第十九話 忍び寄る影と、十五歳の決意
その日を境に、村の中での私の立場は少しずつ変わり始めた。
ライナスは私と口をきかなくなり、遠くから気まずそうにこちらを伺うようになった。シルヴィアは私を見るたび、羨ましさと遠い存在になってしまった寂しさを交ぜたような視線を投げてきた。 そして、義父バルトロと義母マーサも、私の魔法の才能を知ると、驚きとともにどこか戸惑いを見せるようになった。
「エレナ……お前が魔法使いになれるほどの才能を持っているとはな。だがな、魔法使いの道というのは、お前が思うほど華やかなものじゃない。過酷で、危険で、血生臭い世界だ。村長家を継いで、この村で平和に暮らすほうが、絶対に幸せなんだぞ」
義父は心配そうにそう言って私を諭した。 義母も「街の魔法学校はお金もかかるし、女の子一人で旅なんて……」と涙ぐんだ。
二人からの温かい愛情は心からありがたかった。前世で孤児のような生い立ちだった私にとって、この二人は本当の両親と同等の存在だった。 だが、一度芽生えてしまった「外の世界への好奇心」と「魔法への探求心」は、もはや抑えきれるものではなかった。
(まあ、急いで飛び出す必要もないか。あと二、三年かけてじっくり魔力を蓄え、独学でさらに高度な魔法を覚えてから、十五歳になったら正式に旅立とう)
私はそう決め、昼は村の手伝い、夜は魔法の鍛錬という二重生活を続けた。
そして、月日は流れ——私が十五歳になる冬がやってきた。
その年の冬は、近年稀に見る大雪だった。 連日連夜の猛吹雪により、レーベン村は外界からの街道を完全に遮断され、孤立した。 備蓄された食料や薪は徐々に減り、村人たちの顔に不安の色が深まっていく。
だが、本当の「悪夢」は、雪ではなく、山奥から降りてきた。
冬の夜。村全体が静まり返っていた丑の刻(午前二時頃)。
ドドドドド……ッ!
地鳴りのような不気味な振動が、村長家の屋根を揺らした。
「な、なんだ!? 地震か!?」
バルトロが跳ね起き、角灯を手にとる。 私も即座にベッドから飛び出し、旅服の上にコートを羽織った。胸の奥で、魔力回路が戦闘モードへと即座に切り替わる。
外から、悲痛な叫び声が響き渡った。
「魔物だぁぁぁッ! 山から魔物の群れが降りてきたぞーッ!」
「角鹿の変異種だ! 柵が破られた! 逃げろーッ!」
悲鳴と、家々が破壊される重い音が吹雪の音に混ざって轟く。
(チッ……こんな大雪の夜に襲撃かよ! 運の悪い!)
私は心の内で毒づきながら、急いで広間へ走った。 そこには、恐怖で震えるルーカスと、義母マーサがいた。
「エレナ! どこ行くの! 危険よ!」
「お母様、ルーカスを連れて奥の地下蔵へ隠れていてください! 私が外の様子を見てきます!」
「ダメだよお姉ちゃん! 僕も行く!」
十二歳になったルーカスが、前述の薪割り斧を抱えて立ち上がった。
「バカ言わないで! あなたはここで二人を守るの! それがあなたの仕事よ!」
私が強く一喝すると、ルーカスはビクッと体を震わせ、悔しそうに唇を噛みしめて頷いた。
「……うん。分かった……! お姉ちゃん、絶対無事で戻ってきてね!」
「ええ、約束するわ」
私は義父とともに、吹雪が吹き荒れる村の広場へと飛び出した。




