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大好きな妻と歩む道  作者: ゆき


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78日目 妻の上着を根こそぎ洗う


9月17日(木)

深夜1時半に目が覚める。

トイレを済ませルイボスティーを飲みまた寝床に戻った。

ふと頭に浮かぶ現世のしがらみを思い出す。

一昨日の大手銀行の口座を作った際に言われた今後の資産運用につての事が頭から離れない。

妻の守った資産を眠らせて置くのは勿体ない。

でもどうすればいい?

何を選べば正解なんだろうか、全く見当もつかない。

困ったな、どうしよう、どうすればいい?

妻の布団を摩り


ねぇムッチ、どうしたらいいかな?

俺、何も分からないよ

下手に投資してムッチがせっかく増やした資産を無駄にしそうでとても怖いんだ

ごめんなムッチ、みんな任せっきりにして

ダメだな俺は…

ほんと情け無い


気持ちも沈み目も潤み出す。

この手の事は海千山千の妻なら問題無い事だが初心者の私にとっては難問である。

ただでさえこの後、相続税(司法書士、税理士、公証人の費用も含む)が控えており金の掛かる事が他にも山積みなのだ。

不安にならない方がおかしいぐらいだ。

今のうちに被害を最小限に留めたいのは必然的だと思う。

なのに…


俺、バカだからな…どうしたら良いのか分からない


もうこうなると目が冴えて眠れない。

仕方なく1階に降りソファーで呆けていよう。


私は昔から寝床で必ず悩む癖がある。

その日に起こった会社の問題を寝床に持ち込みため息ばかりつく情け無い人間だ。

妻には言わなかったが多分察していたのだろう


そんなに悩む事があったの?

私で良ければ話を聞くよ


そんなやり取りをよくしたものだ。

何でも深く悩む癖があり自分でも嫌になる。

そのせいで会社の上司に追い込まれ私は鬱になった。

突然、隣の人間の名前すら分からなくなり仕事をするにも身体が言う事を効かなくなる。

暫く養生していたが完治は望めずそのまま退社した。

その後身体を動かせない私は何とか食べていたが好きな物しか食べられず持病の糖尿病が悪化する事となる。

結果、身体が不自由になった私と言う人間が出来上がった。

その頃には鬱は治っていたが妻に頼らないと生活出来なくなってしまった。

妻の死によりまた食べられない生活となるも質素な食生活のお陰で糖尿病は逆に血糖値が正常値になる。


何とも皮肉な話しだが妻の死が私を健康にしてくれた。

最近ではこの健康は、妻からの贈り物と思う様にしている。

然し私の精神面は妻の神霊治療が難しいのか未だにうじうじと悩む様だ。


午前4時

ご飯を炊き終え朝食の準備を済ませ妻の仏前に並べ「いただきます」をする。

随分と早い朝食をとる。


午前10時半頃

タンスの外に出ている妻の上着を洗おうと思う。

季節によってタンスから入れ替えて置いてある服達。

直ぐに羽織れる様に階段の踊り場に妻が設置したポールに掛けてある。

またタンスに入れれば?と思うだろうが入れ替えるのが精一杯でタンスも満杯なのだ。

これだけは捨てられないそんな上着達。

思い出が詰まり過ぎて見ていて辛かったがどうしても捨てられなかった。

最近やっと見ても涙が込み上げなくなったので良い機会だし綺麗に洗ってあげよう。

洗って、干して、畳んで、衣裳ケースに仕舞うつもりだ。


凄い量だが久しぶりの晴れ間なので全部洗う。

ここ2週間は雨ばかりで洗濯出来る機会も少なかったのでナイスなタイミングだ。

洗ってはパンパン叩いてハンガーに掛けて干す。

その繰り返し4回で何とか2階のベランダに並べ終わる。

今回使用した柔軟剤は妻の匂いのする先日買った柔軟剤を使用した。

洗濯した物に鼻を近づけ匂いを嗅ぐと妻の匂いがほのかに香る。


あぁ妻の香りだ…


やばい…またウルッとする。

柔軟剤を買った時は本当にこれでいいのかと悩みもしたが確かに妻の香りがする。

買って良かった。

さて、改めて眺めると物凄い量だ。

ここまでは順調だったが畳むの苦手な私はちょっと気が遠くなった。


午後3時半

1階を掃除する。

この中腰作業が私の腰にくるので痛くて堪らない。

仕方なくしゃがみ込んで掛けるせいか作業が捗らず1時間も掛けゼェゼェ言いながら終わらせた。


あっ、そうか…ポール部分を伸ばせば良いのか

妻が亡くなってから何度も掃除しているのに今更妻仕様のサイズだと気づく。

私は拭き取り担当で掃除機は棚の上の汚れが目立つ時ぐらいしか使ってなかった。

全然気が付かなかった。

それにしても掃除機は重労働だ。

妻に感謝する。


ムッチ、ありがとう


午後4時半

窓の外を見ると大分お日様が傾いていた。


ヤバい洗濯物取り込まないと!


急いで2階に上がり洗濯物と1階のクッション、毛布類も干していたので一緒に取り込んだ。


次は私の苦手な畳み作業だ。

うっ、ムズイな

試行錯誤して何とか一個畳んでみた。

何とも不格好である。

やり直しだな

それ以前にアイロン掛けた方が良いのでは?と思う服もちらほらあったがそれは見なかった事にした。


ムッチ、ごめんな


何とか形になる方法を見つけ統一して畳み出す。

ある服を見て手を止める。


あ、これ懐かしいな…


頭の中で過去の記憶が駆け巡る。

妻が着ていた記憶がある。

どの場面なのかは思い出せず懐かしさと記憶の欠けた虚しさにブワッと込み上げて来る。

ここ10年の写真でもあればな…ほんと悔しい。

やっぱり作業的に見入ってしまうね

作業時間が鈍化する。

既に外は夕焼けになっており畳み作業の手を止め一旦各部屋の雨戸を閉める。

畳み作業再開!

ざっと20枚は畳んだかな?

それらを透明の衣装ケースに入れ作業を完了した。


これで取り敢えずは外に出ている妻の服は無くなった。

タンス、押し入れにはまだまだ一杯入っているがそれらは気が向いたら確認してみよう。


妻の服が一先ず決着がついた。

やはり服だけは妻の容姿を模った物だけに染み染み見ていると辛くなる。

タンス、押し入れ、衣装ケースに入って入れば目にする機会も少ないのでその容姿で思い出す事も無くなるだろう。

但しこれ以上捨てたり、売ったりはしたくは無い。

思い出はいつ欲しがるか分からないし、捨てたら妻が可哀想に思えるのでこのまま目の届かない所に居てもらおう。


どの道私が死んだら全て燃やされるか産業廃棄物行きになると思う。

それまでの期間限定だ。

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