エピローグ 次の一音
「――詠瀬真名」
フォーメーション表を受け取り、真名は上から順番に名前を追った。
一列目。
二列目。
三列目。
自分の名前を見つける。
「……ここか」
今回は、フロントではない。
少し悔しい。
また前に立ちたい。
いつか、もう一度センターにも。
その気持ちは、ちゃんとある。
でも――もう、後ろから自分の名前を探すことはなかった。
「真名」
まい
莉緒が覗き込む。
「どうだった?」
「何が?」
「位置」
「見れば分かるでしょ」
「気持ち!」
真名は少し考えて、笑った。
「次は、もっと前に行きたい」
莉緒も笑う。
「うん。真名はそれでいい」
「何その上から目線」
「ぺぃぴー目線ですぅ」
「一番信用できないやつ」
◇
レッスン中。
「ごめん、ここ分かんない」
一人のメンバーが移動で止まった。
真名は一度動きを見る。
「あ、たぶん一個前の音で動くんだよ」
「ここ?」
「そう。次の子が入ってくるから」
もう一度。
今度は綺麗に入った。
「できた! ありがとう!」
「どういたしまして」
元の位置へ戻ると、楓花と目が合った。
楓花が笑っている。
「何?」
「別に」
「絶対なんかある」
「真名、ほんとによく見てるなと思って」
何度も言われてきた言葉。
昔は、それが何になるのか分からなかった。
今は。
「……ありがと」
素直に受け取れた。
◇
夜。
真名は百人一首を並べた。
読み上げアプリを起動する。
静寂。
息を吸う音。
最初の一音。
ぱんっ。
迷わず札へ手を伸ばす。
「よし」
札を拾いながら、真名は少し笑った。
競技かるたには、決まり字がある。
でも。
自分の未来には、ない。
次にどこへ立つのか。
いつ前へ呼ばれるのか。
何が自分の武器になるのか。
まだ、全部は分からない。
だからこそ。
もう、読まれるのを待つだけにはしない。
見る。
聞く。
考える。
そして――
自分から手を伸ばす。
真名は札を戻し、もう一度構えた。
次の一音を待つ。
今度は、自分から前へ出るために。




