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大好きな妻と歩む道  作者: ゆき


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81日目 動画から隠れた妻を探す


午前4時頃

今日は朝から雨だ。

寝ていてもポツポツと雨音が聞こえる。

起きて外を眺めると暗がりの中窓ガラスに雨粒が当たっている。

この三週間はほとんどが雨か曇りだった。

そして今日から変なコースを通る台風の影響でこれから雨が強くなるらしい。

気が滅入る。


先日買った炊き込みご飯の素で炊き込みご飯を作ろうと思う。

三合炊きだが二合にする。

生前の妻は白米を決まって二合で炊いていた。

歳をとってそれ程食べられなくなったのでこれがウチの日常だった。

でも妻が亡くなって一合炊きでも多くなり、今回炊き込みご飯で二合を要求されている。

何日で食べ切れるのだろう?


考えるのは止めよう。

米を研ぎ、いつもより水を調整し炊飯器にセットする。

簡単な物だ。

その間に糠漬けを出し次の野菜を入れ、味噌汁を作り、サラダも作った。

でも炊き込みご飯は時間が掛かる。

妻の仏前に朝食を並べ一服つくとやっと出来上がる。

炊飯器の蓋を開けてびっくりする。

釜全体に炊き込みご飯がいっぱい膨らんでいる。

三合炊き用の小さい炊飯器とはいえこんなに膨らむ物なのか?

記憶を遡ると確かに妻が作った時もこんな感じだったかな

マジか…食べきれんぞこれ

まぁいざとなったら冷凍庫に一食一食切り分けて保存するか


妻の仏前に炊き込みご飯を備え頃合いを見て「いただきます」をする。

たまにはいいな炊き込みご飯。

たまにはだけどね


「うん、美味しい!」



午前10時

妻の動画をチェックする。

前にも話したが以前キャンプの動画配信者だった事もあり元動画の画像に妻の痕跡がないか調べていた。

ここ10年近く妻は写真に自分が写るのを拒んできた。

私としては妻の痕跡が欲しい。

そこで2、3年前にはなるが動画配信の元動画でたまたま入ってしまった妻を探そうとなった訳だ。

とは言え、動画でも映らないのが条件の人出しさせない映像。

どの程度妻が隠れているか分からない。


以前、他に時間を取られ動画捜索は一旦中止していたが、今日やっと捜索続行出来そうだ。

可能なら動画から切り抜き写真として持ち歩きたいし、内容が良ければ印画紙に印刷もしたい。


では開始しよう。

カメラは3つ〜5つあり平均4つで構成されている。

妻が知らぬ間に入っているとすれば車載カメラが一番確率が高い。

いつも忘れて電源OFFしない事が多々あったからだ。

今回もまずはそこから調べてみよう。



「あームッチ発見!」

「あらっブレてる…」

「ダメダメそっち行っちゃダメだって、あー消えた」


何個かこんな事もあったが遂に来た!


「あぁムッチだ…あの時のムッチがいる」


感動して潤ってなった。

亡くなる少し前の妻がそこにいた。


「良かったよ…ほんと良かった」


後は妻に文句言われない様に光の加減でシワが目立たない角度と綺麗な顔立ちを探す。

結構難しかったが何カット(写真に切り取り)かはこの一つの動画で確保出来た。

よし、この調子で探すぞ!


