85日目 義母の納骨式と一区切り
9月24日(木)
午前7時頃
空き缶を集め袋に入れゴミ置き場に行くと昨日は出さなかった燃えるゴミが散乱していた。
ここの住人はほんと…
ゴミ当番なので綺麗にゴミを集め買い物袋に入れカラスに突かれぬ様柵に吊るした。
明日、私のゴミ袋と一緒にしよう。
家に戻ると手を洗い朝食にする。
ウチの家庭菜園で採れたトマトを煮込んで作ったトマトペースト、これをワカメとブイヨンを足しスープに仕上げた物とご飯にごま塩を振っただけの物を妻の仏前に置く。
妻に「いただきます」して食べる。
何とも味気なく美味しくなかった。
ごめんなムッチ、こんな物で許してくれ
その間、サブスクで好きなアニメを見る。
全てに興味は失せていたがこれだけは見ていたアニメだ。
異世界転生物だがシリアスに描かれたそれは3シーズン目の佳境に入っていた。
ある邪な神に騙されて主人公の妻は殺されてしまい静かに眠る妻の前で主人公が泣き崩れる場面に出会す。
普段の私ならよく描かれていると感心する場面だが、今の私には刺さり過ぎてぼろぼろ泣いてしまった。
その後、主人公は自暴自棄になり生きる事に希望を無くし荒んでいく。
なんだよ…今の私じゃないか
朝からこんな場面を見させられるとは思ってもいなかった。
アニメで泣くのは世界名作劇場だけで結構なのに…
午前11時頃
通信会社のETC部門から電話が来た。
そう言えば妻名義のETCを止めようと思い新しく私名義で作る手続きをしていたのを思い出した。
話しを聞くと既に私名義のETCは作られているらしいのだが…?
「それって本当に私名義なんですか?」
再び同じ質問をするも間違い無く私名義との返答を頂いた。
何故こんな質問をしたのか詳しく事の経緯をオペレーターの人に説明する。
私「現在使用のETCは二ヶ月前に亡くなった妻名義のETCカードを使っていまして〇〇銀行なんですが、こことは関係ありませんよね」
オペ「あ、あ、それは…あ、はい関係はございません」
明らかに声色が変わった。
私「なるほど…あ、そう言えば妻が生前別の場所に…」
私はその声色に敏感に反応したらしく途中で胸が苦しくなりブワッと泣き出す。
私「あぁ、すびません…何か分がった気がします」
もう電話元で泣きが止まらない。
オペ「あぁぁ、お辛い中なのにほんと申し訳ありません」
私「いえ、謝らないでください。今日は泣かないと思ってたんですが…ダメですね」
私「心当たりを探してみます」
多分生前の妻が私名義で契約したんだ。
オペ「あぁ、もしですね無くしてしまっていたら再発行手続きがありますのでそちらをご利用ください」
私「はい、ごめんなさい…ありがとうございました」
オペ「いえ、お辛い中なのに気がつきませんで申し訳ございませんでした」
オペレーターさんに気を遣わせてしまいほんと申し訳なく思った。
ダメだな私は…まだ優しさに慣れない。
午後2時頃
義母のお墓にお供えするせんべいを買いに妻お気に入りのせんべい屋を訪れた。
ここのせんべいは煎餅通の私も認める程の美味しいせんべい屋でとても美味しいのだ。
一枚一枚個包装で売っているので甘い物系は義母に三枚、醤油系は妻に三枚、包装されたおせんべい二袋は兄さん家族に包んでもらった。
妻にお供えしたら私も食べる為の醤油味なのは分かって頂きたい。
義母の納骨式
午後2時45分
目的のお寺さん到着、既に兄夫婦と長男が来ている様で駐車場に車が停められていた。
そう言えば結婚したての頃にこのお寺に来た事がある。
妻の養子先の母(祖母)の納骨式だったと思う。
妻に無理矢理連れて来られた事もあるが当時の私は生きる事に必死だったせいか、この手の悲しみが全く分からなかった。
勿論私から見れば遠い親戚筋で気持ちが入らないのも当然だが、悲しみより早く終わらないかと思っていた程だ。
