉ? ……ごくり」

『おい、樹よ! 飲め、飲んでわらわに味を感じさせよっ!! おい、聞こえておらぬのか!? 無視するでないっ! おおい!!』

「けどそれが罠だったんだな…………」


 オレの言葉に、雪火と樹之命さんは何も言えず……そっとマンゴードリンクのボトルを締めるとテーブルの隅に避けた。

 ちなみに樹之命さんの背後でついさっきから見える半透明の残念な人が吠えているけれど、気にしていないようなので無視しておこう。

 多分、その判断は正しいだろうし……。

 とりあえず、聖水は何というか飲みたくない。普通に白葡萄ジュースだから本当は味は気になるし飲んでみたいんだけれども、名称が……なぁ。

 普通は聖水って聞かれたら聖なる水とか思うだろうけど、少し大人向けの二次元知識の聖水って……アレ、なんだよなぁ。

 乙女のお●っこ……。白葡萄ジュースのはずなのにそのイメージしか浮かばない……。最悪だ。


「……しかたない、林檎ジュース飲んでみるか。ブシドーか樹之命さん、飲料水持ってたりしないか? 何か、水で割らないと飲めないらしいし」

「水か? ちょっと待ってくれ、調べてみる」

「飲水ですかぁ? ちょっと探してみますぅ」


 雪火と樹之命さんにお願いすると2人はインベントリ内に飲水が無いかを探し始める。

 その様子を見ながら、オレも無いかとインベントリを漁り始める。

 ……そういえば、ハロンさんってどうなったんだ?

 鍛冶場って熱いから、飲水持ってたりしそうだし……。

 そう思いながら同じテーブルに座っているのに反応が無いハロンさんのほうを見ると


「んぐんぐんぐっ……ぷはぁ!! あ~、これ良い酒っすねー♪」


 何時の間にか、酒のボトルを手に取りラッパ飲みをしてました。

 …………わを、豪快。……――じゃなくて!!


「ちょっ!! ハロンさん、未成年。貴女のアバター未成年っ!!」

「んぐ!? わぁ、何するっすか、エルサー!!」

「うぐっ! このにおい……かなりアルコールが強い酒みたいだ……」


 慌てながら、ハロンさんの手に持ったボトルを奪い取ると、取られたボトルを取り返そうとハロンさんが飛び掛ってきた。 けれど、取られて溜まるものかという意思を込めてオレは立ち上がり、ボトルを掲げる。

 そのとき、ボトルから酒のにおいがしたのだが、鼻をつまみたくなるほどの濃いアルコールのにおいがし、オレは顔を顰めた。

 そして突然のことで反応出来なかったのかハロンさんはテーブルに突っ伏し、怨めしそうにオレを見つめてきた。


「いや、恨みがましく見つめるよりも前に、平然と酒を飲むなよ」

「……エルサ、わっちはね。神っす。神っすよ? だから、年齢なんて関係ないっすよ」

「実際の年齢は成人を越えているんだろうけど、そのアバターとか公式サイトがあげている設定でハロンさんは花も恥らう16歳なんだからもう少し配慮しような?」

「ぐぬぬ……、わっちは酒が飲みたいっすよ!」

「神の世界に戻ったら死ぬほど飲めば良いじゃないですか。だけど……、プレイヤーがいる中で平然と飲むな」

「ぐぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬ……!」


 歯をギリギリさせながら、ハロンさんはオレを睨む。けど、それは愛の鞭とでも言うべき行動なんだ。

 だから分かってほしい。これは断じて苛めているわけじゃないということを……。

 そう思っていると……


「え、えっとぉ、さっきから思ってたけどぉ……? エルサ、さんって……本当にAI搭載PCなんですかぁ?」

「あ、ミーもさっきから気になってたんだよネ。公式が用意しているNPCが異世界の神なんだから一癖も二癖もあったりするから、AIって怪しいんだよネ」


 と、樹之命さんが問いかけてくると同じく気になっていたらしく、ブラッドレックスも近づいてきた。

 ちなみにブラッドレックスの手には赤ワインが並々と入ったカップがあり、頬が少し赤いところを見ると飲んでいるようだった。

 ……って、そんなことはどうでもいいんだ。むしろ今は、周りから怪しまれているということだ!

 正直、エルミリサだけど、人の魂入っています。なんて言ったら良いかも知れないけれど、出来るだけ知らせないようにと神さまに言い含められている。

 だから、此処は誤魔化しておくべきか……。

 そう思いながら、「え、なんのことですか? よくわかりませんねー? アハハー?」と言って誤魔化そうとしたオレよりも先に動く存在があった。


『樹よ、何故わからぬのじゃ? この者の魂は神ではなく人じゃぞ?』

「え、人の魂?」

『うむ、というよりも何故人の魂でありながら、神の分け身に入っておるのじゃ? わらわにはそれが分からぬ』


 …………、透明なお馬鹿の声は周囲に聞こえていないようだが樹之命さんの発した声は聞こえていたらしく、ブラッドレックスがオレを半ば驚いた様子でマジマジと見つめてくる。

 しかも、樹之命さんの声は他のプレイヤーにも聞こえていたらしく、視線が集中してしまう。

 おぉい! 何かこの透明なお馬鹿余計なこと言っちゃってくれてるんですけどぉ!?

 というか、この透明なお馬鹿、今更ながら一体何者なんだ?!

 そして、そんな風に余所見をしているオレをハロンさんは見逃さなかったらしい。


「すきありっす! もらったああああああああああーーーーっ!!」

「――っ!? う、うわっ!?」


 素早く伸びてきたハロンさんの腕に驚きつつも、どう反応しようか悩んでいたために下げてしまっていたボトルを持った腕を一気にあげた。

 その瞬間、がら空きとなってしまった胴体へとハロンさんの腕が伸び――


「うひゃうっ!?」

「くっ、ミスったっす……! んー……けど、ある意味収穫はあったっすね? この成長途中の小振りで柔らかいけれど固い感触が何ともま――――「ふんっ!!」――ほぐぇ!?」


 ドスッと鈍い音と感触が手に伝わり、へんつぶれたような声が耳に届き……ハロンさんがテーブルへと突っ伏した。

 突っ伏したハロンさんの頭には、漫画の表現で良く見かけるようなでかいタンコブをこさえて……。

 そして、恥かしさのあまり多分顔が真っ赤になっているのを感じながら、息を荒げているオレの手には逆手に握られたボトルがあった。当然、ハロンさんが飲んでいた酒瓶だ。

 要するに、ボトルを奪おうとしたハロンさんの手が、ボトルの代わりにオレの胸を掴んでしまい、いきなり触られたショックで気づいたらオレはボトルを振り下ろしていたのだ。


「……あ、あはは…………」


 戸惑いや驚きの感情が宿った視線が一斉にオレへと向き、オレは愛想笑いを浮かべつつ……ジリジリと部屋の入口へと摺り足で移動を開始する。

 背中に回した手に扉のノブが当たるのを感じ、それをゆっくりと回すとオレは――


「ちょ、ちょっと外の風を浴びてくる! それではサラバダーのサラダバーー!!」


 一気に扉を開けて、飛び出すようにその場から逃げ出した。


 ――本当、どうしてこうなった?


 そう思いながら、オレは甲板で風を浴びて熱を冷ますのだった……。

残念、バッドコミュニケーションでした!


ちなみにどろりとか味が濃い理由としては、還元したり酒と割ったりするためということにしています。

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