途中料理動画も探す。

妻は料理担当なので巻き戻したり進めたりと念入りに見る。

妻自慢の逸品、パエリアを見た時にブワッと涙が溢れた。


「あぁ食べたいなぁー美味そうだなぁ」


堪らなく懐かしく物凄く恋しくなった。

もう二度と食べられない妻の手料理。

それを前にして泣かない方がおかしい。

だから動画配信を見なかったんだ。

この手料理の数々を見て絶対胸が痛くなると思っていたから


やっぱり見ていると苦しいよ


でも我慢して探す。


「いた!ムッチがカメラを横切った」


今撮っている全体を映すカメラは画質が悪くあまり綺麗に撮れてはいないが一応切り取っておく。


自慢のトマト煮込み料理で二人の会話が気になって聴いてみる。

顔は入らないが料理をしながら妻と私が会話している。

場面は、私がニュース動画を見ているらしいところだ

私「今さーふたご座流星群がビュンビュン流れているね」

妻「今!、じゃー見ようと思えばビュンビュン流れているんだ」

私「これ何処だろ…アラスカか」

妻「アラスカかぁーアラスカには勝てないね」

勝てないねって何だ?ちょっとクスッときた。

どうってことない日常会話が堪らなく懐かしく思えてウルウルしながら何度も何度もリピートする。


場面はベーコン料理が完成したところを映した動画にも会話があった。

妻がカメラに自慢のスモークベーコンチーズを見せるシーンから始まる。

私「オッケーでーす」

妻「オッケーでーす」

撮影が終わり

あまりに美味そうだったのか

私「つまんでみますかー」

妻「つまんでみる?ちょっとまってね」

私「うん」

妻が箸を探して私に渡してくれた。

私「ジャジャジャーン!どれにするかな」

美味そうにスモークされたベーコンチーズを選んでいる。

私「コレでいこうかな」

妻「うん」

妻も箸を伸ばしベーコンに触れる

妻「中はこんな完全に…」

ベーコンがコロンと傾いたらしく話しが中断

妻「ふーん」

何か言い掛けていた気がする。

私「これをちょっとつまんでみるね」

妻「私もつまんでみるね」

マイクが近いのか私のモグモグ音が聞こえる。

妻「あっははっ」

妻のベーコンの一部がこぼれて笑う。

私はまだモグモグしている。

私「うま〜い!」

妻「お酒のおつまみじゃないですか」

私「うーん」

私「これ、めちゃくちゃ美味くない」

妻「これは良い方法かもね」

多分メスティン(キャンプ用コッヘル)の中にスモークチップを入れ網を敷きその上で具材を調理する方法を彼女は「良い方法」と言っているのだと思う。

私「これは旨い!」

次のベーコンに手を掛ける。

酒を飲み飲みながらだったのか映って無いので分からないが多分飲んでいると思う。

私「これほんと旨いわ〜」

妻「無造作に乗せただけなんだけどね」

私「これ相当旨いよ」

聴いていてあまりに私が旨い旨い連呼するので段々イライラしてきたが、言って良かったと次の妻の一言で変わる。

妻「ほんと〜!」

明らかに妻の声が張りのある喜んでいる感じに聴こえた。

私「これはお酒がススム君だ」

妻「あはははっ」

妻がビールを私に渡す。

私「早いです。もう2本目」

私「こりゃ〜ほんと旨いよムッチー」

私「あ、動画回してるのにムッチって言っちゃた」

妻「うふふっははっ」

私「ここは使えないね」

あぁいいなーこれぞ日常だよ

またブワッと涙が溢れ出し懐かしの貴重な会話があった事に嬉しさで込み上げてくる。

さすがに胸が苦しくなり一旦動画を止め休む事にする。


再開

私「美味しいね」

妻「うん、美味しい」

私「またムッチのヒット作が生まれたね」

妻「うーん、生まれたね」

私「ムッチのヒット作は写真に撮っとけば良かったね」

妻「ほんとだね」

ほんとだよ!

妻「なくなっちゃったねーふっふあはははっ」


幸せだったな…


ただ私ばかり喋っているのが気になるが、そもそも妻の家系は義兄もそうだが無口家系なのだ。

付き合った当初からあまり喋らなかった。

事務的に話す場面はしっかり話すが普段からウチではこんな感じなのだ。

なのでこれがウチの日常だった。

あぁこんなにも幸せだったんだよな

嬉しいな

声が聴けるってこんなにも嬉しいものなんだ。

出来れば顔出しで声があれば良かったけどあるだけ良かった。


画像切り抜き写真の作業再開!

テントを立てるシーンに妻中心で映っていた。

そう言えばタープをテントにするステルス張りに挑戦したいって言ってたな

妻が珍しく動画撮影で自分から提案した唯一のタープをテントにする動画だ。

でも顔出し出来ないのでマスクにフードまで被っている。

一杯妻が映っているのに切り抜きが難しい。

目だけだよ妻らしきところは

他にもそんな感じでマスクをしている物ばかりが出てきた。

まぁ無いよりましか…


20枚ぐらい切り抜けたと思う。

中々良い感じだ。

早速、スマホに送る。

スマホの写真に保持を確認。

取り敢えずこれで完了かな


ほぼ隠し撮りなのでカメラ目線が一枚も無いがまぁここ最近の妻が感じられたので良かったと思う。

とは言うものの笑っている写真は正直欲しかったな

今更悔やんでも仕方がない。

良い方に考えよう。

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