今にしてみれば何とも失礼な話だ。
然し、今の私には墓と言う媒体がどれ程大切な物なのかを身を持って理解した。
故人の生前を慈しみ幸せだった日々を思い起こさせる。
また墓は唯一故人と繋がる天国との通信手段であり大昔から連なる媒体である。
今日は義母の葬儀だ。
是非妻との天界の暮らしについて聞いてみる事にする。
お寺の窓口に入ると既に兄夫婦と長男が座って待っていた。
挨拶を済ませ、義母のお供えおせんべいと兄さん家族のせんべいを渡した。
程なくしてお坊さまも見え、どうやら納骨式が始まるらしく本堂に移動する。
お経が読み上げられる。
手を合わせ目を瞑り義母に冥福を祈る。
お坊さまの透き通る様なお経の中、心が静まる様な深まる様な何と言えぬ感覚に浸る。
「お母さん、そちらで幸せにやっていますか?」
「むつみはきっと隣で見守っているのでしょうね」
「どうか其方でお幸せににお過ごしください」
「ムッチ、お母さんと二人でとても幸せでしょ」
「私が其方に行くまで待っててね」
すると二人の会話が聞こえてくる気がした。
言葉と言うより心で感じる様な高い階層からの声、何となく自分視点で想像する…
義母「〇〇さん(私の名前)元気なの?」
義母「無理しないでね、ちゃんと食べてるの?」
義母「しっかり食べるのよ」
妻「〇〇ち(私の字名)ダメだよぉちゃんと食べないと今日の朝食はご飯お茶碗一杯だけでしょ」
妻「身体がもたないよぉ」
妻「こっちは大丈夫だから元気を出すんだよぉ」
何だよ二人して食べ物の話ばかりして…
しかも妻の口調で話していた。
鼻がグズる。
鼻を啜る。
暫くするとビジョンが頭の中に浮かび上がる。
本堂が俯瞰になるのを感じた。
私、兄さん、姉さん、長男の後ろ姿が見える。
カメラがドリーイン(俯瞰アングルから被写体に寄る)する様に中心に焦点が集まっていく。
あぁこれはお母さん視点かなと思った。
兄さんの後ろ姿が大きくなる。
やっぱり兄さんを見ている。
お母さん心配なのかな
話し声は聞こえない。
でも何となく視線で愛情を感じた。
私は霊能者でも怪しい類の宗教家でも無い。
昔からこういった類いの不思議ちゃんで生前の妻も良く知るところだ。
でもこの話を兄に言うとまた不審がられるので言うのはよそう。
長いお経が終わり納骨の儀が始まる様だ。
皆でお墓まで移動する。
お墓に行くと墓守さんが義母の骨壷を墓に埋蔵し花も供えてもらった。
兄が火の入った線香を墓の前に置く。
お坊さまのお経が始まり其々お祈りを済ませるとお経も終わった。
兄は目頭が熱くなっていた様で少々俯いている様だった。
最後に墓守さんに兄が納骨代を渡し墓石に名を彫るよう注文していた。
その後、ちょとした空きスペースで姉さん中心で井戸端会議となった。
「〇〇ちゃん(私の事)ちゃんと食べているの?」
先程聞いた様なセリフがここでも…
「日に日に痩せている様な気がするのよね」
一応食べている旨は伝えたのだが、ほんとご心配させてしまい申し訳ないです。
程なくして解散となる。
これで妻が関係する葬儀関連は一通り区切りを迎えた。
もうすぐ妻が亡くなって3ヶ月が経つ。
長い様でもあり短くも感じる。
いっぱい泣いたなぁ
生まれて初めてこんなに辛く苦しく寂しい長い長い涙の日々を経験した。
でもまだまだ涙は一杯流しそうだ。
初めの頃と比べれば落ち込みも少なくはなったが未だに無くなる気配は無い。
私自身はこの悲しみを無くしたいとは思っていない。
それはこの悲しみこそが妻への愛情の裏返しと思っているから、私はまだ妻に甘えたいと心の何処かで思っているのかもしれない。
役目を全うしあの世に行けば妻に甘えるのが私の夢であり希望だ。
この際だから天国に行ったらやりたい事リストでも作ろうかな
お母さん、いつまでもむつみとお幸せに




